胃カメラは、「苦しい」「辛い」というイメージがあるのではないでしょうか?
特に胃カメラを初めて受ける方は、どれほど辛いのか不安で仕方がないと思います。
また、一度過去に体験して辛い思いをしたのにもう一度受けることになって、うんざりしている人もいるかもしれません。
あるいは、ご自身で胃カメラについて色々調べ、「鎮静(眠った状態で行う胃カメラ)」や「経鼻内視鏡(鼻から行う胃カメラ)」といった方法にたどり着いたけど、詳しいことはわからないという人もいるかもしれません。
私は消化器が専門の医師で、自分自身も胃カメラを受けていますから、今回は私の体験談も交えて医師の視点から胃カメラについて詳しく解説したいと思います。
これを読めば、きっと不安はなくなるはずです。
目次
胃カメラって何?
「胃カメラ」という名前から、胃の検査だと思っている人が多いかと思いますが、正確には「上部消化管内視鏡検査」と呼びます。
つまり「上部消化管」ですから、咽頭(喉の奥)、食道、胃、十二指腸の入り口まですべてが観察範囲です。
咽頭癌や食道癌、十二指腸の癌など、胃以外の癌の検査も胃カメラで行います。
口から長く細い管状のカメラを挿入していき、上述の範囲を直接観察する検査です。
自治体が行っている胃がん検診で、2016年4月より胃カメラが選べるようになりました。
胃がんは初期の段階では普通全く症状がありませんので、胃がんの早期発見には非常に重要な検査です。
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検査前日、当日までの食事は?
病院によって食事制限の方針は異なりますが、おおむね以下のような制限があります。
前日の夕食までは、消化の良いものであれば制限はありません(飲酒はなるべく避けましょう)。
その後は絶食で、当日はもちろん何も食べてはいけません。
誤って朝ごはんを食べてしまったら検査は中止です。
また、胃に残らない飲料は、当日朝の早い時間帯までは許可しているところも多くあります。
胃に残らない飲料とは、水、お茶、スポーツドリンクなどです。
果汁ジュースなどは、果物を食べたのと変わりませんから避けましょう。
一方病院によっては、前日夜12時以降は飲料も禁止、としているところもあり、ルールは様々です。
検査までの食事や飲み物に関しては、病院で必ず直接指示されます。
また説明書やパンフレットを渡されますので、そこに書いてある指示に従いましょう。
ちなみに、食事や飲み物に関して、これほど制限が厳しいのはなぜでしょうか?
理由は二つあります。
誤嚥のリスク
誤嚥とは、食べ物や飲み物が誤って気管に入ってしまうことです。
胃の中に食べたものや飲んだ水分が多量に残った状態で胃カメラを挿入すると、それらを嘔吐してしまいます。
嘔吐したものが気管、肺に入り、窒息したり肺炎を起こしたりして命の危険があります。
観察不良のリスク
胃の中が空っぽでなければ胃全体を観察することができません。
せっかく苦しい思いをして検査を受けても、「食べ物が残っていたので、半分くらいしか観察できませんでした」と言われたら、検査を受けた意味はありません。
きっちり検査を受けるためには、胃が空っぽであることは必須です。
検査の流れ、時間
まずのどに麻酔をします。
局所麻酔薬を含んだスプレーをのどに吹き付けるか、ゼリーをのどにためるなどして、のどの痛みをとります。
10分ほど経ったところで検査を開始します。
検査は横向きに寝て行います。
口に円筒状のマウスピースをくわえ、その中をカメラが通ります。
カメラはのどを通って食道、胃、十二指腸へと到達します。
それから入念な観察を開始します。
つまり、「最初にゴールまで到達したのち、戻りながら観察をしていく」という流れです。
観察しながらゴールにたどり着くと思っている人は、奥までたどり着いた時点で「もう終わり?」と誤解するかもしれませんから注意しましょう。
胃カメラは先端が自由に曲がる仕組みになっています。
胃の壁全体を観察するため、先端を様々な方向に曲げて検査を行います。
また「見上げ」と行って、後ろを振り返るようにして胃の上部の観察も行い、観察漏れがないよう慎重に検査します。
また胃の壁がきっちり伸展するかどうかを観察するため、空気を送り込んで胃を膨らまして再び観察します。
胃がんで胃の壁が硬くなっているときは、空気を送り込んでも胃が十分に膨らまず、異常を認識することができます。
その後、食道、咽頭と観察しながら戻ってきたのち、カメラが口から出て検査が終わります。
時間としては、観察だけであれば全体で10分〜15分程度ですが、生検(病変があって検査のため細胞を取ってくること)など処置が加われば、数分長引くことになります。
胃カメラはどこが苦しいか?
