ドクターX 第5期 最終回感想|私が強く共感した大門未知子のセリフ

ドクターXでは、地位や名声のある医師はいつも愚鈍であり、アウトローな反体制の実力主義者はいつも正しい

これは最終回まで徹底されていた。

せいぜい3人いればできるようなオペに大勢で入ろうとした医師たちに、術後管理を怠るなと正論で注意した蛭間(西田敏行)が、

「クソジジイ」

と怒鳴りつけられるほどである。

これを見てファンはスッキリしているのかと思うと、相変わらず医療者を「微妙な気持ち」にさせてくれるドラマだ。

ついでに報道ステーションの冒頭で軽くドクターXに触れるのも、やっぱり「微妙な気持ち」にさせられるのだが、それはおいておこう。

 

今回は、進行食道癌後腹膜肉腫という、まれではない二つの病気が登場した。

いずれも同じ病気の人がたくさん我が国にはいると思われ、これを見てどんな気持ちになるのか、消化器を専門とする私は少し不安になる(いずれも消化器外科医の担当する病気)。

もちろん誰しもドラマと割り切って見ているのだとは思うが、一応いつもどおり、

実際はどうしているか

は解説させていただきたいと思う。

つまり、

進行食道癌や後腹膜肉腫でも、腕の良い外科医なら手術で助かるのか?

進行した後腹膜肉腫は、海外でオペを受ければ助かる可能性があるのか?

といった疑問に真面目にお答えしてみようと思う。

 

今回のあらすじ(ネタバレ)

日本医師倶楽部会長の内神田(草刈正雄)は、ステージ4aの進行食道癌に侵されていた。

癌は大動脈に広く浸潤し、大門(米倉涼子)でなくては手術できない。

だが内神田はその立場上、東帝大病院と敵対関係にあるフリーランス外科医の手を借りるわけにはいかないと手術を拒んでいた。

そこで執刀を指名されたのは西山(永山絢斗)。

だが大門は内神田の病状を知り、自分しかオペできないと主張する。

内神田のオペを絶対に失敗させるわけにはいかないと考える蛭間は、西山が執刀したことにして大門がオペを行う手はずを整えたのだった。

 

ところが大門本人の身体にも重度の病気が潜んでいたことが発覚する。

大動脈に浸潤するほど進行した巨大な後腹膜肉腫であった。

すでに腹部に強い痛みを訴えるほどであり、師匠の神原(岸部一徳)からは、すぐにボストンに飛んで優秀な外科医たちの手術を受けるよう指南される。

しかし大門は患者ファーストの精神から、オピオイド(麻薬性鎮痛薬)を使いながら手術を行うことを決意する。

そして手術当日、痛みを押して現れた大門は内神田のオペを見事成功させ、その直後に卒倒する。

これほどの苦境にも負けず、患者に全力を尽くした大門に感銘を受けた東帝大病院の外科医たちは、全力で大門を救うことを決意。

執刀に名乗りを上げたのは腹腔鏡の魔術師こと加地(勝村政信)だったが、大門が執刀を指名したのは西山だった。

大門を尊敬し、これまで間近で大門の腕を見てきた西山なら自分を救えると判断したからだ。

結局西山は大門さながらの見事な腕を見せ、大動脈合併切除、人工血管置換を行い、大門を救命したのだった。

 

進行食道癌は実際はどう治療するのか?

食道癌は、私たち消化器外科医にとっては極めて厳しい、予後の悪い癌の代表的存在である。

リスク因子はアルコール喫煙

すなわち食道癌は生活習慣に起因したものが多い

内神田が患っていたステージ4の食道癌は、5年生存率が12.2%と、とにかく予後が悪い。

外科医の腕の良し悪し以前に、手術以外の治療でどこまで攻められるかを考えるべきステージである。

ステージ4の食道癌に対しては、どれほど腕の良い外科医が果敢に取り組み、仮に切除できたとしても、再発する可能性が極めて高い

技術的に取り切れても、これほど進行していれば目に見えない癌細胞が胸の中に残る可能性が高いからである。

そこでまず、術前治療として化学療法と放射線治療を組み合わせ、腫瘍の縮小を目指す

これが世界的な標準治療となっている。

 

もし腫瘍がうまく縮小し、手術で目に見えないレベルまで全て取り切れる、という勝算があれば初めて手術を行うことになる。

逆に術前治療を行っても手術の勝算がなければ、絶対に手術を行ってはいけない

患者さんの身体にいたずらに傷をつけ、寿命をさらに短くするからである。

 

