ヘリコバクターピロリ(ピロリ菌)が胃がんの原因になっていることはよく知られていますが、胃がん以外にも多くの病気を引き起こします。
今回は、ピロリ菌が原因だとほぼ確実にわかっていて、治療のためにピロリ菌の除菌が必要な病気を一覧で解説します。
紹介する病気はなんと8種類です(胃がんは含みません)。
ピロリ菌と胃がんの関係、除菌方法などについては以下に詳しくまとめています。
いずれも身近な病気ばかりです。
ピロリ菌の関与が確実ではないが疑わしい、というものを入れれば、さらに多くなります。
これほどまでに、ピロリ菌は我々のからだの不調に大きく関わっているということです。
私は消化器が専門の医師ですが、驚くべきことに消化器以外の病気にもピロリ菌が関与するものがあります。
それも合わせて順に見ていくことにしましょう。
胃炎(ヘリコバクターピロリ感染胃炎)
ピロリ菌は胃の粘膜に炎症を起こします。
炎症のために胃の粘膜は萎縮し、萎縮性胃炎と呼ばれる状態になります。
この萎縮性胃炎こそが、胃がんが発生する高いリスクを有している病気です。
除菌により、胃の炎症、粘膜萎縮はいずれも改善し、胃がん発生を予防できるのは確実です。
胃がんを予防するために、除菌は強くすすめられています。
消化性潰瘍
胃潰瘍・十二指腸潰瘍を合わせて消化性潰瘍と呼びます。
消化性潰瘍の大きな原因の一つはピロリ菌で、ピロリ菌が原因である潰瘍の70%が除菌だけで治癒します。
さらに、除菌すれば消化性潰瘍の再発は2%以下です。
ピロリ菌が消化性潰瘍の原因になっていることは明らかで、他に原因のない消化性潰瘍にはまず除菌がすすめられます。
消化性潰瘍に関してはこちらもお読みください
胃食道逆流症
過剰に分泌された胃酸が食道に逆流し、胸焼けや呑酸(酸っぱいものが上がってくる感じ)などの症状を起こす病気です。
この中で、内視鏡で観察して食道に炎症が起こっているもの「逆流性食道炎(びらん性胃食道逆流症)」と呼びます。
ピロリ菌に感染した胃は、胃の出口付近の「前庭部」と呼ばれるところから炎症が始まります。
炎症が前庭部にとどまっているときは、胃酸が過多になることがわかっており、これが胃食道逆流症の原因になります。
この状況では、ピロリ菌除菌によって胃食道逆流症が改善します。
ただし、前庭部の炎症は徐々に胃全体に広がっていき、胃全体の粘膜が広く萎縮し、前述した萎縮性胃炎となります。
こうなれば、胃の粘膜全体が萎縮して胃酸の分泌量が減少します。
ピロリ菌除菌を行うと萎縮性胃炎が改善し、胃酸分泌が増加することになります。
したがってピロリ菌除菌によって、逆に一時的な軽い逆流症状が現れる人は一部にいます。
むろん、それほど大きな問題になるほどではなく、こういった場合も除菌の方が得られる利益が大きいことから除菌が推奨されています。
胃食道逆流症についての詳しい記事はこちら
胃過形成性ポリープ
胃の良性のポリープです。
ピロリ菌が原因と考えられ、除菌で7割程度が縮小します。
多発している場合は除菌がすすめられています。
がん化する可能性は1.5-4.5%とされています。
特に2cmを超えるものは、がん化の可能性を考慮して内視鏡(胃カメラ)で切除します。
機能性ディスペプシア
胃には潰瘍や胃炎など見た目にわかる病気が何もないにもかかわらず、胃のもたれや胃の痛みなどの胃の不快な症状が続く病気です。
ピロリ菌の関与はまだ確実とはいえないまでも、ピロリ菌の除菌によって症状が改善することが多く示されています。
MALT(マルト)リンパ腫
リンパ腫の一種で、ピロリ菌がその発生に強く関与していると考えられています。
なぜなら、その60〜80%はピロリ菌除菌によって治癒するからです。
ただし、リンパ腫はリンパの流れに乗って全身に広がる病気です。
病気が胃にとどまっている場合は、ピロリ菌除菌が治療として強くすすめられます。
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
自分の体の中で血小板に対する抗体が作られてしまい、それにより血小板が破壊される病気です。
血小板は血を固める作用があるため、血小板が著しく減少することで、全身のいたるところで出血を起こしやすくなります。
「紫斑」とは「青あざ」、つまり皮膚の内出血のことです。
知らないうちにこのような内出血を体中に起こします。重篤な場合は脳出血が起こることもあります。
ピロリ菌感染と強く関連しているとされており、ピロリ菌が陽性の方にはまず第一にピロリ菌除菌を行います。
40〜60%の人で除菌によって血小板が増加します。
鉄欠乏性貧血
血液の成分であるヘモグロビンを作るには鉄分が欠かせません。
この鉄分が足りなくなると貧血を起こします。
これを鉄欠乏性貧血と呼びます。
通常は鉄分の摂取不足や、胃がんなどで胃を切除した方で、鉄分の吸収がうまくいかなくなることで生じます。
しかし、理由ははっきりしませんが、ピロリ菌の感染自体が鉄欠乏性貧血を引き起こすことがわかっています。
したがって鉄欠乏性貧血に対しては、鉄剤(鉄を含んだ薬)の使用に加えてピロリ菌の除菌がすすめられています。
以上が、ピロリ菌が引き起こす様々な病気です。
まだ他にも多くの病気に関わっている可能性があり、今後さらにいろいろなことが明らかになるでしょう。
ここに挙げたのは、胃がん以外の病気です。
ピロリ菌除菌はやはり胃がんの予防という観点で非常に大切です。
以下の記事も合わせてお読みください。
(参考文献)
消化性潰瘍診療ガイドライン2015/日本消化器病学会
H.pyroli感染の診断と治療のガイドライン 2016/先端医学社
専門医のための消化器病学 第2版/医学書院