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ラジエーションハウス第1話 感想&解説|金属アーチファクトと造影剤アレルギー

4月8日に、放射線技師が主役の医療ドラマ「ラジエーションハウス」が始まりました。

 

皆さんがCTやMRI、レントゲンなどの画像検査を受ける際、検査室で患者さんに直接的に関わるのは放射線技師です。

医師や看護師など他の医療スタッフと同じ服装であることも多いため、「放射線技師」をご存じない方も多いかもしれません。

 

放射線技師は、病院で行われる多くの画像検査に関わる、医療現場になくてはならない存在です

放射線技師がいなくては、医療は成立しません

こうした存在にスポットが当たる、というのは、医療現場を広く知っていただく上で非常に貴重なことだと思います。

 

もちろんドラマですから、やや現実と異なる脚色は必要です。

例えば、病室に行って患者さんの様子をうかがい、患者さんのご家族と病状について話し合う、といった仕事を放射線技師が行うのは、一般的ではないでしょう。

放射線技師は画像検査のプロフェッショナルですから、病室に行くのであれば、それはポータブルX線検査など「検査を目的とした訪室」です。

また、CTやMRI、造影検査などが休みなくフル稼働している中、放射線技師が病室でゆっくり患者さんと話す時間はなかなかないほど多忙でしょう

 

一方、病室で患者さんの思いを傾聴するのは、看護師や医師などの別の職種が担当しています。

医療現場は、多くの職種間で「分業」が進んでいます

しかし、ドラマでは特定の職種にスポットを当てる都合上、「その職種の業務範囲が現実よりかなり広くなってしまう」という現象が起こってしまうのですね。

余計なお世話ではありますが、学生さんが医療ドラマをきっかけに「この職種を目指したい」と考える時は、少し注意すべき点ではあります。

 

さて、第1話では、画像検査において重要な「金属アーチファクト」「造影剤アレルギー」というテーマが登場しました。

日常臨床においても極めて重要なこの二つのポイントを、簡単に解説してみましょう。

 

アーチファクトとは?

CTやMRIのような画像検査において、診断の妨げとなる悩みの種が「アーチファクト」です。

アーチファクトとは、「虚像」「実際には存在しないもの」という意味です。

何らかの要因で、画像に歪みやノイズが生じてしまい、画像が見にくくなる現象のことですね

 

例えば、最も分かりやすいのが「モーションアーチファクト」でしょう。

撮影中に被写体が動いてしまうと、動いた部分に画像のブレが生じてしまう

これは普通のカメラでも経験することですから、イメージしやすいと思います。

じっと静止できない赤ちゃんに画像検査を受けてもらう際には、こうしたアーチファクトを防ぐため、鎮静剤を使って眠ってもらうこともあります。

 

また、子供でなくても、私たちは自分の体を完全に静止することはできません

MRIのように数十分かかるような検査中に、終始呼吸を止めておくことはできません。

心臓は常に拍動していますし、血液は勢いよく血管の中を流れています。

これらが原因で生じるモーションアーチファクトに対し、放射線技師が撮影条件を変えたり、画像補正を加えたりすることで、それを低減する対策を講じてくれるわけです。

 

さて、今回問題となったのは、頭部CTとMRIで見られた、義歯(入れ歯)と脳内のクリップによる金属アーチファクトでした。

金属が体内にあると、CTやMRIに大きなノイズが生じ、画像が乱れて診断に悪影響を与えることがあります。

まさに今回のドラマのように、CTで放射状にハレーションを起こしたような画像の乱れが生じ、その周囲が観察しづらい、という現象を私たちは日常的に経験します。

 

では、五十嵐技師(窪田正孝)が今回MRI画像に対して行なった手作業での画像補正は、リアルなのでしょうか?

放射線技師のゆーすけさん(@yuuu_radio)に聞いてみたところ、以下のようなお返事をいただきました。

ゆーすけさん

生データから抽出した画像を計算処理してアーチファクトを補正する作業は不可能ではないと思いますが、現実的には、アーチファクトを低減させるために撮影条件を変えたり専用のアプリケーションを用いるなどして対応しているのが一般的ですね

放射線技師がアーチファクト低減のために様々な施策を講じているのは事実ではあるものの、それを優秀な技師の「マニュアル操作」に依存するのは現実的ではない、ということですね。

