医師として多くの患者さんと接していると、本当に様々な性格の方がいることを実感します。
私たちは医師になるため基礎的な問診法を学びますが、当然それぞれの患者さんの性格に合わせて臨機応変に話す内容を変える必要があります。
しかし、特に外来診療の限られた時間で、あらゆる患者さんに満足感を与えるコミュニケーションを実現することは難しいものです。
そこで今回は外来でよく出会う患者さんの例を挙げ、それぞれの方に前もって伝えておきたいことを書いておきます。
多くの方がどれかに当てはまるのではないかと思います。
不安で仕方がない患者さん
とにかく不安が強く、どんな検査や治療を提案しても、
「大丈夫ですか?」
「死にませんか?」
「リスクあるんですよね?」
と医師を質問攻めにしてしまう方です。
医師から「大丈夫です!」という言葉を聞きたいのですが、なかなか言ってもらえず、何となくはぐらかされたような気持ちで帰宅する。
そんな経験がある方は多いでしょう。
もちろん、初めて受ける検査や治療に不安感を覚えるのは当然のことです。
しかし、リスクがゼロの検査や治療は存在しません。
副作用や合併症が必ず一定の確率で起こり、その数%に当てはまる可能性は誰にでもあります。
ものによっては、重篤な副作用によって死に至るリスクのある治療もあります。
全身麻酔手術はその一つですし、抗がん剤など、大きな効果が期待できるものの副作用リスクも大きい、という薬もたくさんあります。
よって、どれだけ安心感を得たいと思っても、医師は患者さんに「大丈夫です!」と自信を持って即答することは基本的にできません。
無用に安心感を与え、万が一副作用や合併症が生じた時、トラブルに発展する恐れがあるからです。
よって、不安な時に医師から聞き出すべきなのは「大丈夫」という表面的な言葉ではなく、
副作用や合併症はどのくらいの確率で起こるのか?
どういうタイプの患者でそのリスクが上がるのか?
その条件に自分はどのくらい該当するのか?
といった客観的なデータです。
これをきっちり聞いておき、検査や治療の全容をはっきり把握することで不安感の軽減を目指すのが良いでしょう。
真面目で勉強熱心な患者さん
ネットや書籍を使って自分の病気を熱心に勉強される、非常に真面目な方です。
むろん、医師に治療を「丸投げ」するよりは、ご自身で勉強され、病気や治療について理解しておくことは非常に大切です。
しかし一方で、真面目すぎるせいで苦労される方もいます。
例えば、
あらゆる病気や症状に関して詳しい原因やメカニズムが分からないと不安になる
「原因が分からない」と言われると、医師の技能を疑う
といった方は結構います。
これについては「医者と患者はなぜ分かり合えないのか?4つの原因を分析」でも書いた通りですが、原因やメカニズムが分からなくとも、それに対する医学的に適切な対応は明らかになっている、という病気はたくさんあります。
また、最初は分からなくとも、徐々に経過を追うことで明らかになってくる、というケースも非常によくあります。
人間は非常に複雑な「ブラックボックス」のようなものです。
インプットとアウトプットの間にどんなメカニズムが働いているか未だに分からない、という事例はまだまだたくさんあります。
このメカニズムを全て知っているのが専門家、ではなく、
インプットの引き出しを多く持っていて、かつ、それらのインプットによってどんなアウトプットが得られるかを多く知っているのが専門家
です。
ここは自身の不安を軽減するためにも、よく知っておいた方がいいポイントです。
もう一点、真面目な患者さんに知っておいていただきたいことは、
年齢を重ねるにつれ、「疾患」と「加齢」の境界が徐々にあいまいになってくる
ということです。
物忘れや認知機能の低下、骨や関節の痛み、心肺機能の低下、それに伴う行動力の低下、消化機能の衰え(食事量の減少)などは、誰もが避けられない加齢現象です。
しかし真面目な人ほど、
自分の努力が足りなかったのではないか?
腕の良い医師の力があれば元に戻せるのではないか?
と思いがちです。
むろん私たち医師は、疾病によっても起こりうるこうした変化をきっちり見つけて適切に治療する責務があります。
しかし、医師には「若返らせる力」がない以上、こうした不便さを完全に解消することはできません。
名医は、加齢変化を受け入れつつ人生を楽しむことの「お手伝い」に長けている、と考えると良いのではないかと私は考えています。
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医療に詳しい患者さん
医療情報に非常に詳しく、医師の前で専門用語や業界用語を連発します。
医療者の間でしか使わないような略語なども駆使し、医師を驚かせます。
このタイプの患者さんには、
・医療関係者であり、実際に医療に詳しい人
・医療とは全く関係ないが、知識が豊富であることを暗に示しておきたい人
の2つのパターンがあると考えられます。
前者なら、医師側としても専門用語を遠慮なく使って話すことができます。
かえって説明が短縮でき、手間が省けるので説明がスムーズになる、というメリットもあります。
しかし医師にとっては、相手の素性が全く分からないのに「妙に詳しい」という状況は、一種の警戒心を生むリスクがあります。
よって医療関係者であれば、それを明らかにしていただいた方がお互い安心して歩み寄れるでしょう。
しばらく関係ができた後に「実は相手が医療関係者だった」と分かることほど医師にとって当惑することはないからです。
一方、後者の場合は「あえて」専門用語を使うことで、言い方は悪いですが、「私はちょっと詳しいですよ」というアピールもあるようです。
この場合、実は用語の使い方に誤りが多く、かえって意図が伝わりにくいことが多くあります。
難しい言葉を使おうとせず、ご自身の言葉で伝えた方がよほど伝わりやすい、と思うこともあります。
専門用語の意味を十分理解していて、その方がコミュニケーションがスムーズに取れる、という言葉以外は、無理に専門用語を使わない方がいいだろうと私は思います。
積極的すぎる患者さん
医師と近い距離で接することを求める、非常に積極的な患者さんがいます。
付き添いで来ている家族を指して、
「この人もここが調子悪いらしいの、ついでに診てもらえない?」
と言ったり、普段から病院によく電話をし、担当の医師につないでもらって相談しようとしたりする方もいます。
メールアドレスや電話番号、住所を聞き出そうとする方もいらっしゃいます。
確かに、積極的に医師とコミュニケーションを取ろうとする姿勢は、良好な人間関係を築く上で重要です。
しかし、私はいつもそういう方を相手にする時、その背後に「遠慮がちで消極的な患者さん」の存在を意識します。
「先生にこんなことを聞いたら迷惑だろうか?」
「相談したいけど今は忙しそうだからやめておいた方がいいだろうか?」
「家族の相談もしたいけど、自分にそんなに時間を取ってもらったら悪いだろうか?」
こう考える人もたくさんいます。
家族を「ついでに」診たり、電話相談を受け付けたりすることは、一見親切なようですが、積極的な方に手厚く対応し、控えめな方ばかりが損をする状況を作り出すことを意味します。
積極的な方を優先することによって、受けられる医療サービスに不平等があってはいけません。
よって私は基本的に、全ての方に平等に、ルール通り受診していただくようお願いします。
私自身も相手に気を遣って積極的に質問や相談をするのが苦手だ、というのも理由の一つです。
以上、外来で出会う患者さんの4つのタイプを見てきました。
ひとたび病気になると、不安や焦りで頭がいっぱいになってしまい、冷静な判断は難しいものです。
元気なうちにこうした知識を持っておくことで、医師と患者との距離を縮めておくことが大切だと私は考えています。
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