グッドドクター第3話では、絞扼性イレウスで救えなかった少女と、それに対する湊(山崎賢人)と瀬戸(上野樹里)の関わり合いが描かれました。
瀬戸は優しく人間性も豊かな医師として描かれますが、そんな彼女ですら医療現場に身を置いていると大切なものを見失いがち。
それを純粋無垢な湊が教えてくれる、という展開が、グッドドクターの魅力です。
現場の取材もかなり丁寧に行われていると思われ、医療シーンは細部までリアルなため、学ぶところも非常に多いドラマです。
今回の放送でも専門用語が多く使われ、
なぜ美結ちゃんを救うことができなかったのか?
絞扼性イレウスや敗血症性ショックとはどういう状態なのか?
疑問に思った方が多いかもしれません。
これまで通り、図解付きでわかりやすく解説してみたいと思います。
今回のあらすじ
6歳の市川美結ちゃんが、ショック状態で病院に運び込まれます。
それまでに6件受け入れを断られ、たらい回しにされた末の搬送でした。
来院時、絞扼性イレウスによって腸管は広く壊死した状態。
誤嚥性肺炎も併発しており、敗血症性ショックとなっていました。
すぐに手術しなければ救えない状況でしたが、高山(藤木直人)は病院のガイドライン違反によって自宅謹慎中。
まだ執刀経験のない瀬戸は、間宮(戸次重幸)の反対を押し切って手術に踏み切ります。
ところが、手術中に腸間膜動脈瘤が予期せぬ破裂を起こし、その修復中に美結ちゃんは心停止。
懸命の心肺蘇生にもかかわらず、心拍は再開せず、術中死となってしまいました。
娘の死を受け入れられない両親は、執刀経験が浅い瀬戸の責任を問い、訴訟を起こします。
来院時すでにショック状態で、病院側に責任はないとの方向で説明するも、納得されない状況でした。
ところが、ERで切り裂かれた美結ちゃんの服と、捨てられていた彼女の大事なカードを湊が丁寧に修復して自宅に届けると、両親は態度を一変させました。
医師らが全力を尽くしてくれた現実を知り、病院の説明に理解を示すようになったのです。
絞扼性イレウスと敗血症性ショック
この疾患は第1話でも登場したので、このブログでも詳しく解説しました。
「イレウス」とは「腸閉塞」のこと。
「絞扼性(こうやくせい)」とは、「血流障害」が起きている時につける言葉です。
(※厳密には「イレウス」と「腸閉塞」は異なる意味で用いることもありますが、専門性が高いので割愛します)
美結ちゃんの手術中に小腸の癒着が見られたことから、何らかの原因で癒着した部分を中心に腸がねじれ、血流障害を起こしたのでしょう。
腸は壊死してしまうと自然には元には戻りません。
よって、手術で壊死した部分の切除が必要になります。
絞扼性イレウスは時間との勝負です。
血流障害が起こると、時間とともに壊死がますます広がります。
そのうち、壊死した腸管内に含まれる細菌が、血流に乗って全身を巡ります。
全身に細菌が広がり、重度の感染症を起こした状態を「敗血症(はいけつしょう)」と呼び、これによってショックが起きた状態が「敗血症性ショック」です。
「ショック」については、「コードブルー3|名取&灰谷に学ぶ「ショック状態」の意味と危険性」でも解説しましたが、ごく簡単に言えば、
血圧が下がって全身の臓器に血流が十分届けられなくなり、命の危機に瀕した状態
を意味します。
さらに美結ちゃんは、誤嚥性(ごえんせい)肺炎を起こしていました。
「誤嚥(ごえん)」とは、気管〜肺に唾液や嘔吐したものが流れ込んでしまうこと。
それによって肺炎を起こした状態が誤嚥性肺炎です。
意識がはっきりしていれば、気道に物が入ると「ムセ(咳反射)」が起こって追い出そうとする力が働きます。
しかし、美結ちゃんは意識がもうろうとした状態で嘔吐物を吸い込んでしまったわけです。
腸閉塞では大量の嘔吐が見られるため、こういうことはしばしば経験します。
ともかく、敗血症をこれ以上悪化させないため、すぐに腸管切除が必要です。
今回、高山がいないことが理由でこの手術がためらわれたですが、実際には腸管切除・吻合(つなぎ合わせること)は難易度の低い手術です。
全く執刀経験がない瀬戸には難しかったかもしれませんが、少なくとも間宮は技術的に断る理由がありません。
「高山先生がいないのに無理だろ!」
と間宮は言いましたが、真の理由は「自己の保身」以外になかったはずです。
ところが、実際手術をしてみると意外な事実が判明します。
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腸間膜動脈瘤破裂と湊の優れた知識