技術的に手術で取れない癌などほとんどない

今回の症例でも、大動脈に浸潤しているならそこを合併切除し、人工血管で繋ぎ合わせれば良い

だが問題は、これが患者さんの寿命を延ばすことに繋がるかどうかだ。

今回のようなケースだと、いきなり手術を行っても癌をミクロのレベルまでゼロにできる可能性は極めて低いため、必ず短期間で再発する

だがこのような食道癌の手術は患者さんに与える体力的な負担が非常に大きい

日常生活に復帰するのに月単位の時間がかかる。

もしこの体力の落ちた時期に再発しても手術は不可能抗がん剤治療や放射線治療ももちろん不可能

目の前の癌に対して治療の手立てを全く失うことになる

患者さんが衰弱していくのを、手をくわえて見ているだけになる。

外科医の自己満足の手術が患者さんの命をかえって縮めてしまう。

これほどに外科医として歯がゆく、悔しいことはない

癌を残さず確実に取り切れる、という状況でなければ手術に挑んではいけない理由は、以下の記事でも解説しているのでご覧いただきたい。

ステージ4の胃がんや大腸がんはなぜ手術できないのか?

 

大門の後腹膜肉腫もまた、大動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈に浸潤する巨大な腫瘍だった。

腹腔動脈は、胃や肝臓に向かう太い血管。

上腸間膜動脈は、十二指腸や膵臓、小腸、大腸の一部などへ向かう血管である。

いずれも癌が浸潤すればほとんどのケースで「インオペ(手術不能)」

さらに大動脈に浸潤すれば、外科医が決して手を出してはいけない

理由は同じだ。

やはり患者さんの命を逆に縮めてしまうからである。

よって同じく治療は、化学療法や放射線治療ということになる。

ただ後腹膜肉腫は、化学療法や放射線治療が効きにくい。

残念ながら治療をしても予後は厳しいのが現実だ。

 

いずれの腫瘍も、ドラマのように外科医が腕を磨いて治せるのならどれほど良いか、と思う。

現実は、患者さんにとっても外科医にとっても、はるかに厳しく、辛く、残酷だ。

 

ちなみに、欧米に行けば日本で切除できない癌を切ってもらえるか、というと全くそんなことはない。

消化器領域では日本人外科医は世界トップクラスである。

日本人は手が細くて器用だし、肥満体ばかりの欧米に比べると痩せた患者が多い日本では外科医のトレーニングがしやすい(やせた人の方が手術しやすい)。

少なくとも私なら、せっかく日本にいるのに欧米人外科医の手術を受けたくはないと思う。

ちなみに同じ理由で、消化器外科医が海外で修行して日本に鳴り物入りで帰ってくる、というケースはほぼありえない

母国で最良のトレーニングが受けられるからである。

広告

 

私が共感した大門のセリフ

今回の大門のセリフで私が非常に共感したのは、

「どんな医者でも患者になってみるべきだね。患者になるって意外と怖い」

だった。

確かに、私自身が全身麻酔手術を受けて初めて気づいたことはたくさんあった。

まず全身麻酔の前はものすごく怖い

薬で突然意識を失うわけだから怖いのは当たり前なのだが、実体験のなかった私はそれまで、ニコニコして患者さんに「大丈夫ですよ!」と言っていた

そして、術後はしんどい

全身麻酔手術の翌日など、身体は重いし歩くのも辛い。

私はそれまで患者さんには、

「どんどん歩いてください。リハビリが大切です!」

ややスパルタな指導をしていた。

さらに、ナースコールを押すのは結構気を遣う

看護師さんが忙しい中、こんな些細なことでコールして良いのだろうかと思ってしまう。

それまでは患者さんに、

「何かあったらナースコール押してくださいね!」

と軽く言っていたのだが、そう簡単でもないことに気づいた。

そして最後に、患者は医師にあまり本当の気持ちを伝えない

こんなことを言うと迷惑ではないか?

ある程度痛みは我慢した方が良いのではないか?

と気を遣うので、正直な気持ちは伝えにくい

おまけに担当医師は忙しそうで、話したいことがたくさんあっても一部しか伝えられない。

よって術後は毎日不安である。

 

私がこの体験を経て、外科医として大きく成長したのは言うまでもない

普段はやや傲慢な外科医である大門も、今回の入院、手術を経て、腕だけではない患者思いの外科医に変わっていくのではないかと勝手ながら想像している。

 

というわけでドクターX第5期の解説はこれにて終了。

これほど解説に苦心したドラマもなかったが、少しでも誰かの役に立てていれば幸いである。

 