ここはドラマ的な演出、ということでしょう。

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悩ましい造影剤アレルギー

患者の菊島さん(イッセー尾形)は、かつて脳動脈瘤のクリッピング術を受けていました。

この金属クリップが金属アーチファクトを生み、CTやMRIでの観察を難しくしていました。

今回の頭痛やけいれん発作の原因も脳動脈瘤にあるのではないかと考えた甘春医師(本田翼)らは、菊島さんに血管造影検査をしようとします。

 

血管造影検査は、カテーテルを脳血管に進め、そこに造影剤を流すことで血管の走行を画像化する検査のこと。

脳動脈瘤は脳の動脈にできた「コブ」のような病変ですから、造影剤を流すことでコブが描出される、というわけです。

ところが、菊島さんには造影検査を避けなければならない重要な問題がありました。

それが「造影剤アレルギー」です。

 

造影剤にアレルギーを持っている人は、必ず一定の割合で存在します。

場合によってはアナフィラキシー(重篤なアレルギー反応)を起こし、死に至る危険性もあります。

アレルギーを持っているかどうかは造影剤を投与するまで正確には分からないため、検査前に必ずその旨を患者さんにお話しし、アレルギーが起こった際にはすぐに対処する点に同意いただきます

しかし今回のように、以前にアレルギー反応を起こしたことがある場合は、よほど必要性がリスクを上回るケースを除き、最初から造影剤の使用を避けます

 

今回は、このリスクを負ってでも造影検査を行いたいという甘春の強い希望で造影検査を行う、という例外的な対応だったわけですね。

 

ちなみに造影剤には、アレルギーの他にもう一つ、気をつけるべき重要な副作用があります。

それが腎障害です。

腎臓の機能が悪い方は、造影剤を用いた検査によって腎臓の障害が悪化するリスクもあるのです。

 

別の造影検査の際、技師らが「腎機能は正常だし造影剤アレルギーもない」とあえて確認したのはそれが理由ですね。

このように、検査が患者さんにとって安全に施行可能かをチェックするのも、放射線技師の大切な仕事なのだと思います。

 

画像検査は診断ツールの一つ

五十嵐の懸命の画像補正により、菊島さんの頭痛とけいれんの原因は「ウエステルマン肺吸虫」という寄生虫感染症であることを、技師らは見事に言い当てました。

 

膨大な数の臨床画像を見てきた経験と、豊富な知識を持つ放射線技師は、確かに高い画像診断力を持っています

特に緊急検査では、医師は放射線技師と画像を一緒に見て議論することもあります。

当初、技師を見下した態度だった放射線科医の甘春が五十嵐の画像診断力に驚き、技師たちが溜飲を下げるというのもまた非常に痛快な展開です。

 

ただ、ここで注意すべきなのは、画像検査は「多くの診断ツールの中の一つ」という位置付けだということです。

例えば今回、菊島さんは原因不明の頭痛とけいれんがあり、かつ世界的に有名なカメラマンとして発展途上国への豊富な海外渡航歴がありました。

この経過であれば、症状の原因を探る上で寄生虫感染症は必ず頭の片隅に置いておくべきで、まずは「寄生虫感染症を狙って」髄液検査や血液検査などを行い、この結果に解決の糸口を探る必要があるでしょう。

特に、副作用リスクなど画像検査に制約があるケースでは、画像検査に頼らず、他のツールを使ってこうした診断にたどり着くことが現実的には望ましいと言えます。

(もちろん海産物の摂取歴など、寄生虫感染症を念頭に入れた問診も大切です)

 

病院で検査を受ける皆さんが覚えておくべきなのは、検査ごとに「得意な病気」と「不得意な病気」がある、ということです。

血液検査をすれば診断しやすい病気もあれば、脳波検査が有用な病気も、心電図が有用な病気もある。

例えば胆石の診断には、血液検査より腹部超音波(エコー)検査の方が有用ですし、胃がんの診断にMRIはあまり有効ではありませんが、胃カメラは必須のツールです。

画像検査を上手に使いつつ、他にもさまざまなツールを併用して正確な診断を目指す、というのが私たち医療スタッフの使命なのですね。

 

むろん「ラジエーションハウス」は画像診断の面白さや美しさがテーマのドラマですから、この点にケチをつけるのはあまりにも野暮なことです。

エンタメを利用して、診断における誤解しがちな基本事項に少しだけ触れておきたいというのが私の意図です。

 

以下の記事もぜひご覧ください。

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病院で行う検査に対して患者さんがよく誤解している3つのこと

 

第2話の解説はこちら!

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