癒着を剥がしている最中に、腸間膜動脈瘤が破裂していることが判明しました。
腸間膜動脈とは、小腸に栄養を送る太い血管です。
正しくは「上腸間膜動脈」と呼びます。
この血管に動脈瘤ができており、これが破裂していたのです。
腸の血管は、ごく簡単なイメージ図を書くと、以下のような走行をしています。
もし破裂した動脈瘤とともに血管を切断してしまうと、小腸は完全に血流を失い、患者を救うことはできません。
ちょうど、根元に近い幹の部分で木に切れ目を入れると、木全体が枯れてしまうのと同じです。
そこで、破裂した血管を丁寧に修復する必要があります。
一旦止血しなくては血管の壁が見えませんので、上腸間膜動脈を根元で遮断(クランプ)します。
しかし修復中ずっと遮断したままでは、結局腸管全体が血流不足で壊死します。
ここで湊の優れた知識が生きてきます。
「10分おきに遮断を解除する」
という手法です。
これによって、腸管に血流が定期的に再開通するため、腸管の壊死を防ぐことができるわけです。
ただし、この血管修復(再建)は非常に難度が高く、初執刀の瀬戸にはまず無理です。
ここはさすがに高山が到着しないと厳しい、という状況だったと言えるでしょう。
なぜ心停止したのか?
手術中に心停止に陥ったのは、敗血症性ショックから立ち直れなかったからです。
腸管壊死から敗血症性ショックに陥り、一度心停止したような状況では、救命はかなり厳しいのが現実です。
手術は体に大きな傷をつける行為。
すでに崖っぷちの状態にある体は、手術によってさらに痛めつけられます。
美結ちゃんの体はこの負担に耐え切れず、術中に心停止したわけです。
そもそもこんな状況下で手術を行う以上、この展開は「想定の範囲内」です。
よって手術を行うのであれば、
術中死の可能性が高いこと
仮に死を免れても意識が戻らない、あるいは人工呼吸器から永久に離脱できない可能性が高いこと
までは、手術前に家族に十分に説明しておく必要がありましたね。
結果として、「想定外の事故が起こったのではないか」と家族から不信感を持たれる結果となってしまいました。
ちなみに、心肺蘇生シーンも非常にリアルです。
心肺蘇生では、心臓マッサージ(胸骨圧迫)を2分ごとに中断しながら、波形を確認します。
波形が心室細動(VF)、または無脈性心室頻拍(VT)であれば、DC(電気ショック)をかけ、そうでなければ胸骨圧迫続行です。
途中で心臓に鞭を打つため、アドレナリンを定期的に投与します。
この辺りは、このブログで何度も解説してきましたね。
唯一違和感があったのは、心電図波形が一本線になった時の、
「心停止です!」
というセリフです。
正しくは「心静止」です。
心臓が完全に止まった状態は心静止、心臓が震えるように動いているが血液は送り出せない状態がVFやVTですが、これらを総称して「心停止」と呼びます。
つまり美結ちゃんは、随分前から「心停止」です。
だからこそ、胸骨圧迫やDCを行っていたわけです。
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湊が教えてくれたこと
救急の現場では、急ぎのケースでは服は全て切り裂くのが一般的です。
全身を診察したり、処置をしたりする際、服をゆっくり脱がしている余裕がないためです。
たいていこういうケースでは、床に血液や体液、ガーゼやシーツなどの物品が散らばってしまい、患者さんの小さな所持品がなくなってしまうこともあります。
私はかつて、会社員の方のワイシャツをハサミで切り裂き、胸のポケットに入っていた社員用のIDカードを真っ二つに切断してしまったことがあります。
重症患者の処置の際は、持ち物は気にせず、私たちは救命に全力を注ぎます。
しかし患者さんにとって、あるいは家族にとって大切な所持品が、身の回りにあるかもしれません。
亡くなった美結ちゃんは、医師にとっては多くの患者の一人でも、ご両親にとっては唯一無二の存在。
ご両親にとっては、持ち物一つ一つが大切な宝物に違いありません。
こうした細やかな心遣いを持つ湊は、医師として優れた素質の持ち主だと言えますし、私たちも学ぶところは多いと感じます。
というわけで今回もマニアックな解説となりましたが、お分かりいただけましたでしょうか?
疑問点があればコメント欄からいただけましたらと思います。
(※私は小児外科医ではないため、成人に対する感覚で書いている部分があります。間違いがあればご指摘ください)
第4話はこちら!