病院やクリニックで一度は点滴をされたことがあっても、点滴に使う管の仕組みや目的などを、詳しく知らない方は多いのではないでしょうか?
点滴する際に準備するものは、一般的に3種類あります。
①製剤が入った袋(輸液バッグ・ボトル)
②バッグからつながる管(輸液ライン)
③血管に挿入された細くて短い管(末梢静脈カテーテル、静脈留置針)
今回は、これらの機能や点滴の仕組み、点滴にまつわる疑問について詳しく解説します。
点滴は、毎日のように病院で多くの患者さんに行われる重要な医療行為です。
誰にでも分かりやすく書きますので、この記事を読んで点滴に関する疑問を全て解消しておきましょう。
※使用した写真は全て、無料写真素材「写真AC」及びAdobe Stockで購入したもので、現実に使用中のものを撮影した写真ではありません。
目次
輸液製剤バッグの仕組み
点滴のことを正確には「輸液」(一般的には「末梢輸液」を指す)と呼びます。
輸液製剤は、透明なバッグ(袋)に入った状態で病院に入荷されます。
バッグの表面には製剤の名前と組成が書かれてあり、目的、用途に合わせて非常に多種類の製品が作られています。
病院では通常、ナースステーションの棚や引き出しで保管されています。
バッグは、口の部分がゴム栓になっています。
患者さんに製剤を投与する際は、このバッグと輸液ライン(点滴の管)を連結することになります。
この際、太い樹脂の尖った針をゴム栓部分に刺して貫通させます。
これにより、中の液体が管を通って流出するようになるわけです。
また、このゴム栓のおかげで密封した状態のまま他の薬を製剤内に注入することができます。
注射器に必要な薬を入れ、ゴム栓を貫通するように針を刺して輸液製剤と混ぜることができるわけです。
毎日、看護師が患者さんごとに必要な輸液製剤を用意し、バッグを並べて管理します。
医師からの指示を受けて、患者さんごとに必要な薬をバッグ内に注入します。
しかし薬剤が入っても色や見た目が変わらないものが多く、一見すると何が注入されているか分かりません。
そこで、バッグの表面に注入した薬剤の名前を書くのが一般的です。
あるいは、電子カルテと連動して、オーダーした薬剤がそのまま印字されたラベルをバッグの表面に貼る病院もあります。
ここに患者さんの名前やIDも書かれていて、大勢の患者さんがいても必要な製剤の取り違えが起こらないようになっています。
(写真はAdobe Stockで購入)
しかし、管を直接つなぐだけでは、輸液製剤は管を通ってあっという間に流出してしまいます。
患者さんによっては、500mlの製剤を1時間で投与すべき人もいれば、12時間かけてゆっくり投与すべき人もいます。
そこで、速度のコントロールが必要になります。
では、速度はどのように調節しているのでしょうか?
この調節システムは輸液ラインの途中にあります。
輸液ライン(点滴の管)とクレンメの仕組み
輸液ラインの途中には、上の写真(右側)のように途中に「クレンメ」と呼ばれる速度を調節する仕組みがあります。
この仕組みは、実にシンプルで原始的です。
管を押しつぶして通り道を細くし、液体の通るスピードを遅くするだけです。
「管をどのくらい押しつぶすか」で、投与スピードを変えることができます。
このスピードは、液体がポタポタ落ちる筒を見て調節します。
これを「チャンバー(点滴筒)」と呼びます。
チャンバーと時計を同時に見ながら、「一定時間に何滴落ちるか」を計算し、その製剤を指示された時間で投与できるようスピードを調節します。
ほとんどの製剤は「秒単位」といった微妙な調節は不要なため、こうした手動のスピード調節で十分です。
ところが、中には1分間に数mlという微量まで投与速度を細かく調節しなければならない薬剤もあります。
わずかな投与量が変動するだけで、副作用のリスクのある製剤もあります。
そうした薬を使うケースのみ、電動の輸液ポンプをつなぐことで正確な速度調節を行います。
画面上で速度を入力すれば、その速度で正確に製剤を投与してくれる仕組みです。
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末梢静脈カテーテル/静脈留置針の仕組み
輸液ラインは、血管に挿入された管を連結します。
この皮膚を貫通して血管に挿入された短い管(写真の青い部分)を、末梢静脈カテーテルや静脈留置針などと呼びます。
カテーテルは柔らかい樹脂でできていて、輸液ラインと簡単に連結することができます。
もちろんカテーテルはそのままでは皮膚を貫通できませんので、注射する際は針を使って以下のように管を挿入し、挿入後に針を抜いています。
カテーテルには様々な太さのものがあり、太さに応じて色が異なります。
当然ながら、太ければ太いほど高速で点滴が可能です。
短時間で大量に点滴したい時は太い管を挿入し、そうでない場合は細い管を挿入します。
太い管を刺す方が痛みは強いですが、それだけ設定できる速度の幅が広くなります。
なお、短時間の点滴であれば、採血の時にもよく使う「翼状針」と呼ばれる金属の針を用いることもあります。
採血については以下の記事をご覧ください。
血液検査(採血)の仕組み、採血後の痛みや注意点について詳しく解説!
