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無痛分娩で事故多発、病院でトラブル発生時にどう対処するか

近畿地方のある産婦人科病院で、2015 年9月に無痛分娩で出産した女性が、生まれてきた長男と共に重い障害を負っていたことが判明した、とのニュースがあった。

鎮痛を目的として行う硬膜外麻酔の麻酔薬が、本来注入されるべきでない「くも膜下腔」と呼ばれる深い空間に入ったことによる呼吸障害が原因だという。

 

以前同様の事故があったときに、「無痛分娩で妊婦が死亡、単科体制の難しさ」という記事を書いた。

無痛分娩をめぐっては、今年4月以降、大阪や神戸、京都などの病院での死亡、重症化が相次いて判明しており、日本産婦人科医会が実態調査に乗り出しているという。

 

こういう問題が起きた時に、「なぜ事故が起きたか」を調査することは大切なのだが、「トラブルを起こしたのはけしからん」と、事故が起こったこと自体を糾弾するのは望ましくない

今回の事例は、全脊髄麻酔、通称「全脊麻」と呼ばれ、硬膜外麻酔や脊髄麻酔、つまり、背中から針を刺して麻酔薬を注入して痛みをとる麻酔法では一定の確率で起こりうる合併症である。

合併症を減らす努力は当然すべきだが、医療行為において合併症をゼロにすることは不可能だ。

医療者側に過誤がなくても、患者さんのもつ様々な因子によって起こることもある。

問うべきは、「トラブルが起こった後の対処が適切だったか」である。

 

トラブル時にどう対処するか

我々医師は、現場に出たばかりの研修医の頃に、まず最初に口すっぱく言われるのは「何かトラブルがあったらすぐ人を呼べ」である。

 

とにかく、一人で対処しようとするな。

必ず大声で人を呼べ。

誰もがビギナーの頃に何度となく言われることである。

 

また、どの病院でも、緊急時に即座に人が現場に集合できるようなシステムが整っている。

たとえば病院で、「CPAコール!」「CPA発生!」「コードブルー!」というような、けたたましい館内放送を聞いたことはないだろうか。

CPA とはcardiopulmonary arrestの略で、「心肺停止」の意味である。

またコードブルーとは、患者の急変などの緊急事態を知らせる合言葉である。

 

病棟内で患者さんが突然心肺停止状態になったときは、まずその場にいる看護師や医師が一挙に集まるのだが、それと同時に病棟内にある電話で緊急時のコールを行う。

「000」や「111」など、病院によって番号は違うが、覚えやすい番号ですぐに緊急コールができるようになっている。

緊急コールを受けた交換手や守衛が、すぐに前述のようなコードを叫んで「◯◯病棟に集合せよ」と館内全体放送を流す仕組みになっている。

このコールが流れたら、病院内にいる医療者が一挙に現場に駆けつけ、蘇生処置に加勢することができる。

 

また、手術室でトラブルが起こった場合も同じような仕組みがあることが多い。

どの手術室にも緊急コール用のボタンがあり、そのボタンを押すと全手術室を含むそのフロア全体にサイレンが鳴り響く。

手術中であれば、「外回り」と呼ばれるオペナースが常に患者の状態を観察して厳重にケアを行っている。

異変があって人を呼ぶ必要があると感じた際には、この外回りのオペナースが緊急コールを行う。

このサイレンが鳴り響いたのち「◯◯番オペ室に集合!」というようなコールがある。

こうしたコールを受け、瞬時に手の空いた麻酔科医やオペナースが一挙に集合し、トラブルに対処する。

我々外科医の仕事は、こうした麻酔科医とオペナースの緻密な術中管理がなければ成り立たない。

 

このように、トラブルが起きたときの対処が適切にできる環境でなければ、リスクの高い治療は行ってはならない。

上述のような事例ではまず、こうした環境が整っていたのかどうか実際どのような対処をしたのかに焦点を当てるべきであろう。