ラジエーションハウス第7話では、第3話に引き続き、乳がんの患者さんが登場します。
今回は、
「精密検査を受けなければならないが、予約がいっぱいですぐには受けられない」
という状況が描かれました。
このストーリーを見て、
「もし自分がこの患者だったら…」
と不安になった方も多いのではないでしょうか?
実際には、特定のスタッフに頼み込んで検査をしてもらう、というわけにもいきません。
では、現実的に私たちはどう対応しているのでしょうか?
現実とフィクションの境界を知っていただくためにも、分かりやすくまとめておきましょう。
精密検査の予約と優先順位
今回の女性患者さんは、マンモグラフィーで乳がんが疑われ、医師から「超音波検査が必要」と指示されます。
ところが、超音波検査の予約は2ヶ月先までいっぱい。
待っている間に病気が進行するかもしれないと考えた患者さんと夫は、早めに検査を受けさせてもらえるよう医師に懇願しますが、
「同じように検査を待っている患者さんもいる」
として取り合ってもらえません。
そこで夫は、中学の同級生である放射線技師の軒下(浜野謙太)や、院内で偶然すれ違った五十嵐(窪田正孝)に「検査の日程を優先的に早めてほしい」と伝えます。
しかし残念ながら、
「病院としては個人的な感情だけで一部の患者を優遇することはできない」
という対応でした。
確かに、比較的患者数の多い大きな病院では、検査の予約はかなり先まで埋まっていることが一般的です。
私たちも外来で、精密検査が必要になった患者さんに、
「CTは1ヶ月先まで埋まっているので、来月にしましょう」
といったセリフを言わねばならないことは日常茶飯事です。
今回のドラマで問題となったのは、
精密検査が必要な「乳がん疑い」の病変であるにも関わらず、「予約がいっぱいだから」という理由で検査を受けさせてもらえず、患者さんやご家族が不安に苛まれる
というポイントでしたね。
「がんかもしれないという思いで不安になり、日常生活にも悪影響が出る」
として、この問題を強調していました。
では、実際こういう場面で私たちはどう対応しているでしょうか?
基本的には、答えは以下の2パターンしかない、と考えます。
・緊急で精密検査が必要な病気なら、医師が検査室に連絡し、予約を早める
・精密検査まで期間があいても許容される病変なら、その旨をきちんと患者に説明する
医療は緊急性の序列で成り立つ
ドラマでも説明されたように、いくら知り合いが病院にいるからといって、特定の個人を優遇するわけにはいきません。
あくまで検査の順番は「緊急性の序列」に基づくものです。
つまり、緊急性の高い患者さんなら、優先的に検査を受けられるよう手配する、というのが基本ですね。
具体的には、もし「超音波検査が2ヶ月先」という状況が本当に医学的に許容されないなら、私たちは検査室に直接連絡し、交渉を始めます。
「何とかどこかにねじ込んでもらえないか」
と当該部署に頭を下げるわけです。
もちろん、マンパワーや器械の数に限界はありますから、これでも不可能なことはあります。
その場合は、対応が可能な病院に紹介する、という方法に切り替える必要があるでしょう。
今回は、「患者さんの夫が多くの病院に掛け合ったが、どこも予約がいっぱいで対応してもらえなかった」という話でしたね。
真に緊急性の高い状況であるなら、「対応可能な病院を紹介する」というところまでは「担当医の責任」と言えるでしょう。
ただし、これは「本当にその病気が『待ったなし』の状況なら」という条件付きです。
当然ながら、「2ヶ月待っても大丈夫」という場面は多々あるわけです。
こういうケースでは、医師はきちんと患者さんに、
「検査まで間があいても病気に大きな変化は起こらない」
という旨を説明し、「検査まで待ち時間が発生することが患者さんに大きな不利益を及ぼさない」という点を強調すべきでしょう。
今回は「本当に急ぎの案件なのかそうでないのか」が明らかにされないまま、患者さんは「宙ぶらりん」の状態にさせられていましたね。
結果として患者さんは、不安のどん底に突き落とされてしまいました。
現実にはこうした状況が起こらないよう、スタッフは十分に配慮している、とお考えいただくと良いかと思います。
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患者さんを安心させるのは難しい
検査の予約枠がいっぱいの状況で困る夫に共感した五十嵐は、
「どうしても助けてあげたい」
「技師としてできることを探す」
として、マンモグラフィーの再検査を実施。
その結果、良性腫瘍である可能性が高いことが判明します。
五十嵐からこの結果を聞き、患者さんと夫は安堵のあまり涙しました。
私たちが患者さんに検査結果を説明する時は、実は「異常なし」と伝えるより「異常あり」と伝える方が簡単です。
検査で誰が見ても明らかな異常が見つかれば、それが客観的に検証可能な、明確な答えになるからです。
逆に、「異常がない」と伝えることは、それより数段難しいものです。
「この検査では異常が見つけられなくても他の検査をすれば見つかるかもしれない」
「今は異常が見られなくても、数日後に検査をすればようやく見つけられるような異常があるかもしれない」
という状況を完全に否定することはできないからです。
「あること」を証明するより、「ないこと」を証明する方が遥かに難しいのです。
その点では、マンモグラフィーという一つの切り口だけで、患者さんを「泣いて喜ぶほど安心させてしまう」という行為は、実際には「少し危ない」かもしれません。
のちに行った精密検査で「悪性だ」として結果が再び覆ったとしたら、その時の患者さんの絶望は計り知れないからです。
「悪性でない可能性もありますが、生検(細胞を一部とって顕微鏡で調べること)を受け、最終的な診断を待ちましょう」
と伝え、患者さんにある程度「不安なままでいてもらう」という配慮が医療者には求められるでしょう。
こうした姿勢がかえって患者さんを守ることにつながりますし、医療者自身が自分の身を守るためにも重要です。
実際にはもちろん、放射線技師が検査結果を患者さんに説明することは一般的ではありませんので、これを外来担当医が行う、という形が現実的ですね。
今回は、以上の点から非常に重要なテーマが描かれたと思います。
こうした場面で安心して医療が受けられるよう、ここに書いた医療機関での慣習は知っておくと良いかと思います。
乳がん検診については第3話を参照してください。
ラジエーションハウス第3話 感想&解説|乳がん検診について知っておくべきこと第8話はこちら!
ラジエーションハウス第8話 感想&解説|意外に知らない虫垂と盲腸の違い