胃カメラを受ける方は、検査の流れより何より、痛いのか、苦しいのか、辛いのか、が気になるでしょう。
胃カメラは基本的にはそれほど痛みはない安全な検査ですので、心配はいりません。
ただ、患者さんの様子、あるいは私自身の体験から、少し苦しいと感じる場面がいくつかあります。
心の準備ができている方が気楽だと思いますので、苦しいポイントを紹介しておきます。
のどを通るとき
これは誰しもが苦しい、と予想がつく場所だと思いますが、実は大きく個人差があります。
嘔吐反射、つまり「オエッ」となるようなのどの動きの起こりやすさに個人差があるからです。
この反射が体質的に強い方はこの部分が一番苦しいですが、全く苦しくないと言われる方もいます。
私自身も、この部分は嘔吐反射がほぼなく、全く苦しくありませんでした。
胃をふくらませるとき
前述した通り、胃を膨らませて観察するため空気を胃の中に送り込みます。
多量の空気で胃がパンパンになりますので、「胃が苦しい」「胃が痛い」という症状があります。
これも人によりますが、私自身の体験ではこの部分が一番辛く感じました。
数分で終わる部分ですので、それほど心配はいりません。
「見上げ」を行うとき
前述したように、カメラが後ろを振り返るようにして胃の上部や入口(噴門)を観察します。
この際カメラを捻るような動作が加わるため、のどに押されるような痛みが生じることがあります。
これも数分で終わる部分ですので、それほど心配はいらないでしょう。
うまく受けるコツとしては、全身の力をなるべく抜いて大きく深呼吸をすることです。
ときに緊張して全身にガチガチに力が入ってしまう人がいますが、力むと余計に苦しい検査です。
緊張してしまうのは当然ですが、大きな呼吸をしてなるべく力を抜きましょう。
鎮静は必要か?
「鎮静」とは、眠り薬を使って眠った状態で検査をすることです。
鎮静をすれば眠っている間に検査が終わります。
全身麻酔ではありません。鎮静剤を用いて深く眠ることを指します。
胃カメラの嘔吐反射が強い方、あまりに辛い方は鎮静を希望することが可能です。
一般的な市民検診では行うことができませんが、病院で受ける場合は鎮静を選択できます。
ただし、鎮静にもデメリットがあります。
鎮静剤のリスク
きわめてまれですが、鎮静剤が効きすぎると呼吸が止まったり、血圧が下がったりすることがあります。
即座に処置を行いますが、場合によっては命にかかわる偶発症です。
また検査後は一定時間安静が必要ですので、すぐには帰れません。
問題なく完全に目が覚めてから帰宅です。
自家用車での受診も原則禁止です。
検査中に話が聞けない
鎮静をしていなければ、医師の話を聞きながら検査を受けることができます。
何か胃に異常が見つかった時、医師から直接なんらかのコメントがあるでしょうし、自分でも画面で確認することができます。
簡単な質問をされることもあるかもしれません。
眠っているとこれらのことができませんので、次回の受診日まで自分の検査結果が大丈夫だったのか、やきもきすることになります。
ただ、胃カメラの場合は「上記のリスクを負っても鎮静でなければ無理!」というくらい検査を辛く感じる方がおられます。
よって患者さんが希望されれば鎮静を選択することが多く、大腸カメラよりも鎮静で行う割合は多いのが普通です。
経鼻内視鏡でもいいの?
通常胃カメラは口から行いますが、経鼻内視鏡とは鼻からカメラを挿入する検査のことです。
より細いカメラを鼻から挿入するため、嘔吐反射がほとんどなく、胃カメラより楽な検査です。
私自身も経鼻内視鏡を受けた経験がありますが、まずのどを通るカメラの太さが全く違いますから、当然経鼻内視鏡の方が楽です。
ただ、経鼻内視鏡が通常の胃カメラ(経口内視鏡)と全く同じ効果なら、世の中の内視鏡検査は全て経鼻に置き換わっているはずです。
確かに、近年カメラの性能が向上したことで、経鼻内視鏡でも通常の胃カメラと遜色ない観察ができると考えている医師もいます。
ですが、まだ胃カメラの方が望ましいと考える人が多数派です。
理由は二つあります。
一つは、経鼻内視鏡より通常の胃カメラの方がカメラが太い分、一度に見える範囲が広く画質も良いこと。
もう一つは、病気があった時にその部分を生検する(詳しく調べるために細胞を取ってくる)、あるいは治療するといったことが、通常の胃カメラの方が簡単にできることです。
現時点ではまだ、多くの病院では、より正確に検査を行うなら経鼻内視鏡ではなく通常の胃カメラをおすすめするのが一般的かと思います。
当日、検査後の注意
検査後は特に制限はありません。
自由に食事は可能で、アルコールやコーヒーも問題ありません。
運動等も問題なく可能です。
ただし、生検やポリープ切除など処置を行った場合はその限りではありません。
生検の箇所、ポリープの個数、切除した大きさなどによって制限は様々です。
スタッフの指示に従いましょう。
胃カメラについて全体的なイメージはできましたでしょうか?
胃だけでなく、咽頭や食道、十二指腸の病気の診断にも重要な検査です。
検査のしくみをしっかり理解して受診しましょう。
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