週刊誌では、毎週のように医療・健康系の話題が扱われています。
こうした週刊誌の医療情報には、少し極端で”尖った”主張が多いのが特徴です。
週刊誌によくある内容は、以下の5つのタイプに分類することができます。
①単純化された極論
例:「〇〇すれば病気が治る・防げる」
②過度に負担の少ない解決策
例:「〇〇するだけでやせる」
③現代医学の否定
例:「医者や薬は不要」
④リスクの誇張
例:「〇〇の薬は危険だから飲むな」
⑤一般論を覆す新情報
例:「実は〇〇検診は受けてはいけない」
「売れること」が最大の命題ですから、こうした一種の「煽り」は、顧客に手にとってもらうための一つの対策でしょう。
ダイエット法を扱うにしても、
「食べる量を減らし、習慣的に運動しましょう」
と書くだけでは誰も買ってくれませんから、仕方がありません。
しかし、主な読者となる健康への関心が高い中高年層の中には、こうした情報を上手に解釈できない方もいます。
外来に患者さんが不安な表情で週刊誌を持ってきて、
「ここに書いてある内容は本当ですか?」
と聞かれることもよくあります。
「一理ありますが」として、以下の5つのパターンに分けて補足説明を行うのが私たちの常です。
単純化された極論
「〇〇すれば病気が治る」
といったシンプルな理論で、あまり一般的でない独自の治療法や健康法を解説した記事はよくあります。
しかし、もしそれが文字通りの真実なら、医療機関で保険の効く形で提供されているはずです。
医療はインフラですから、最も上質なサービスは健康保険制度によって安価で手に入るようになっています。
逆に、一般的な医療機関で推奨されていないなら、その治療法の確度は低い(良いか悪いか分からない)と考えた方が無難です。
病気の予防法についても、それが世界的に検証されたものなら、公的な機関が推奨しているはずでしょう。
限られた人たちにこっそり教えるメリットがありません。
例えばがん治療でも、最も有効な治療は「標準治療」と呼ばれ、保険診療で受けられるようになっています。
詳細は以下の記事をご覧ください。
過度に負担の少ない解決策
「〇〇するだけで痩せられる」
「〇〇すれば長生きできる」
といった、実践者の負担が不自然に少ない解決策を提示したものを見ることがあります。
もちろん一理あるものもありますが、原則、健康維持には、健康的な生活習慣を継続するための努力が必要です。
また、肥満の解消や生活習慣のような、多くの人が関わる領域についてはむしろ、医学的根拠のある情報が豊富に存在します。
難病の治療法などとは異なり、大規模な臨床試験などが行いやすいからです。
例えばダイエットの方法は、日本肥満学会がまとめたエビデンスがあります。
病院で教えるダイエットの方法、自宅でできる医学的に正しい肥満の解消法
健康維持のための生活習慣に関しても、厚労省が「健康日本21」として膨大な資料をまとめています。
こうしたエビデンスを引用しているかどうかを確認することも大切です。
現代医学の否定
「医者にかかってはいけない」
「〇〇の薬は処方されても飲んではいけない」
といったように、現代医学を否定するようなものを見ることがあります。
こうした主張は、「医者は何でも薬を処方したがる」といった固定観念が背景にあるからこそ、「注意喚起」として読者の心に響きます。
「医師と製薬会社は癒着している」といった陰謀論を信じる人もいるでしょう。
しかし、一般的な医師はまず「できるなら薬なしで治したい」という思考回路で考えています。
例えば脂質異常症(高脂血症)の薬に関して、「脂質異常症診療ガイド2018年版」には、
「安易な薬物療法導入は厳に慎むべきである」
と明記されています。
「まずは食事療法や運動療法といった薬以外の治療をトライすべき」ということです。
逆に言えば、「薬を処方されたなら、それは本当に薬が必要な時だ」と考える方が無難でしょう。
「医者にかかってはいけない」という考えを、文字通り真に受けるのは危険です。
医学に関する正確な情報を手にしたい時に、医学を何年間も体系的に学んだ人を利用しないのは、むしろ損でしかありません。
自力で解決したいからこそ、医師や病院を上手に使い倒すのです。
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リスクの誇張
「〇〇の薬は副作用が強いから飲んではいけない」
「医師は〇〇を患者には勧めるが自分は使わない」
といった、リスクを誇大に見せるものがあります。
もちろん、あらゆる薬に副作用はあります。
リスクのない医療行為は存在しません。
したがって、
「リスクとベネフィット(利益)を天秤にかけ、ベネフィットの方が大きい医療行為を勧める」
というのが、医療現場における基本的な考え方です。
医療にゼロリスクを求めると、逆に得られるはずのベネフィットを失うことになります。
医療行為を受けるかどうかは個人の自由です。
それを強制する力は誰にもありません。
しかし、ベネフィットの方が明らかに大きいのに、「リスクの存在」を理由に「受けないことを推奨する」のは許されません。
薬の副作用の誇張に関する具体的な議論は、自著「医者が教える正しい病院のかかり方」でも扱っています。
また、「患者には勧めるのに医師自身は受けない治療がある」という誤解もよくあります。
私たちが患者さんに提供するのは、患者さんにとってベストな治療であり、「全く同じ状況に置かれたら自分が選ぶ治療」です。
以下の記事もご参照ください。
医師に対する患者の誤解、病院でよく出会う3つのケース
一般論を覆す隠れた新情報
「実は〇〇検診は受けてはいけない」
といった、一般に正しいとされていることを覆す隠された新情報を「すっぱ抜いた」内容を見ることがあります。
こうした「スクープ」的な発信は多くの人の関心を引きやすいため、常套手段として用いられます。
しかし、医学はゴシップではありません。
科学です。
科学において「ある情報が正しいかどうか」は、第三者が客観的に検証することで初めて明らかになります。
ある治療や検診が「必要だ」という主張の正しさを確かめるためには、膨大なコストと時間をかけて大規模な臨床試験を行ったり、膨大な過去のデータを解析したりする必要があります。
こうした検証を経る過程と、そこから得られた結論は、一般に広く公開されます。
多くの人の目にさらされ、それでも「生き残っていること」が、その情報の正しさを立証するからです。
もし、この堅牢なエビデンスを否定したいなら、「私見を大声で叫ぶ」だけでは不十分です。
同じようにコストをかけ、適切な手順で科学的検証を行い、同じ土俵で勝負しなければなりません。
エビデンスを否定できるのは、「それより確たるエビデンス」だけだからです。
もちろん医学は日進月歩です。
以前常識だと思われていたことが実は誤っていた、と分かることは、これまでの歴史で何度もありました。
しかし、この常識が覆るのは「週刊誌の紙面上」ではありません。
専門家の査読を経て世に出される学術論文や学会の場で繰り返し議論され、時間をかけて煮詰めた結果として「ゆっくり覆った」のです。
とはいえ、私は週刊誌を否定するつもりはありません。
そもそも私自身も週刊誌の取材を頻繁に受けています。
週刊誌の発信力は大きいため、むしろその力を借りたい考えです。
週刊誌にも有用な情報はたくさんあります。
読者がそれをどう解釈するかが大切でしょう。