ドクターXをもう一度見たい方、見逃した方はauビデオパスで!今なら30日間無料です。

16 Comments

海老名たかし

はじめまして。
いつも先生のブログを興味深く拝読しております。
蛭間院長が何を思っていたかは別としても、彼の「術後管理を怠るな」という発言自体は間違ってはいないのではないかと感じていたので、本記事の先生の指摘でスッキリしました。
また、ドクターxは大門未知子先生が手術すれば万事解決みたいな作りになってますが、リアルな世界での外科治療の難しさを知ることができ、大変勉強になりました。
また新シリーズが放送されることになった時には、ご多忙の身とは思いますがぜひとも解説をお願い致します。

返信する
keiyou

海老名たかしさん
ありがとうございます!
お名前を拝見して思わず笑いました笑
蛭間院長は大門が嫌いなので、心情としては、外科医みんなの関心が大門に向いているのが気に食わない、でしょうね。
リアルな世界では、癌の治療は「集学的治療」といって、手術と他の治療をどう組み合わせるかが大切ですね。
まあドラマの世界ですので、私も楽しんで見ていましたが・・・
今後もぜひ当ブログをお楽しみください!

返信する
ソセゴン

今期の全話解説とても面白かったです。ありがとうございました。
質問ではないですが…
ドクターXでは、やたら(末期)がんの外科的手術での根治が強調されていた気がします。
だからといって、先生が書かれたような、内科的治療をタラタラと放送するのも
ドキュメンタリーではないのもどうかと思いますが…。
実際には「寛解」のようなポジション。高リスクの手術で根治出来る出来ないではなくて、とにかく安全圏の治療で「マシ」な状態を維持するみたいな場面(?)がおざなりだったなぁと思います。(ドクターXにマジレスするのも野暮ですが笑) 

長文失礼しました。

返信する
keiyou

ソセゴンさん
ありがとうございます!楽しんでいただけて光栄です。
おっしゃる通りですよ。
ソセゴンさんは以前「治ると言うよりは、病態を抑え続ける」という風にコメントで書いていらっしゃいましたね。
これは非常に的を射た表現で、癌治療においてはこれが全てです。
また、近年進行した癌でも治療成績が上がってきているのは、まぎれもなく内科的治療の発展(特に化学療法)によるものです。
いかに手術以外の治療を組み合わせて病勢を抑えるか、これが大切なんですね。
ただおっしゃる通り、これをだらだらとドラマにしても面白くもなんともないでしょう笑
手術でスッキリ、ドラマであればこれでOKだと思います。

返信する
かなちゃん

私が非常に共感したセリフ 先生と全く同じでした‼️ そのシーンに ジーンときちゃいました。

そして もう一つ 大門みちこ先生が 師匠のアキラさんから教わった教訓 オペ中に癌性疼痛をこらえながら話し 完全なオペを目指して懸命に仕上げてるシーン 感動しました。

大門みちこ先生の実在モデルって いるんでしょうか? ドラマのセリフを考えた脚本家は すごいですね(^^)

返信する
keiyou

かなちゃん
同じでしたか!笑
かっこいいセリフがちゃんと用意されていますよね。
実在モデル・・・いるんですかねぇ笑 ちょっと現実離れしすぎていてわからないですね笑

返信する
YaKo

おはよぅございます。
最終回はまだ見ていないのですが、先に先生の記事を読んでしまいました(笑)

外科医というと手術して終わりというイメージが多いと思うのですが、実際は手術よりも前後の化学療法の方がとてつもなく長く、先生たちも常に新しい治療や患者さんの病態と向き合っていますよね。
いかに副作用が少なくかつ治療効果があり…というように日々パソコンの画像やデータと睨めっこしている姿を見ます。

一つ質問ですが。
大病院の場合、消化器疾患は基本的に内科と外科がありますよね。
手術適応なら消化器外科で診るのは分かるのですが、ガン以外の疾患(クローン病など)で術後もずっと内科的治療を行う場合でも、一度手術をすれば外科で診続けるのですか?
基本的に今後は内科で…というように思いますが、そのあたりは、主治医と病院の方針というようになるのでしょうか?
またガンの場合でも、最初からステージIVであれば消化器疾患なら消化器内科で治療というようになるのでしょか?

