外来では、「医師は当たり前のことと思っているのに患者さんは意外と知らない」という事実がたくさんあります。
こうした知識は、知らないがゆえに患者さんがストレスを感じる原因になることもあります。
このブログではこれまで、外来にかかわる役立つ情報を多く紹介してきました。
今回もいくつか、役に立つ知識を紹介してみようと思います。
即日受けられる検査は少ない
外来に初診(初めての受診)でやって来た患者さんに多い誤解として、「来院したその日に検査が受けられる」と思っている方がよくいます。
たとえば、胃カメラやCT検査を希望して病院に来て、
「今日は検査してもらえますか?」
と頼まれ、お断りした経験は数え切れません。
覚えておいていただきたいのは、
「即日検査を受けたい」という願いが叶うのは、よほど患者数が少なく、検査するスタッフや機械の数に余裕があり、予約枠が余っている例外的な病院だけ(緊急時を除く)
ということです(おそらくその病院は赤字です)。
検査の予約なしにやって来た患者さんが、来院したその日に検査が受けられることはほぼ不可能と思っておく方が良いでしょう。
その日に可能なのは、一部の血液検査やレントゲンなど、簡易的な検査のみです。
胃カメラなどの内視鏡検査や、CT、MRIなどの画像検査は特に、1回の検査にそれなりの時間を要します。
そのため、1日のうちに検査できる人数が限られています。
外来に定期的に通院する患者さんたちは、
「次回は3ヶ月後にCTを撮りましょうね」
という形で随分前に予約枠を押さえています。
さらに、入院患者さんも頻繁に検査を受けなくてはなりません。
入院するほど体の状態が良くないわけですから、頻繁に検査が必要であることは言うまでもありません。
よって、大学病院を含め、地域を支える大きな病院であるほど予約枠の確保は大変です。
「CTが1ヶ月待ち」というのはよくあることです。
もちろん、症状や血液検査結果などから、
「今すぐ内視鏡検査やCT検査が必要だ!」
と医師が判断した場合は、予約している人を待たせる覚悟で初診の患者さんを無理やり割り込ませます。
「今日する必要はないが、1ヶ月も待てない」というケースでは、たとえば1週間以内で空き枠が何とかとれないか、放射線技師と相談する、というケースもあります。
このように、比較的急ぎの検査は、病状に合わせてスタッフ同士が交渉し、枠を確保する、というのが一般的です。
その日に検査が受けられると思って外来に来て断られ、怒って帰る人もよくいますが、基本的には、
「外来に次回の検査予約をしに来た」
と思っていただくのが良いと思います。
患者さんには申し訳ありませんが、経験上、多くの病気はそれで十分間に合います。
電子カルテは便利
外来に定期的に通院している方で、これまでの検査結果をエクセルでまとめ、グラフを作って印刷して来てくれる方がいます。
これは実は必要ありません。
電子カルテには、全ての検査結果が記録されています。
医師は、過去の検査も容易に参照でき、画面上でグラフ作成も簡単にできます。
もしこれまでの検査結果の一覧が欲しい場合は、医師にお願いすれば普通は印刷してくれます。
ほぼワンタッチでできますから、この依頼に嫌な顔をする医師はいないはずです(病院固有の特別な規則でもない限り)。
他にも、これまでに処方した薬、受けた検査の種類と日程、入院した期間、作成した紹介状など、全ての情報を容易に参照できます。
受診時に、問診票にアレルギーを書いたことがあれば、アレルギー情報も登録されています。
受診したことのある病院での情報については、事前にメモ等で準備する必要はないと思っておいてください。
一方、他の病院から処方された薬や、他の病院で受けた検査の結果などは、一切の情報がありません。
手持ちの検査レポートがあるなら、全てファイルに入れて持っていくことをおすすめします。
全ての病院の電子カルテの情報が一元化され、どこからでも参照できるようになっているのが理想ですが、残念ながら現在そのようなシステムは存在しません。
これまでもらった検査結果のレポートは、全て検査項目別にファイリングしておくのがおすすめです。
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目の前で調べる医師は信頼できる
私は外来で患者さんから、
「あの先生はいつも目の前で本を見て調べたりするので不安だ」
と、他の医師の苦情を言われたことがあります。
しかし私は、外来で自分の記憶力に自信がない時はむしろ堂々と、
「ちょっとお待ちくださいね」
と言って本やガイドラインを調べます。
さらに、その本を患者さんにお見せして、
「ここにこう書いてありますね」
と一緒に確認することもあります。
自分の記憶力に頼らず、正しい情報をすぐに参照し、適切に患者さんに伝える方がむしろ大切だと私は認識しています。
現在、医療はあまりに多様化し、一人の医師では覚えきれないほど医学知識は膨大になりました。
薬の数は増え、治療は細かく専門分化し、どれほど頭の良い医師でも全ての知識を暗記することは不可能になっています。
この状況で、患者さんからのあらゆる質問に対して、自分の記憶だけを頼りに全てお答えすることはあまりに危険、というのが常識的な判断だと思います。
目の前できっちり調べてくれる医師は、この点を十分に理解し、自分の知識の限界を謙虚に認識している、むしろ頼りになる医師と思って良いでしょう。
もちろん目の前で、
「うーん・・・・」
と悩みながら調べて答えをなかなか出さないと、かえって患者さんに不安を与える危険性もあります。
医師は、全てを記憶しようと思う必要はない代わりに、「どこにアクセスするとどんな情報が得られるか」は完璧に頭に入れておく必要があります。
必要なのは優れた記憶力ではなく、必要な情報に即座にアクセスできる力と、そのための準備です。
今回は、外来にかかわる大切な情報をまとめました。
このブログでは他にも多数の、外来に役立つ情報をまとめています。
ぜひ参照してみてください。