3月8日に、フジテレビの情報番組「直撃LIVE グッディ!」で、ネット上での医療情報の取り扱いについて話しました。
グッディに出演しました。
何度も電話、メールで打ち合わせ、専門的な内容は専門家が話すべきだということと(今回は小児科や皮膚科、産婦人科)、自分は総論を話すという立ち位置を確認した上で、テロップも修正してもらうなど結構細かく希望を伝えました。ここまで手を入れられたのは大きいです。— 外科医けいゆう (@keiyou30) 2019年3月8日
テレビの仕事は、自分が責任を持って話せる内容の依頼でない限りお断りしています(これまで引き受けたのはコード・ブルーの特番だけ)。
私はまだ医師として未熟ですし、経験豊富なベテランの先生にお任せすべきだと感じる案件もあります。
しかし今回は、「ネットでの医療情報の取捨選択」という重要な話題であり、「SNS医療のカタチ」でも絶えず話題に挙げてきた内容であったため、引き受けました。
何より担当の方が非常に誠実で、「コーナーの結論をどういう方向に持っていくべきかを、出演する複数の医師の意図に沿って決めたい」とお考えのようでした。
テレビを敬遠する医師が多いのは、すでに番組の筋書きが決まっていて、話す内容が指定されていたり、意図しない編集をされたりすることがあるためです。
今回は、漠然とした内容は決まっていたものの、結論は未定であり、その段階からの相談でした。
また生放送であるため、意図しない編集を恐れる必要もありませんでした。
そこで、これなら私でも大丈夫だろう、と出演を決めました。
この機会に、私がテレビ出演に関して考えているポイントをまとめておきます。
テレビは「何でも屋」を求める?
今回このコーナーの良かったポイントは、「ハトムギで流産」「イソジン牛乳の効能」といったデマや、ステロイドやワクチンに関する事項など、あらゆるポイントにそれぞれの専門家の取材が入っていたことです。
きわめて繊細で丁寧な仕事だと感じましたし、医療従事者からも高評価でした。
(ここまでの細かな内容は当日朝に固まったため、私は現場で初めて把握しました)
テレビが正確に医療情報を伝えるツールとして機能するには、
「医学の専門家に『何でも屋』はいない」
ということを知っていただく必要があると感じています。
近年医療は複雑化、多様化し、各専門分野の知識は膨大です。
臨床現場に身を置いていると、このことを強く実感します。
専門外のことを自信を持って話せる医師は少ないでしょう。
もちろん消化器を専門とする私でも、風邪やインフルエンザの話をしたり、心疾患や脳血管疾患などに関する「一般論」を話すことはあります。
しかし、細かな専門知識まで説明できるほど詳細には理解していません。
これを読んで「頼りない医師だ」と思う人がいるかもしれませんが、私は逆に、これが「できる」と言い切る人の方が危険だと思います。
テレビのみならず多くのメディアにとっては、どんな分野でも臆せず話し、情報の権威性を担保してくれる医師がいた方が便利だろうと思います。
(そういう医師こそが有能だ、という思いもあるかもしれません)
しかし、医学はあまりにも深遠な学問です。
その正確性の維持に、「簡便さ」や「利便性」を求めてはならないと私は思うのです。
確かに、今回のように限られた時間で多くの人に取材をするのは大変だったと思います。
しかし、ここの正確性に配慮することこそが情報番組の仕事でしょう。
また、医師のような文化人枠なら報酬も少ないですし、多くの人に仕事をさせたとしても、芸能人に依頼するより遥かにコスト面で有利でしょう。
(むろん芸能人の影響力は大きく、高い出演料に見合った価値のあるものであることは理解していますが)
SNSやウェブメディアでいくら熱心に情報発信しても、テレビの圧倒的な力には到底敵いません。
日々診療していれば、医療関連の番組や報道があるたび、患者さんからその内容に関する質問をいただきます。
テレビで「〇〇が効く」という情報が発信されたら、扱った商品は即座に品薄になります。
いくらウェブが強くなったとはいえ、テレビは依然としてとてつもない発信力を有しています。
そして、医療を利用する人たちの年齢層は、むしろテレビから情報収拾する人が多い。
こうした現状を見れば、私たちもまたテレビを上手に利用する必要があると感じます。
テレビでしか声の届かない人たちが、いまだ膨大にいるからです。
第一線の医師がテレビを使う難しさ
今回の依頼は、最初は「スタジオに来てほしい」というものでした。
生番組なので日程と時間は決まっており、関西在住の私にとってそのタイミングで東京に行くのは難しかったため、丁重にお断りしました。
しかし、放送前日の夜に「中継ならどうか」というお話があったため、それなら、とお受けした経緯があります。
ただ、ほんの15分程度のコーナーであっても、度重なる電話やメールでのやりとり、当日は2時間ほど前からスタンバイして打ち合わせが必要です。
これだけの時間をテレビに割くことに価値を見出す医師でなければ、出演は引き受けないだろうと思います。
何より、臨床現場で第一線で勤務する多忙な医師にとっては、「そんな暇などない」というのが本音でしょう。
(私は今大学院に在籍しており、時間的余裕があるため特殊です)
しかし、今回番組で取り上げられた「インスタ医療団」のように、SNSやウェブを通して情報発信したいと考えている医師たちは、自分の志の実現に時間を捻出する労力を厭わないと思います。
医師として日々の診療を優先するのは当然ですが、病院に来ない患者さんや、これから病院に来るかもしれない未来の患者さんにも、より良い情報を提供する手段を絶えず模索しているからです。
これまで、テレビ番組に医療従事者から批判が集まることは、数え切れないほどありました。
しかし、今回の方のように「いい番組を作りたい」と考える誠実で熱心な方々はたくさんいるはずで、彼らも「誰に頼ればいいのか分からない」という思いはあるでしょう。
頼るべき相手を見誤ると、批判が殺到してしまう。
医師はここに上手に関わっていく必要があると私は思います。
今、SNSやウェブなどのツールを使って、同じ方向を向いた医師たちが簡単に繋がれるようになりました。
私が今回番組で話したことも、私一人では考えつかなかったことです。
まさに、日頃ウェブを通して、あるいは「SNS医療のカタチ」のようなイベントを通して得た「気づき」であり、発信する医師たちの総意であったと思います。
こうしたツールは、間違いなく医療を変える力を持っています。
私は少しでも力になれるよう、引き続き努力したいと思います。