乳腺疾患は、内科がないので全て乳腺外科で診ることになりますのでそのあたりどうなのかな?とおもいました。

返信する
keiyou

YaKoさん
あまり期待するとそれほど面白くもないかもしれませんよ〜笑
おっしゃる通りです。間近で外科の医者を診ておられるので、よくおわかりですね。
クローンなど、内科疾患でオペが必要になる場合は、周術期だけ外科で、それ以後内科に戻します。
内科疾患の管理は内科に任せるべきですしね。
一方、手術適応のない悪性腫瘍については、施設によりますね。
外科が診る病院、消化器内科が診る病院、腫瘍内科がメインで診る病院など様々です。
実はこういう内科、外科や科ごとの違いについて記事にまとめていて、すでに完成しているのでまたアップします。
多分、最近科が細分化しすぎてよくわからない、という方が多いと思うんですよね。

返信する
YaKo

おはよぅございます。

さすが先生(笑)
ほんとに細分化されて専門的に診てもらえるのは素晴らしいと思いますが、何科を受診すればよいのか分からない人は多いでしょうね。
医療職である私達でさえも悩むことも多いです。

それと、肉腫について詳しく教えていただきたいです。
ガンは誰もが知っている病名ですが、肉腫は知らない方が多いと思います。
お時間あればよろしくお願いいたします。

返信する
keiyou

YaKoさん
おっしゃる通り、患者さんにとってはどんどんわかりにくくなっていますね。

肉腫は非常に種類が多い割に疾患数が少ないので難しいですよね。
若い方に多い特徴もありますし。またまとめてみたいと思います。

返信する
りこ

こんばんは。
今回、先生の記事で日本の消化器外科が世界トップクラスということを初めて知りました。
それから、肥満の方は手術しにくい。と言うのは聞いたことがありますが何故ですか?

先生が手術されて外科医として成長されたというお話。
私が手術した時に覚えがあることばかりで読みながら苦笑いでした。全身麻酔ではありませんでしたが。
私の場合は、今度は何されるんだろう。という治療を予測できない故の恐怖でした…
医療に関する事だけでなく、一般的な日常の中にも自らが経験してみないと分からない、その人の身になって考えられないことって沢山有りますよね。

コメントにありましたが、私も内科、外科について気になります。
他にも、受診する科は患者として分からないととても困るのでそんな時の対処法なども教えて下さい。

返信する
keiyou

りこさん
消化器外科はおそらく日本と韓国はトップクラスと言って良いと思います。
もちろんアメリカ人外科医が下手という意味ではありませんが、アメリカに行って手術を受けることのメリットは格段ありませんね。
肥満の方が手術しにくい理由はいくつかありますが、最大の理由は内臓脂肪が多いからです。
内臓脂肪に埋もれて、目的の場所に達するのに時間がかかる、という感じでしょうか。
「手術しにくい人=リスクの高い人」についてはまた改めてまとめてみるつもりです。

返信する
りこ

私が聞いた話は、虫垂炎の手術に時間がかかるという話であったことを思い出しました!
手術しにくい人=リスクが高い人
とは合併症などの問題も含むのでしょうか?
楽しみにしています!

返信する
keiyou

りこさん
ご指摘の通りです。技術的な難度だけでなく、合併症のリスクも高くなります。
虫垂炎もそうですし、どんな手術でも肥満は不利なんです。

返信する
かなえ

以前に自身の虫垂炎切除の件でコメントさせていただいたものです。
実はほぼ同時期に父親の食道癌が発覚したのですが、自覚症状が殆どなく、進行状況と年齢から外科手術の選択肢はなく、放射線治療からのスタートでした。病院やお医者さんへの苦情が父親のわがままではなく、一般的なものだとフォローできたことは良かったかなと思ってます。
最短余命6ヶ月と言われながら、一旦は完治し5年の命を永らえました。考えられる最も良い状態で推移したとの事で。2度目の再発で3度目の放射線治療のときは、体力的な問題から病院側も否定的だったのですが、父の強い希望で治療をしていただきました。外科医のお話なので、当然外科上等!という結果になるのでしょうけど、世の中はいろいろですよね…。
私自身は、虫垂炎切除の合併症(そもそも切除前の炎症が原因かもしれませんが)で小腸の一部に癒着部分があり、小腸イレウスという爆弾を抱えているので、外科の先生とは長いお付き合いをしなければならないようです…。

返信する
keiyou

かなえさん
そうだったのですね。
まさにお父様が経験されたように、食道癌は比較的進行していても化学放射線療法で一旦癌がなくなってしまうこともありますし、その効果によって手術をどのように取り入れていくかなどアプローチは多種多様です。ドラマのようにシンプルにはいきませんよね。
シンプルに行くなら私たちも嬉しいですが、そう甘くもないのが癌という病気の厄介なところですから・・・。
虫垂炎は炎症が強い、あるいは術後の縫合不全などで炎症を起こしたケースでは、イレウスのリスクはありますね。繰り返しイレウスで入院され、最終的には手術で癒着を解除した経験も数え切れないほどあります。
どういう人がなりやすいかはいまだに分かっていませんが・・・

返信する

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です