針を刺す部位
点滴する際に針を刺す部位は、利き腕と反対側の前腕(肘より手のひら側)を選ぶのが一般的です。
針を刺しやすい位置で、かつ日常動作に支障をきたしにくいためです。
ただし、血管が細い、見えにくい、など様々な理由で利き腕と反対側に針を刺せないことは多々あります。
前腕に適切な血管がなければ、手の甲(手背)の血管を選ぶこともあります。
(全身麻酔手術の際は、麻酔科医や看護師が目視で確認しやすい手背を選ぶ方がむしろ一般的)
注射する血管は静脈であり、動脈ではありません。
ちなみに、みなさんがよく採血される肘の部分はあまり使いません。
肘の曲げ伸ばしによって投与速度が変化したり、投与中に詰まったりする恐れがあるためです。
ただし例外的に、短時間の点滴で、点滴中は肘を伸ばしたまま安静にできる、というケースで肘を選択することはあります。
点滴を繰り返し行っていると、徐々に血管が傷み、点滴に使える血管が少なくなってきます。
こうした方は、血管への針の挿入が非常に難しくなり、何度も注射を繰り返すことがあります。
1回でうまくいくかどうかは、技術面での上手・下手に左右される部分もありますが、血管側の要因も大きいです。
特に、もともと血管が細い、血管が皮膚の表面から見えにくい、という方は苦労される印象があります。
点滴は痛い?
針を刺す瞬間は誰でも痛いのは当たり前で、針が太いほど痛みは強くなります。
また、血管痛を起こす性質を持つ薬を投与している際は、投与中にピリピリした痛みが生じることがあります。
その他、投与中に痛みが生じる場合は、管が血管内にうまく入っておらず液体が皮下に漏れている、血管炎を起こしている、といったケースが考えられます。
誰が注射するのか?
一般的に、点滴のための注射(カテーテルの留置)を行うのは看護師です。
ただし、病院によっては研修医が行うところもあります。
大学病院や研修指定病院は教育機関でもあるため、点滴のような比較的リスクの低い医療行為は研修医が行うこともよくあります。
「研修医に実験台にされるなんて困る!」
と怒る方がいるかもしれませんが、未来の患者さんを救うためには医師のトレーニングが欠かせません。
こうしたリスクの低い医療行為においては、何とぞご理解いただければ幸いです。
患者さんによっては、新人看護師や研修医が点滴する時に限って、
「絶対に失敗しないでね!」
「一回で決めてね!」
と言う方がいらっしゃいますが、これは逆効果です。
過度にプレッシャーをかけると相手を萎縮させてしまいますので、何も言わない方がむしろ有益でしょう。
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点滴に空気が入っても大丈夫?
点滴の管の中には微量の空気が入ることがあり、これを完全にゼロにすることはできません。
しかし少量であれば全く心配はいりませんし、病棟でもよく経験することです。
静脈に入った小さな気泡は、心臓を通って肺に流れ、そこで吸収されてしまうからです。
むろん、大量の空気が入ると血管を詰まらせ、臓器に「空気塞栓」という重大な合併症を起こす危険性はあります。
点滴する際は、管に空気がなるべく入らないよう空気を抜いてから接続します。
点滴を抜いた後は?
点滴が終了すると、皮膚に挿入されたカテーテルを引き抜いてガーゼなどで押さえるだけです。
その後は、採血と同じ扱いです。
特別な注意を受けていない限り、その日に入浴も可能です。
点滴した部分が腫れたり、赤くなったり、内出血を起こしたりすることがありますが、数日で改善します。
徐々に悪化したり、痛みなどの症状が強い場合は医療スタッフに相談しましょう。
点滴の管は交換が必要?
腕に挿入されているカテーテルは定期的に交換するのが一般的です。
交換の頻度は3〜4日に1回です(血管が細い方、針を刺しにくい方はその限りではありません)。
点滴を繰り返すと、徐々に血管が傷んで血管に管を挿入するのが難しくなります。
こうしたケースでは、長期間留置したままにしておける「中心静脈カテーテル」と呼ばれる長い管を挿入することもあります。
こちらのカテーテルの仕組みや使い方は専門的ですので、ここでは割愛します。
医療者向け記事「もう迷わない!中心静脈カテーテル(CV)の目的と種類、合併症とは?」で詳しく解説していますので、興味がある方はご覧ください。
余談ですが、風邪は点滴では治りません。
これについては以下の記事で解説していますので、ご覧ください。
風邪を早く治したい!医師が教える風邪の治し方、よく見る間違った対処法(参考文献)
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