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コードブルー1st 第7話解説|食道破裂&性転換手術後の腸閉塞、なぜ手術が必要?

第7話では、コードブルーではこれまであまり出てこなかった病気が登場する。

派手な現場処置シーンはないものの、病気に関しては疑問点が多くあったのではないかと思う。

 

三井(りょう)に対して訴訟を起こしている真壁さんに起こった特発性食道破裂とは何なのか?

ニューハーフ風のメリージェーン洋子こと大西さんが受けた性転換手術と、その後に腸閉塞で緊急手術を受けなくてはならなくなった理由とは?

今回はこれらについて、それぞれを分かりやすく解説してみようと思う。

 

特発性食道破裂(Boerhaave症候群)とは?

裁判中に突然嘔吐、胸痛を訴えて倒れた男性がいるとの通報が入り、森本(勝村政信)、緋山(戸田恵梨香)が現場にドクターヘリで出動。

ランデブーポイントで救急車から降りてきたのは、男性患者とスーツ姿の三井だった。

三井はかつて自らの判断ミスで妊婦と胎児を共に救えなかった経験があり、患者さんの夫である男性から訴訟を起こされていた

その法廷中、三井の本人尋問が終わった直後、その男性が目の前で胸痛を訴えて倒れたのだ。

三井が現場にいたおかげでスムーズに初療を受けることができ、搬送に成功する。

ランデブーポイントで三井は森本に、

「嘔吐後の胸痛、Boerhaave(ブールハーフェ)症候群かもしれません」

と申し送る。

無事翔北に搬送され、状態の落ち着いた男性に緋山は、

「特発性食道破裂といって、食道が裂けてしまったんです。幸い裂けた部分が小さくて手術せずに治療できそうです」

と説明。

皮肉にも、憎き訴訟相手に命を救われた男性は複雑な表情を見せる。

 

まず、「特発性食道破裂」の別名が「Boerhaave症候群」で、これらは同じ病気を指す。

「ブールハーフェ」という三井のセリフも聞き取れなかった方が多いのではないかと思う。

「特発性」は「原因不明の」という意味で、読み方は「とくはつせい」が正しい。

緋山が言った「とっぱつせい」は誤りである(しつこいようだが、3rd SEASONでこういうミスはほとんどない)。

「突発性(とっぱつせい)」とはその名の通り「突然起こった」という意味で、「突発性難聴」や「突発性発疹」などがある。

全く意味が違うので注意が必要だ

 

三井の説明でもあったように、激しい嘔吐によって食道の内圧が上がったことで、食道の壁が裂けて穴が開いてしまう病気である。

消化管は、食道も胃も大腸も中身は汚い(細菌が多い)ため、穴が開くと外側へ感染が広がり、命に関わる

特に特発性食道破裂は、ほとんどの場合緊急手術が必要である。

この男性が手術せずに済んだのは珍しいケースだが、穴が小さければこういうこともありうる。

 

ちなみにこの病気の原因のほとんどは飲酒で、「飲酒後の嘔吐、胸痛、吐血」というのが典型的である。

余談だが、飲酒後の嘔吐、吐血で発症する似た病気に、「マロリーワイス症候群」というものもある。

こちらは食道の表面が裂けただけで、穴は開かない。

ほとんどの場合手術は不要で、こちらの方が比較的よく見る疾患である。

 

メリージェーン洋子の性転換手術と腸閉塞

一方白石は、空港内で突然嘔吐と腹痛で倒れた男性を担当する。

名前は「大山恒夫」だが、ブラジャーにロングヘアーのウィッグ

自らを「メリージェーン・ヨウコ」と名乗る。

見た目は女性だが、バンコクで性転換手術を受けた男性であった。

お金がないため、絶食中にもかかわらず勝手に退院し、帰国中の飛行機で機内食を食べたことが原因で腸閉塞を起こしていた。

白石はこの男性が受けた手術について、

「腸管使用による形成術ってことですよね」

と言う。

 

この男性が受けた性転換手術、その後に腸閉塞になった理由緊急手術の理由など、分かりにくいと感じた方が多いのではないだろうか?

これらについて順にわかりやすく解説したいと思う。

 

膣(ちつ)を作る手術とは?

