胃癌の手術では、胃を3分の2ほど切除するか、あるいは全部摘出するかのどちらかであることがほとんどです。
胃は食べたものを一時的にためておく袋ですから、これが小さくなる、あるいはなくなると、これまでと食生活を変えなければなりません。
どう変えればよいのでしょうか?
今回は、胃癌の手術後のことについて解説します。
胃癌の手術を受ける方は、どのくらい入院しないといけないのかを知りたい場合も多いかと思います。
私の経験上も、実際手術を受けることが決まって一番最初にきかれるのは、手術の内容やリスクよりも入院期間です。
職場にいつ復帰できるかを伝えないといけないこともあれば、医療保険の関係でおおよその入院日数を知りたい場合もあるでしょう。
そちらについても合わせて解説したいと思います。
胃癌の手術の入院期間
胃癌の手術には、開腹手術と腹腔鏡手術の2種類あります。
胃癌の手術について詳しく知りたい方はこちら
術後に大きな問題がなければ、腹腔鏡手術での入院期間は術後から数えて10日〜14日程度です。
開腹手術でも大きく変わりませんが、入院期間が2日ほど長くなります。
我が国のデータベースによれば、腹腔鏡が13 日、開腹が15日となっています。
もちろん病院によって方針は異なりますので、経過が良ければ術後1週間程度で退院ということもあります。
術後の合併症とは?
前項で「術後に大きな問題がなければ」と但し書きをしました。
どんな手術でも一定の確率で「合併症」が起こりうるからです。
合併症が起こると、入院期間は月単位で長引くこともあります。
合併症は様々にあり、そのすべての可能性を書き上げることはできませんが、胃癌の手術の場合に特徴的な合併症を2つだけ挙げておきます。
縫合不全
縫合、つまり縫い合わせたところが「すきま漏れ」を起こすことです。
近年では機械をつかって縫合することがほとんどですが、手術でいくら細かく縫い合わせても、自分の治癒力で肉が盛ってきて治らなければすきまが空いてしまいます。
そのため、傷が治りにくいリスクを持っている方は、縫合不全を起こす確率が高くなります。
例えば、肥満、喫煙、ステロイド治療中、透析などがリスク因子です。
すきま漏れが起こると、食べたものがお腹の中に漏れて重症の腹膜炎を起こします。
多くは再手術が必要となります。
こうなると、2ヶ月、3ヶ月と入院期間が長引くことがあります。
縫合不全が起こる時期は、術後3、4日経過し、食事を取り始めた頃が多い傾向がありますが、1週間ほど経過してから遅れて起こることもあります。
発熱や腹痛が起こるのが典型的です。
胃内容排出遅延
胃を切除すると、胃が小さく形が変わりますので、蠕動運動が落ちることがあります。
胃の蠕動が落ちると、胃の中に入ったものを下流へ送り出すことができなくなり、胃の中に溜まりっぱなしになります。
その状態で食事を摂ると嘔吐を繰り返してしまいます。
これを「胃内容排出遅延」と呼びます。
胃の蠕動運動を回復させるため、蠕動を促進する薬を使ったり、体を動かしたりしてもらいますが、通常治るのに1ヶ月近くかかります。
入院期間もその分長引きます。
自然に治ることが多く、再手術が必要となることはほとんどありません。
術後の生活の注意点
胃癌の術後の生活ではどんなことに気をつければ良いの?
誰もが気になることでしょう。
胃は食べたものを一時的にためておく袋です。
これが小さくなる、あるいはなくなるのが胃癌の手術です。
胃癌の手術後もこれまでと同じような速さで同じような量を食べると、胃に十分に食べたものを溜めておけずにそのまま下流へ落ちていってしまいます。
こうなったときに起こる様々な症状を、「ダンピング症候群」と呼びます。
ダンピング症候群は誰しもに起こりうるもので、合併症ではなく、胃切除後のいわゆる後遺症です。
ダンピング症候群は、早期ダンピング症候群と後期ダンピング症候群の二つに分かれます。
早期ダンピング症候群
食後20〜30分後に生じます。
腹痛や、吐き気、嘔吐が起こったり、動悸がしたり顔がほてったりめまいがするというような急性の症状を生じます。
多くは1〜2時間ほど安静にしていれば自然に治ります。
後期ダンピング症候群
食べたものが一気に小腸へ落ちていくことにより、一時的な高血糖になります。
そうすると、体は「食べ過ぎた!」と判断し、高血糖に反応してインスリンを分泌して血糖を下げようとします。
しかし実際にはそれほどたくさん食べたわけではないので、その直後に低血糖になります。
低血糖の症状は、動悸、発汗、手の震え、頭痛など様々です。
この症状は、食後2-3時間後に起こり、30-40分ほど持続します。
血糖値を上げれば良いので、間食することで回復します。
なお、ダンピング症候群には含まれませんが、以下のような変化も起こります。
・胃切除後の消化、吸収不良による下痢
・胃切除後の鉄分やビタミンB12の吸収不良による貧血
・胃切除時に胆のうの収縮をコントロールする神経(迷走神経)も切ることによる胆石
ダンピング症候群の予防法
胃癌の手術受けた方は、必ず一回は上記のように失敗をします。
それまで長い間体にしみ付いた食事のペースを突然変えることが難しいからです。
防止策としては
・1回の食事量を減らし、食事回数を増やすこと
・1回の食事にゆっくり時間をかけること
・たんぱく質と脂肪が多く、糖質の少ない食事を摂ること
が挙げられます。
どのくらい一度に多く食べると症状が出るかは個人差が大きく一概には言えませんが、誰しも時間が経てば自分のペースがつかめるようになってきますので、心配はいりません。
また、術後は栄養士からの栄養指導があり、その際に直接食事の方法を指導してもらうことができます。
そこで、疑問点をきいておくと良いでしょう。
「胃の手術をしたら一生、こういう食べ方をしないといけないの?」
とがっかりする方がいるかもしれません。
胃は再生しない臓器なので、胃は小さいままですし、原則食べ方は制限を受けたままです。
しかし実際胃の手術を受けた患者さんを見ていると、1年、2年と経つうちに、一度に食べられる量が増えてきます。
中には、術前と全く同じ食生活だと言う方もおられます。
個人差はありますが、ある程度体が適応するようです。