病棟には、消化管に管の挿入が必要な患者さんは多くいます。
しかし、管の種類や呼称があまりに多くて違いが分からない、という人は多いのではないでしょうか?
マーゲンチューブ、胃管、イレウス管、コロレクタルチューブ、EDチューブ・・・
違いを正確に説明できますか?
今回は、研修医の先生や新人看護師さん向けに、こうした管の違いと目的、仕組みを分かりやすく説明します。
まず、消化管に管を入れる目的は何でしょうか?
これは、大きく以下の2つに分けられます。
・消化管の減圧
・栄養剤(または薬剤)の注入(経管栄養)
つまり、液体を「出すか、入れるか」のどちらかです。
これらに分けて順に説明します。
※「急性腹症診療ガイドライン」では、「腸管が機械的/物理的に閉塞した場合を『腸閉塞』とし、麻痺性のものを『イレウス』と呼ぶ」とされていますが、この記事では「イレウス管」という呼称を用いる都合上混乱を避けるため、昔ながらの意味合い(閉塞の有無を区別しない)で「イレウス」という言葉を用います。
消化管の減圧
消化管の減圧とは、イレウス(腸閉塞)や、幽門前庭部の胃癌などによる幽門狭窄、胃癌術後の胃内容排出遅延など、
「何らかの理由で消化管の通過障害がある時」
に必要となります。
消化管は口から肛門まで一本道です。
どこかに通過障害があれば、その上流の消化管は必ず交通渋滞を起こして拡張します。
また麻痺性イレウスの場合は、腸管全体の蠕動が悪くなり、全体に腸液が貯留して拡張します。
そこで消化管の内圧を下げるため、拡張した消化管内に管を留置して、貯留した液体を体外に排出する必要があるわけです。
どこから管を挿入し、どこに管の先端を置くか、という違いで以下の3種類の方法があります。
経鼻胃管
呼称と特徴
経鼻胃管の他、マーゲンチューブ、マーゲンゾンデ、Mチューブ、NGチューブなど様々な呼び方がありますが、全て同じものを指します。
商品は「セイラムサンプチューブ」が用いられることが多いため、「セイラム」と呼称されることもあります。
様々な太さのものがあり、当然太ければ太いほど効率的に減圧できるのがメリットですが、太いほど患者の不快や苦痛は大きくなります。
体格や、どれほど早急に減圧すべきか、といった病態に応じて選びます(どの太さが正解、という基準はありません)。
なお、経管栄養(経腸栄養)にも使用できますが、栄養療法「だけ」が目的ならこれほど太い管は不要です(詳細は後述)。
ちなみに、「マーゲン」「ゾンデ」はドイツ語、「チューブ」は英語です。
よって「マーゲンチューブ」や「Mチューブ」は、ドイツ語と英語が混ざった奇妙な言葉です。
細かな名前の違いについては以下の記事を参照してください(サンプ効果などの仕組みについても記載しています)。
挿入と固定・留置
鼻から挿入し、先端を胃に置きます。
体格によって長さは異なりますが、おおむね50cm〜60cm程度で固定することが一般的です。
ベッドサイドで盲目的に(ブラインド操作で・透視下でなく)挿入可能で、留置後に位置をレントゲンで確認します。
聴診器で胃の中に入っていることは確認できますが、kink(ねじれ)がないか、先端が口側過ぎないか、など、細かい位置はレントゲンでなくては確認できません。
なお、レントゲンをオーダーする際は「経鼻胃管の位置確認」と一言添えると良いでしょう。
普通の胸部レントゲンでは頭側すぎるし、腹部レントゲンでは尾側すぎるため、放射線技師が適切な位置に合わせてくれます。
管理
留置したら排液バッグをつなぎ、排液量と性状を毎日観察しつつ管理します。
癒着性や麻痺性イレウスの治療中であれば、排液が減少したり、排液の色が緑の腸液から薄い褐色や透明に変わると、改善の兆候と判断されます。
排液量の目安は患者さんによって様々です。
もともと毎日1000ml出ていた人が300mlに減少すれば改善と考えますし、逆にもともと100mlだったのが300mlに増加すれば悪化です。
ピンポイントの数字より、トレンド(傾向)の把握が大切です。
交換と抜去のタイミングは?
