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医療ドラマの「あのシーン」はウソかホントか? vol.6

医療ドラマが放送されると、知人からよく、

「あのシーンはリアルなのか?」

という質問を受けます。

最近では、

「手術が終わった時に手袋を飛ばす外科医はいるのか?」

という質問を複数の方から受けました。

確かにドラマでは、手術が終わった後、外科医がゴミ箱に向かって手袋を飛ばし入れるシーンを時々見ます。

近年では、「A LIFE」の沖田(木村拓哉)や、「白い巨塔」の財前(岡田准一)がやっていました。

 

確かにカッコよく見えますが、私自身はこの仕草をしたことがなく、またこれをやる外科医を一度も見たことがありません。

むしろ意識的にそっと脱ぐことが多いように思います。

手袋に付着した血液や体液が飛び散って危ないからです。

身も蓋もありませんね。

残念ながら、実際の外科医はドラマよりかなり地味なのです。

 

さて、今回も医療ドラマの手術シーンについて書いてみたいと思います。

最近のドラマの手術シーンはかなりリアルなものも多いので、「ありえない」ポイントを書くのではなく、むしろ「なぜリアルなのか?」という観点で書いてみます

 

外科医と器械出しナースのやりとり

執刀医が道具や物品の名前を発声し、器械出しナース(執刀医の横で道具を手渡す役割の看護師、「直介」とも呼ぶ)がすぐに執刀医にそれを手渡す。

外科系ドラマの手術シーンでは定番ですね。

 

ただ、「定番」ではありますが、実際こうしたスムーズなやりとりをするためには、ナースがかなりトレーニングを積まなければなりません。

「外科医の指示した道具を即座に手渡す」

という動作は、簡単なように見えて、実はかなり難しいからです。

 

手術では、「メイヨー台」と呼ばれる台の上におびただしい数の道具や糸、器械が載っています。

器械出しナースは、当然ながらこれらの一つ一つの名前を全て暗記しています

一見似たように見える道具でも、先端の形状が微妙に異なったり、用途が違ったりするため、これらの特徴を全て覚えておかなくてはなりません。

 

しかし、「名前を暗記しているだけ」ではスムーズなやりとりはできません

これに加えて、

「それぞれの道具が台の上のどこにあるか」をリアルタイムに把握しておき、道具の名前が告げられると同時にその居場所に手が伸びる

という状況でなければならないからです。

指示があってから台の上を探していては、あのようなスピーディーなやりとりはとてもできないわけです。

 

さらには、

術野を見て「次に必要な道具は何か?」を常に予想し、必要となる可能性の高い道具をいくつか近くに置いておく(あるいはすでに持っておく)

といった動きも必要です。

手術の流れを把握していなければできない芸当ですが、これが経験豊富な器械出しナースのリアルな姿です。

ドラマで当たり前のように見るスピーディなやりとりを実現するには、それなりのトレーニングが必要だというわけですね。

 

ちなみにドラマでは、外科医が無言で差し出した手のひらにナースが必要な道具を載せる、というシーンも時々あります。

「道具の名前すら言っていないのにナースには必要なものが分かる」という描写ですが、こういうことも実際よくあります。

口頭での指示がなくても手術がスムーズに進む場面が多々あるのです。

 

一方、こうした外科医とナースのやりとりの中で、ドラマではリアルにしづらい部分もあります。

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リアルにできない道具名

手術で使う道具には、それぞれ固有の名前がついています。

医療ドラマでよく出てくるのは、「クーパー」「メイヨー」「ケリー」「コッヘル」「ペアン」といった金属製の道具です。

これらは「鋼製小物」とも呼ばれ、昔から世界中で使われている普遍的な手術道具で、滅菌して繰り返し使うことができます

(ちなみに、これらの名前の多くは昔の著名な医師の人物名に由来しています)

 

一方、手術で使う道具の中には、特定のメーカーが作った使い捨ての商品も多くあります。

近年は、むしろこうした使い捨て(ディスポ)商品の方が大部分を占める手術もあります

ところが、ドラマでは商品名を自由に使用するわけにはいかないでしょうから、ここを完全にリアルにすることは難しくなります。

 

例えば、代表的な商品が「糸」です。

ドラマでは、たいてい一般名の「総称」で呼ばれます。

しかし実際の手術では、膨大な種類の糸を状況に合わせて使い分ける必要があり、固有の商品名を使って区別しているのが一般的です。

 

例えば2019年5月に放送された「白い巨塔」では、財前が、

「5−0モノフィラメント!」

と指示する場面があります。

これは、少し極端にたとえるなら、バーに行って「ウイスキー!」と注文するようなものです。

当然ながら商品名を言わなくては、「どのウイスキーですか?」と返されてしまうでしょう。

手術でも同じように、一般名の「モノフィラメント」ではなく、特定の商品名で指示しなくては「何が欲しいのか」が分かりません。

(ちなみに「5-0(ゴーゼロ)」とは糸の太さを表す記号です)

 

もちろん糸以外も同じです。

「白い巨塔」では、財前が「リニアステープラー」「シーリングデバイス」といった器具を指示する場面もありましたが、いずれも一般名で総称です(これらは私たちが実際によく使う器具です)。

実際には特定の商品名を告げなければ、何を指すのか分からないのですね。

 

これは何も手術シーンに限ったことではありません。

薬の名前を呼ぶ時も同じです。

現場では「ロキソニン」や「カロナール」といった商品名を使うことが多いのですが、ドラマでは「ロキソプロフェン」「アセトアミノフェン」といった一般名が使われるのが一般的です。

(実際の現場でも「一般名を使うべき」と考える医師は多いため、商品名を使うことが「正しい」という意味ではありません

 

このように、医療ドラマのリアリティとフィクションと境界をマニアックに観察すると、なかなか興味深い視点が得られます。

ぜひ、他の記事も読んで、よりドラマを楽しんでみてください。

手術シーンに関しては、以下の記事でも解説しています。

医療ドラマの手術ではよく見るが実際にはあり得ないシーン