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ラジエーションハウス第4話 感想&解説|医師と技師のリアルな関わり

ラジエーションハウス第4話では、股関節痛肩関節痛という二つの症状が登場しました。

これらの症状に対するスタッフらの対応は、いずれも非常に教訓的で興味深いものだったと思います。

なぜ「教訓的」なのか?

今回もドラマのストーリーを振り返りながら解説してみたいと思います。

 

精密検査の適応の難しさ

一人目の患者さんは、長引く股関節痛で受診した60代の男性

血液検査で炎症所見があることに甘春(本田翼)は違和感を抱いていましたが、整形外科医の辻村(鈴木伸之)は、レントゲンで変形性股関節症と診断

精密検査は不要と判断します。

 

ところが、この対応を疑問視した五十嵐(窪田正孝)は、いつものように独力で他科の医師のオーダーを取り付け、股関節のMRIを撮影しました。

結果は「異常なし」でしたが、慢性的な股関節痛があるなら「特発性大腿骨頭壊死症」を念頭に入れるべきだ、というのが五十嵐の主張でした。

 

特発性大腿骨頭壊死症は、厚労省の難病指定を受けた特定疾患です。

1年ほど前、俳優の坂口憲二さんがこの疾患で活動休止され、ニュースになったためご存知の方も多いかもしれません。

一般的な知識は以下の記事で解説しています。

大腿骨頭壊死症の原因とは?坂口憲二さん活動休止のニュースを解説

 

今回のストーリーを見て、

「始めからMRIを撮っておけばいいのに、なぜ五十嵐が指摘するまで撮らないのか?」

と思った方がいるかもしれません。

実はこの症例のように、「どんな患者さんに精密検査を受けてもらうべきか」は、現場でも非常に難しい問題です

 

今回は、整形外科医が痛みの種類や症状の持続期間などの経過を考慮し、かつ実際に患者さんを診察した上で、「レントゲンのみで十分である」と判断した症例でした。

確かに、レントゲンはMRIより得られる情報は少ないのですが、

「レントゲンで分かるような大きな異常がなければ、一旦経過を見てもよい」

という判断だったわけです。

レントゲンはものの数分で撮影でき、患者さんへの負担も少ない検査ですから、短期間で定期的に撮影し、経過をフォローすることが可能です。

 

一方MRIは、撮影に数十分から1時間近くかかることもある検査ですから、予約枠も限られています。

あらゆる患者さんにMRIを撮影していると、真にMRIが必要な人が予約を取りづらくなり、かえって不利益を被る人が増えることになります

そして当然ながら、MRIのハードルを下げれば下げるほど、多くの人が「空振り」に終わります

結果として無用に膨れ上がった医療コストが、将来の現場に跳ね返ってきます。

 

臨床現場では、MRIのような精密検査を、どんな患者さんに、どのタイミングで受けてもらうべきか、という点で常に医師の判断力が試されています

そのためには、患者さんへの入念な問診と身体診察、そして負担の少ない簡易的な検査(レントゲンや血液検査など)から、どれだけの情報を導き出すかが勝負なのです。

 

今回は優秀な五十嵐の判断ですから、MRI撮影は医学的に妥当、ということで間違いないでしょう。

しかし整形外科医の辻村にとっては、直接会って経過を聞き、体に触れて診察した結果として経過観察を容認した担当患者ですから、五十嵐のスタンドプレーには我慢できないかもしれません。

「せめて撮影前に一声かけてくれれば…!」というのが主治医の本音でしょう。

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医師と技師の関わりはリアル?

二人目の患者さんは、ロックバンドでギターを弾く大学生の女性。

右肩の痛みを訴えて病院を受診しますが、レントゲンの結果、異常は見つかりませんでした

痛みの原因を突き止めたい放射線技師の広瀬(広瀬アリス)は、レントゲンの再検査を依頼。

これにより、気胸を発見します。

肩関節のレントゲンで、なぜ呼吸器疾患である気胸が見つかったのか。

女性の仕草から痛みが背中まで広がっていることを察した広瀬が、撮影範囲を広げていたからでした。

 

気胸とは、肺に穴が空き、空気が胸腔内(肺がおさまっている胸の空間)に漏れ出す病気です。

胸の痛みや咳、呼吸困難などの症状が典型的ですが、今回の女性のように背中に痛みが広がることもまれにあります。

 

今回の面白いポイントは、技師である広瀬が、患者さんを見て機転を利かせ、撮影の方法を微妙に変更したことです。

実際、私自身も救急外来などで撮影条件を考える際、放射線技師から助言をもらうことがよくあります。

「この条件も追加した方がいいですよ」

「このオーダーよりこちらのオーダーの方がいいですね」

「ここまで広げて撮っておいた方がよさそうです」

といった放射線技師からのフィードバックに助けられているということです。

放射線技師は画像の専門家ですから、どのようにすれば良い写真を撮れるかを最もよく知っているのです。

 

余談ですが、私たち医師がレントゲンをオーダーする際は、細かな項目に分かれた撮影部位と撮影条件の中から、必要なものを選ぶ仕組みになっています。

たとえ同じ部位を撮影する場合でも、おびだたしい数の撮影条件の項目があります。

例えば、「頭のレントゲン」というだけで、以下のように非常に多くの項目があります(NECの電子カルテシステムから引用)。

頭蓋骨A→P

頭蓋骨P→A

頭蓋骨R→L

頭蓋骨L→R

頭蓋骨Towne

頭蓋骨Axial

頭蓋骨Waters

頭蓋骨接線

頭蓋骨(臥位)A→P

頭蓋骨(臥位)L→R

トルコ鞍R→L

トルコ鞍Towne

トルコ鞍A→P

トルコ鞍LAT

「頭のレントゲン写真を撮っておいてください」というアバウトなオーダーではダメだということです。

患者さんの状況や必要性に応じて適切な方法を選ばなくてはなりません

こうした選択において、医師と放射線技師とのディスカッションが現実にも行われているということです。

 

また、今回五十嵐が言ったように、撮影条件が違うと、狙っている異常以外は見つけにくいのが一般的です。

五十嵐がレントゲンを見て気胸を疑いつつ、

「撮影条件が肩関節にあったので分かりにくい」

と言い、甘春が、

「すぐに胸部の条件で再撮しなおしてもらえますか」

と広瀬に指示したのは、そういう意味です。

 

今回は肩関節の疾患を狙って撮っているため、通常の肺野を見るための胸部レントゲンの条件とは異なりますから、肺の疾患を見つけるのは本来難しいはずです。

この悪い条件下できっちり気胸を見抜いたのは、五十嵐のファインプレーだったわけですね。

 

最後に、この撮影条件について、第1話でも登場していただいた現役放射線技師のゆーすけさん@yuuu_radio)にご意見を伺ってみました。

ゆーすけさん

私たちは、被写体に応じて管電圧や線量などの条件を使い分けています。

これによって骨を見やすくしたり、肺野を見やすくしたりと、見たいものを見やすく写すことができます。

最近ではデジタル処理によって、撮影後でもある程度調整が可能になっている部分もありますよ!

電圧や線量など、状況に応じて様々に使い分けながら診断に有用な写真を撮影してくれているということですね。

というわけで、今回の解説はここまで。

来週もお楽しみに!

 

第3話の解説はこちら!

ラジエーションハウス第3話 感想&解説|乳がん検診について知っておくべきこと