留置後は、閉塞などがない限り定期的な交換は不要です(交換頻度や交換時期を気にする必要はない)。
必要なくなったら抜去しますが、抜去もベッドサイドで容易に可能です。
そのまま引き抜くだけです。
付着した胃液や鼻汁などが垂れる恐れがあるので、ゴミ袋を横にセットし、スムーズに抜去しましょう。
イレウス管
呼称と特徴
イレウス管と経鼻胃管を混同している人が時々いますが、長さや仕組みは全く異なります。
イレウス管は鼻から挿入し、先端を小腸に置きます(先端がトライツ靭帯を超える)。
そのため管の全長は約3メートルと長く(経鼻胃管は1メートル前後)、ロングチューブとも呼ばれます。
商品名で「デニスチューブ」と呼ばれることもあります。
商品によって構造が異なるため、必ず付属の添付文書を見て使用法を確認してください。
挿入と固定・留置
盲目的な挿入は不可能なので(幽門輪を通せないため)、透視下にガイドワイヤーを用いて挿入します。
それでも難しい場合は、上部内視鏡下に留置します(施設によっては全例内視鏡下に行う場合もあります)。
先端のバルーンを膨らませることで、留置した後も蠕動運動で自然に肛門側に進んでいきます。
これを期待して、イレウス管は胃の中でたわませて留置します。
うまくいけば閉塞部位の手前まで到達するため、拡張した小腸全域の減圧ができます。
したがって「イレウス管留置の適切な長さは?」という質問の答えは、「閉塞部位による」です。
バルーンは蒸留水を使って膨らませます(生食は食塩が析出するので不可)。
ダブルバルーン構造のものは、先端の前方バルーンが上述の先進のための目的です。
後方バルーンは、イレウス管造影時に膨らませ、固定した上で造影剤が口側へ流れてしまうのを防ぐ目的です(肛門側に流れないと閉塞部位の様子がわからない)。
後方バルーンはエアーを用いて膨らませます。
管理・適応
イレウス治療中の管理方法は上述の経鼻胃管と同じです。
施設にもよりますが、まずは経鼻胃管で対応し、効果が乏しければイレウス管の適応、としていたり、最初からイレウス管を用いるところもあります。
イレウスの改善効果において、経鼻胃管とイレウス管の効果の差についてはまだ文献的に議論の余地があるため、チューブの適応は施設の習慣によって差異があります。
(この記事では器具の扱いに重点を置くため、文献的考察は割愛します)
イレウス管留置時は、持続吸引することもありますが、普通は留置しているだけで排液は自然に流出します。
抜去の方法
抜去はベッドサイドで容易に可能ですが、抜去時はバルーンを必ずdeflateする(しぼませる)ことが大切です。
そのまま抜こうとすると、バルーンが腸管を内側から引きずり込んで腸重積を起こすリスクがあるためです(よって自己抜去には要注意)。
シリンジでバルーン内の蒸留水を吸引したのち、抜去します。
抜く前に造影を行って通過が良好であるかを確認する場合もあります。
あるいは慎重に管理したい場合は、クランプしてみてイレウスの悪化がないかどうかを確認する、という方法もよく行います。
イレウス管は経鼻胃管と違って抜去は容易でも挿入は大変(医師も患者さんも)なので、抜去のタイミングは慎重に判断する必要があります。
コロレクタルチューブ
呼称と特徴
肛門から挿入し、先端を大腸(結腸)に置く管です。
上述の二つの管とは、挿入する部位も先端の位置も異なることに注意してください。
この管を経肛門イレウス管と呼ぶこともありますが、経鼻的に挿入するイレウス管とは仕組みが全く違うため注意が必要です。
大腸の閉塞性イレウス(大腸癌や、憩室炎等の炎症性狭窄など)に使用します。
