臨床研修の期間は原則たった2年しかありません。
この2年間を終えると、研修医の皆さんは各科の専門領域だけを学ぶことになります。
研修医の間に、いかに広い範囲の知識を身につけておくかがその後の臨床能力を左右します。
今回は、私の研修医時代の経験と、これまで研修医を指導した経験から、研修医のうちに勉強しておくべきことを分かりやすくまとめます。
ぜひ参考にしてみてください。
研修医のうちに勉強すべきこととは?
まず研修医のうちに身につけるべきことは、以下の2つに大きく分けることができます。
・特定の科を志望する医師が、専門科に進む前に身につけておくべき専門知識
・どの科の医師にも必要となるオールラウンドな知識
前者は、卒後3年目に専門科の医師になった時に、即戦力として現場で役に立つ知識です。
確かに「専門科領域は臨床研修が終わればいくらでも勉強できるから、研修医のうちは志望科以外の勉強をすべき」という考えもあります。
しかし、卒後3年目からは突然担当医として患者さんを任されることになります。
安全かつ適切に、過度の心理的ストレスを負うことなくスタートダッシュを切るには、専門科の勉強を2年の間にある程度はやっておく方が得策です。
もちろん、専門科以外の知識をいかにきっちり学んできたかが治療アウトカムを左右するのも事実です。
よって私は、研修医のうちはオールラウンドな知識を8割、専門科の知識を2割、という内訳で勉強するくらいがちょうどいいと考えています。
さて、ではオールラウンドな知識とはどんなものでしょうか?
具体的に見ていきましょう。
オールラウンドな知識が学べるおすすめ本はこちらで紹介しています。
【分野別24冊!】研修医におすすめの読むべき本/参考書/医学書<2020年版>
抗菌薬・感染症に関する知識
担当患者が突然発熱。
体温は39℃、寒気がする、と言っています。
どう対応しますか?
どの科の医師になっても、こうした場面には必ず出くわします。
よって感染症の知識は、医師である限り生涯必要です。
上記の3行の文章を読んだら、
そもそも感染症なのか?
感染症なら感染のfocusは?
体温以外のバイタルは?
患者背景(既往、これまでの経過)は?
そのために必要な検査と治療、投与すべき薬剤は?
という思考回路で、テキパキ動けなくてはなりません。
そして抗菌薬投与が必要だとわかったら、
抗菌薬は何を使う?
その根拠は?
容量と投与回数は?
投与ルートは?
と思考を巡らせます。
こうした対応が適切にできるよう、感染症の知識は研修医の間に必ず身につけておく必要があります。
感染症関連のおすすめ本は以下の記事を参照。
非公開: 【厳選7冊】感染症・抗菌薬(抗生剤)で読むべきおすすめの本・参考書
輸液・電解質に関する知識
血液検査でカリウム値が7.5。
点滴中です。
輸液の変更は?カリウムの補正はどうしますか?
どの科の医師になっても、電解質異常には必ず出くわします。
電解質異常は、場合によっては命に関わる危険な病態に発展するため、素早い対応が必要です。
輸液製剤の変更や、補正メニューをすぐに提案できるよう勉強しておかねばなりません。
もちろん、電解質異常の対応は、補正や輸液メニューの変更だけではありません。
上述のような例だと、まず行うべきはモニタリングです(心電図変化の確認など)。
同時に、採血時の技術的な問題(輸液を行なっている側からの採血や溶血など)も疑い、再検を検討しなくてはならないこともあります(真の電解質異常かどうかの確認)。
その上で電解質異常を確診したら、その原因を適切に検索する、という流れになります。
このように適切な対応がスムーズにできるよう、十分に知識をつけておきましょう。
電解質異常に関する参考書も以下の記事を参照。
【分野別24冊!】研修医におすすめの読むべき本/参考書/医学書<2020年版>
栄養に関する知識
私たちは、口から食事や水分を摂ることで栄養を補給しています。
しかし病院では、「経口」以外の様々な方法の栄養療法を考えなくてはなりません。
一つは、経管栄養(経腸栄養)です。
鼻から(あるいは口から)管を通して先端を胃や十二指腸に留置し、それを使って栄養剤を注入する方法です。
経腸栄養剤には様々な種類のものがあります。
どんな種類のものが採用されているかは病院によって異なります。
次に経静脈栄養です。
輸液製剤を使用して栄養を補給します。
これはさらに、末梢輸液と中心静脈輸液に分けられます。
経口投与に関しても、「食事摂取は難しいが栄養剤の経口摂取は可能」というケースもあります。
これらの使い分けを学生時代に学ぶことはありませんので、「栄養療法」は研修医が最初にぶち当たる壁の一つです。
栄養療法に関する知識は、当然ながら科を問わず必要です。
適切な栄養療法を行わないと、自科で治療している疾患は思ったように上手く治りません。
必ず研修医のうちに身につけておくようにしましょう。
栄養療法については以下の記事もご参照ください。
経腸栄養の種類と特徴、中心静脈栄養との違いと適応を徹底解説!
心肺蘇生に関する知識
突然、自分の担当患者がCPA(心肺停止)になる、という場面は、医師であれば度々遭遇します。
この際、現場に自分しかいなかったらどうしますか?
「先生!指示してください!」
と言われたとき、周囲に指示を出しながら適切な心肺蘇生ができますか?
心肺停止は、一刻を争う病態です。
1、2分の治療の遅れが、患者の予後を左右します。
考える前に体が勝手に動くようでなければなりません。
心肺停止は、どの科に進んでも必ず経験しますので、研修医のうちに心肺蘇生法を完璧に身につけておく必要があります。
軽症の外傷に対する処置技術
将来内科医を志望している人でも、救急外来での創傷処置は必要です。
将来非常勤などで、夜間に外科医がいない病院で勤務する可能性もあります。
「指を包丁で切ってしまいました」という人が外来にやってきたときに、
「私は外科医ではないので処置できません」
では困ることになります。
もちろん大きな外傷であれば専門の外科医にコンサルトが必要です。
しかし、軽い外傷は自分で処置できるよう、縫合技術やドレッシングに関する知識を身につけておく必要があります。
どの科の医師になっても必ず必要ですので、しっかり勉強しておきましょう。
以上、研修医が学ぶべき5つのポイントを述べました。
「こんなにたくさん一度に覚えるのは無理!」
と思った方、大丈夫です。
今までのように、これらの知識をペーパーテストで問われることはありません。
自信がなければ現場で答えを見れば良いのです。
そのためには、即座に参照できる研修ノートを作っておくことが大切です。
以下の記事でそれについて詳しく書いていますので、必ず読んでみてください。
非公開: 誰も教えてくれない、初期研修医のうちに必ずやるべき7つのこと