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グッドドクター第4話解説&感想|メッケル憩室を見抜いた湊はなぜすごいか?

グッドドクター第4話もこれまでと同様、病気とその治療が非常にリアルに描かれました。

このドラマの特筆すべきポイントは、

「天才的な能力を持つ湊が他の外科医より優れた診断力を発揮する」

というお決まりの描写が、

「新人が見抜けることを、なぜ経験豊富な先輩外科医が見抜けないのか?」

という疑念を視聴者に抱かせるリスクがある、という難しさです。

 

そしてグッドドクターは、毎回このハードルをきっちりクリアしている点に注目すべきでしょう。

一見当たり前のように見えるかもしれませんが、ここで手を抜いて陳腐になってしまう医療ドラマはたくさんあります

要するに、湊の医学的な能力の高さを見て、

「こんなことまで見抜ける奴がいるわけないだろ」

となってトンデモ化する可能性が常にあるということです。

この部分を同業者から見て違和感なく描くのはおそらく容易ではなく、医学的な検証も含め、相当慎重に制作していると感じます

 

さて、そんな第4話。

今回はかなり心の痛むストーリーでしたが、いつも通り医学的な部分で視聴者が感じたであろう疑問を解決していきたいと思います。

今回出てきた「尿膜管遺残」「メッケル憩室」は、実は重要な共通点を持っています。

知っているともっと楽しめる知識を、今回も図解付きで紹介しましょう。

 

今回のあらすじ

身元不明の少女が、公園で倒れているところを搬送されます。

少女は尿膜管遺残に感染を起こし、膿瘍(のうよう:膿のたまり)を形成していました。

ところが少女は医療スタッフと全く口をきかず、治療や検査をも全て拒否する状態。

のちにやってきた母親は、突然転院を希望し始めます。

 

担当を自ら申し出た湊(山崎賢人)は、付きっ切りで少女の相手をするうちに少女の秘密を知ることになります。

少女の実母は亡くなっており、のちにやってきた継母にひどい仕打ちをうけていたこと。

父親を悲しませないため、このことを日記に記しながら黙っていたこと。

お腹の痛みを母親に訴えても相手にしてもらえず、治療が受けられていなかったこと。

 

結果として治療の遅れは膿瘍の破裂につながり、少女は緊急手術を受けることになります。

膿瘍の除去(ドレナージ)と腹腔内の洗浄、尿膜管の摘出を行い、手術を終えようとしたところで血圧が低下。

原因がはっきりわからず、手術に入っていた高山(藤木直人)や瀬戸(上野樹里)らはあわてます。

 

しかしここで湊が本領発揮。

少女にメッケル憩室があることと、ここから出血し、出血性ショックを起こしている可能性を指摘します。

湊のおかげで適切に対処し、窮地を脱した外科医たち。

最後は父が少女の秘密を知り、無事に二人はわかり合うことができました。

 

尿膜管遺残とは?

お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんは、体の中で作られた尿を、へその緒を通して母体に返します

そのため、赤ちゃんの膀胱とへその間には尿を通す管が必要です。

この管を「尿膜管(にょうまくかん)」と呼びます。

 

生まれた後は、膀胱に貯めた尿を自分で排出することができるので、この管は必要なくなります。

そこで出生とともに尿膜管は閉鎖してしまい、何も通らないヒモ(索状物)だけが残るのが正常です。

 

ところが、生まれた後もこの管の一部が残っている人がいます(成人の2%程度)。

これが「尿膜管遺残」と呼ばれる病気です。

管が完全に残っていると、へそから尿が漏れてしまうわけですが、一部だけ残ってもその空間に細菌感染を起こすリスクがあります。

尿膜管遺残

ひどい場合は、その部分に膿がたまり、膿瘍(のうよう)を形成してしまいます。

※実際には図のようなパターン以外にも様々な型があります。

 

多くの場合は細菌感染を起こさない限り無症状なので、ある程度成長するまで尿膜管遺残があることは気づかれません。

私たちが外来でよく経験するのは、「へそから膿が出てきた」「痛みがある」という症状で若い方がやってきて初めて見つかる、というパターンです。

 

今回の患児は、母親にお腹の痛みを訴えても相手にしてもらえず、かなり悪化してからの受診となってしまいました。

結果として、たまった膿が破裂、お腹の中に膿が散らばり、腹膜炎を起こしてしまったのですね。

 