閉塞によって貯留した便を体外に排出するのが目的です。
肛門から遠い位置まで挿入するのは難しいため、通常は直腸から脾弯曲くらいまでの閉塞機転に対して使用します。
その後、閉塞解除のための手術を行うのが前提で、手術前の減圧が目的です。
ハルトマン術(腸管切除+人工肛門造設)が必要となる大腸閉塞でも、イレウス管を使ってうまく減圧できれば、人工肛門が回避できることもあります(吻合ができる)。
挿入と固定・留置
挿入、留置は下部内視鏡を使用して行います。
閉塞のある部位を超えて、その上流に先端を留置します。
長さは1.2〜1.4メートル程度です(経鼻的なイレウス管より遥かに短い)。
管理方法について
コロレクタルチューブは手術を見越して留置するため、長期間の留置は普通行いません(せいぜい1週間程度を限度とする)。
長期間留置できない理由は、以下の3点です。
・長期留置により、潰瘍や穿孔のリスクがあること。
・留置中は絶食が必要であり、栄養管理の面でデメリットが大きい(早く閉塞を解除して経口摂取の再開を目指したい)
・管理が煩雑(毎日洗浄が必要)
洗浄については、胃や小腸に留置した管と違って排液が便であるため、毎日管内の洗浄をしなければ容易に管が閉塞してしまいます。
よって、たいてい毎日主治医が洗浄します。
近年、大腸癌による腸閉塞に対する大腸ステントの使用も増えており、コロレクタルチューブに代わる手段となっています。
ステントの最大の利点は、腸閉塞を解除できれば経口摂取が可能になり、一旦退院できることにあります。
コロレクタルチューブと同じく、のちに手術によって切除を行うのが原則です。
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栄養剤の注入
消化管に管を入れるもう一つの目的は経腸栄養(経管栄養)です。
何らかの理由で経口摂取ができない患者の栄養管理に用います。
このケースでは、「ファイコンEDチューブ」や「ゼオンENカテーテル」のような細い管を用います。
「フィーディングチューブ」と呼ぶこともあります(feed=「食事を与える」)。
上述のセイラムサンプのように太い管を使わない理由は、以下の4点です。
・液体の排出が目的ではないため太い管である必要はない(減圧と違って栄養剤の注入はきわめてゆっくりで良い)。
・細い方が患者の不快・苦痛が少なく、挿入もしやすい。
・経管栄養に特化したチューブは先端に硬いキャップ(オリーブ、重り)が付いていて挿入しやすく、X線不透過のため先端の位置が確認しやすい。
・金属製のスタイレット(内筒)がついていてコシがあり、挿入時に進めやすい。
もちろんベッドサイドで盲目的に挿入可能です。
先端は胃に留置することが多いですが、十二指腸に留置しても構いません。
胃癌などで幽門狭窄がある場合は、狭窄部を超えて先端を十二指腸に留置することで経管栄養が可能になります。
ただし、十二指腸に留置する場合(幽門輪を超える場合)は、透視下あるいは内視鏡下での挿入が必要です。
また、内服薬を破砕・懸濁し、チューブから注入することが可能です。
ただし薬によっては閉塞する(詰まる)恐れがあります。
特に悪性腫瘍による消化管閉塞に対して挿入されたチューブは、一度使えなくなると再挿入が非常に困難なこともあります。
薬剤注入の際は、必ず主治医に確認が必要です。
経管栄養(経腸栄養)についてはこちらの記事もどうぞ!
(参考文献)
クリエートメディック「親水性イレウスチューブ」添付文書
急性腹症診療ガイドライン2015
INTENSIVIST 8巻3号