性同一性障害の方に行う、この腸管を使った造膣術(大腸を用いて膣を形成する)は、非常に大切な手術である。

性同一性障害の方が、身体上の性別を人格としての性別に一致させることで、精神的苦痛を緩和することを目的として受ける。

日本でも専門施設で行われている(岡山大学病院が有名)。

形成外科領域の手術だが、泌尿器科、産婦人科、消化器外科、精神科など、様々な科が関わって治療する

一般には、大腸を用いて膣を作る腹腔鏡手術の部分を消化器外科が担当することが多い。

大腸が選ばれるのは、一部を切り取っても体に支障がないこと表面の状態が膣に近いことからである。

性転換手術と一般に言われるが、正確には「性別適合手術」と呼び、他にも陰茎形成術や乳房切除術などが含まれる。

 

日本では、この手術やホルモン治療に保険が適用されず、治療費が100万円を下らないことも多い

多くの人はタイなど海外で手術を受けており、国内での手術は全体の3〜4割と言われている。

メリージェーン氏は、この制度上の問題をリアルに体現した形だ。

 

日本では、戸籍上の性別変更には外性器の変更が条件、つまり性別適合手術を受けなければならない

そのため金銭的に余裕のない人は、望まない性別で生き続ける苦痛を強いられることになる

海外では、公的書類の性別変更に性別適合手術の要件がない国も多く、保守的な日本はその点で遅れていると言われている

メリージェーンは「見た目がニューハーフ」「オカマバー(?)勤務」と、コメディとは言え、やや偏見のある設定も少し気になるところではある。

ただこの問題は、この記事には書ききれないくらい複雑な議論もあるので、今回はこのくらいにしておこう。

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腸閉塞はなぜ起こったのか?

腸閉塞は腹部の手術後によく起こる病気である。

この方の場合、手術直後で絶食を指示されている時期に機内食を食べたことが原因だ。

腹部の手術直後は、腸管の蠕動運動が落ちるため、もと通り蠕動が回復するまでは絶食しなければならない

この時期に大量に食べてしまうと、食べたものが腸管に溜まってお腹がパンパンに張ってしまい、腹痛、嘔吐という症状が出るわけだ。

治療は、鼻から胃の中に管を入れて、お腹に溜まったものを管で排出すること

この管を「胃管」と呼び(そのままだが)、メリージェーンもこの管を入れて治療している。

 

さらに彼は、翔北に入院後にこの胃管を勝手に抜き、こっそりケーキをホールごと食べて緊急手術を受けることになる

手術中に藍沢(山下智久)が、

「腸管の壊死が限局していて良かったです」

と言うことから、腸管壊死が起こっていたことがわかる。

腸閉塞はこのように重症化すると、腸管の血流が途絶えて腐ってしまうこともある

命に関わる非常に危険な状態である。

手術で、壊死した腸管を切除する以外に治療法はない

 

腸管が壊死して穴が空き、腹膜炎を起こすとお腹がカチカチに硬くなるという特徴的な所見がある。

この所見を「板状硬(ばんじょうこう)」という。

「板のように硬い」という意味で、読んで字のごとくである。

この言葉は第2話の解説でも書いたので、ご覧になった方は聞き取れただろう。

 

この男性のように、入院中に絶食の指示を守れずに、こっそり食べてしまう人は実際いる。

また、高齢の方などで絶食の指示がうまく伝わっておらず、家族からの差し入れを食べてしまう、というケースもある。

みなさんもご家族のお見舞いに行くときは、どこまで食事を許されているか、必ず確認するようにしていただくのが良いだろう

 

さて、それにしても三井医師はスーツ姿も白衣姿もカッコ良い。

デキる女医さんという雰囲気で、職場にいたらさぞ頼もしいことだろう。

訴訟を起こしている相手に対して、自分が冷静さを失ったせいで患者さんを死なせてしまったと正直に謝罪することが事態の解決につながるのはドラマの世界だけだが、

それでも三井の自分への謙虚な姿勢や優れた人柄は、医師として非常に大切だと私は思う。

患者さんに対する説明の仕方はともかく、気持ちの持ちようには見習うところがあると言って良いだろう。

私は、ドラマでよく見る医師の謝罪について「コードブルー3 第5話|医師が骨盤骨折を解説&医師の謝罪にツッコミ」で詳細にツッコミを入れているが、ここはドラマ批判だけで済ませてはいけないポイントである。