手術は、残った尿膜管を摘出し、膿を除去(ドレナージ)、腹腔内を十分に洗浄することです。

手術室に入る前に、この術式を湊がまくしたてるように言い、高山や瀬戸が驚いたようなリアクションを見せ、湊を手術室に入れることを決めますが、ここは実は少し不自然です。

普通は救急外来で緊急CTを撮影し、この結果を見て術者たちが上記の術式をお互い把握した上で手術に入ります

腹膜炎は、精密検査なしにすぐに手術室に運び込まないといけないほど待てない疾患ではないからです。

 

さて、本来はこれだけで手術が終わるはずでした。

ところが、腹膜を閉じ、手術も終盤に差し掛かったところで急に血圧が低下します。

一体何が起きているのか?

ここからが湊の腕の見せ所でした。

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メッケル憩室からの出血

少女の血圧が低下した時、手術室にいる外科医たちは理由が分からず一時慌てることになります。

バイタルからは出血が疑わしいのに、どこから出ているかが分からない。

ここで湊は、少女が側腹部を痛がっていたこと、事前に撮影したCT検査でメッケル憩室が写っていたことから、メッケル憩室にある潰瘍からの出血を考えました。

結果的にメッケル憩室を切除し、ことなきを得ます。

メッケル憩室もまた、「出生後になくなるはずのものが残ってしまった病気」です。

 

憩室(けいしつ)とは、消化管にできる「くぼみ」のような空間のことです。

食道から大腸まで、いずれの臓器にも憩室はできますが、多いのは大腸の憩室です。

おそらくこの記事を読んでいる方の中にも、大腸カメラを受けて憩室が複数あることを指摘された方がいるでしょう。

憩室は誰にでもあり、それだけでは何の症状もなく、病的でもありません

しかし憩室に感染を起こしたり(憩室炎)、出血したり(憩室出血)することで問題になります。

 

この憩室のうち、小腸にできる特別な憩室を「メッケル憩室」と呼びます。

実は、赤ちゃんがお腹の中にいるときは、小腸とへその間にも管がある時期があります

これを「卵黄管」と呼びます。

普通はこの管は消えてなくなってしまうのですが、やはりこれも一部の人には退縮せずに残ってしまうことがあります

これが残ると、小腸に憩室としてくぼみが残ります。

これを「メッケル憩室」と、特別な名前をつけて呼んでいます。

こちらも全人口の2%と比較的多くの人に残っており、私たちも画像検査や手術中に偶然見つけることがよくあります。

メッケル憩室は、やはりそれだけでは無症状で病気とは言えません。

しかし約20%の人に、炎症や腸閉塞、出血などを起こすとされています。

 

今回は、このメッケル憩室から大量出血してしまった、というわけです。

憩室から出血しても、小腸の中に出血するため、腹腔内を眺めても全く出血に気づけません

そのうち肛門から血液が排出されてきて、ようやく気づくことになります。

 

以前撮影したCTにメッケル憩室が写っていたことを知っていた湊は、

バイタルの変化から出血が疑われること

術野には出血していないこと

から、憩室出血を疑ったわけです。

 

メッケル憩室は今回の治療の対象ではなかったため、高山たちは気にも留めていませんでした。

これ自体は自然なことです。

今回はまず、命に関わる腹膜炎の治療を優先すべきだったからです。

手術中に偶然メッケル憩室が見つかれば切除したかもしれませんが、小腸は長い臓器なので、そう簡単に見つからないこともあります。

こうして高山たちは憩室に気づかず、しかし湊だけは冷静にそれを指摘できたわけです。

 

今回は、「胎生期にへそとつながった臓器の遺残」という共通点を持つ、二つの疾患が同時に描かれた点が非常に面白いポイントです。

また医学的にもリアリティがあり、大きな違和感なく観ることができます。

またここに湊を中心とした人間ドラマを織り交ぜ、医療ドラマとして完成度の高い作品だと感じます。

引き続き、展開が楽しみですね。

(※私は小児外科医ではないため、成人に対する感覚で書いている部分があります。間違いがあればご指摘ください)

(参考文献)
「尿膜管摘出における手術手技と工夫」日小外会誌 第53巻 5 号 2017年 8 月,pp. 1009-1013
日本小児外科学会HP「メッケル憩室」