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市販薬では治らない!逆流性食道炎の原因と症状、何科を受診すべきか?

逆流性食道炎という言葉は広く知られています。

何となく胸焼けがある、すっぱいものが上がってくる感じがする。

こうした症状から逆流性食道炎かもしれない、と思う方は多いでしょう。

しかし多くの方は、こういう症状を経験すると市販薬で治そうとしてドラッグストアに胃薬を探しに行きます。

ところが、残念ながら逆流性食道炎は市販薬ではまず治りません

必ず病院で治療する必要があります

逆に、病院できっちり治療すれば完治しうる病気です。

 

なぜ病院でしか治療できないでしょうか?

答えは簡単です。

逆流性食道炎に最もよく効く薬は市販されていないからです。

「逆流性食道炎に効く市販薬ランキング」などは決して信用してはいけません。

 

今回は、この広く知られた逆流性食道炎について、原因治療生活で気をつけるべきことなどを、詳しく説明します。

難しい話は全くありません。

また学会が発行した診療ガイドラインに基づき、医学的に正確な情報のみ提供しますのでご安心ください。

なお、正確には「逆流性食道炎」ではなく「胃食道逆流症(GERD)」です。

食道に炎症が起こっていなくても胸焼けなどの症状は出現するため、食道炎のあるなしに関わらず「胃食道逆流症」と呼びます。

 

胃食道逆流症とは何か?

胃から、主に胃酸が食道側へ逆流することによって、胸焼け呑酸(酸っぱいものが上がってくる)など様々な症状を起こす病気です。

胃酸以外の液体の逆流だけで同じ症状を起こす人もいます(症状の原因は酸の逆流に限りません)。

強い粘膜によって保護された胃と違って、食道の表面はこうした刺激に弱く容易に傷ついてしまうからです。

 

この症状は、食道に炎症が起こっていなくても起こります

「逆流性食道炎」という言葉が表すのは、「逆流」によって起こる「食道炎(食道の炎症)」です。

つまり、内視鏡(胃カメラ)で観察して食道炎を起こしていればこう呼んでも良いことになります。

ところが、胃カメラで見ても何も異常がないように見える(食道炎がない)のに、非常に強い逆流症状がある人はたくさんいます

実際、胸焼けのある患者さんの24%にしか食道の炎症がないとも言われます。

ですから、食道炎を起こしているかどうかが問題ではなく、胃から食道への逆流によって症状が起こっているかどうかが問題です。

「逆流性食道炎」ではなく「胃食道逆流症(GERD)」と呼ぶのはそれが理由です。

 

ちなみに、胃食道逆流症のうち胃カメラで食道炎を起こしているものを「びらん性GERD」、起こしていないものを「非びらん性GERD」として分類します。

従来の呼び方だと、びらん性GERDが逆流性食道炎ということになります。

「びらん」とは簡単に言えば、表面の粘膜がただれて剥がれてしまった状態のこととお考えください。

 

胃食道逆流症の症状

以下のように多彩な症状がありますので、チェックしてみてください。

主には食道の症状ですが、一見食道に関係のなさそうな症状もあります(食道外症状と呼びます)。

それぞれについて説明します。

 

主な食道の症状

典型的な症状は、胸焼け呑酸(どんさん)です。

胸焼けは、胃もたれ胃の不快感と表現する方もいます。

呑酸は、げっぷをした時のような酸っぱいものが上がってくる感じのことです。

 

食道外症状

一見すると、全く関係のないような症状がよく現れます。

よくあるのが、慢性的な咳のどの痛み胸の痛みです。

特に慢性的な咳だけがあって、肺や気管など呼吸器の検査をしても全く異常がなく、咳止めでも治らず、実は胃食道逆流症が原因だったということがあります。

あまり痰(たん)の出ない「空咳(からぜき)」が特徴です。

また同じように、のどの痛みでのどを調べても異常はありませんし、胸の痛みで狭心症を疑われて心臓の検査をしても異常がない、ということになります。

これらの症状が原因で不眠(睡眠障害)を起こすこともあります。

 

なお、上述したように食道に炎症がなくても症状は起こります。

胃カメラ(内視鏡)で見た炎症の重症度と自覚症状は相関しないことがよく知られています。

つまり食道に炎症があるのに症状が全くない人もいます。

 

どのように診断するか?

前述した通り、症状が最も大切です。

上述したような症状があるかどうかをまず確認します。

そして必要なら胃カメラ(内視鏡検査)によって食道の状態を観察します。

ただし、上述した通り内視鏡で異常のない「非びらん性」の胃食道逆流症の人もいます

見た目に異常はないものの病気が疑わしい人には、後述する胃酸を抑える薬を使ってみて症状が治まるかを見る「PPIテスト」を行うこともあります。

 

どういう人がなりやすいか?

胃食道逆流症の患者さんは増加傾向にあります。

「びらん性」のものは、10%程度の人がかかっているとされています。

「非びらん性」の人や、診断がついていない人を含めるともっと多いでしょう。

人によって原因はさまざまですが、おおむね以下のような人が胃食道逆流症を起こしやすいとされています。

 

肥満

特に「びらん性」のものは肥満の男性に多いとされています。

腹圧が高まることで逆流が悪化すると考えられています。

また肥満の人は後述する食道裂孔ヘルニアを起こしやすいことも原因の一つです。

 

脂肪の摂り過ぎ

脂っこいものを食べたら胸焼けをする、誰しも起こりうる症状ですね。

脂肪を摂った時に出るホルモン(コレシストキニン)が、食道と胃の境目を締める括約筋をゆるめる働きがあり、逆流を悪化させるためです。

しかし普段から脂肪を摂り過ぎていると、慢性的な逆流症状につながります

 

内服薬

狭心症の薬や高血圧の薬、喘息の薬などが逆流の原因となっていることもあります。

括約筋を緩める副作用を持つ薬があるためです。

 

高齢者

年齢を経ると括約筋の作用が弱まり、逆流しやすくなります。

また背中の曲がった高齢者も、腹圧が高くなることで逆流のリスクがあります。

 

ちなみに「びらん性」のものは肥満の男性に多く、「非びらん性」のものは肥満ではない若い女性に多いという違いがあります。

いずれにしても胃食道逆流症は年齢、性別問わず誰にでも起こりうる病気です。

 

また、「食道裂孔ヘルニア」は胃食道逆流症のリスクとなる病気です。

本来横隔膜の下に位置している胃が、横隔膜のすき間を通って胸の空間へはみ出してしまう病気のことです。

胃と食道のさかい目をしめつける括約筋の機能が弱まるため、胃酸が食道に逆流しやすくなります。

検査をしたことがなく、食道裂孔ヘルニアがあるのに気づかれていない人は意外に多くいます

内視鏡検査をすればわかりますが、ひどいものは胸のレントゲン(X線)検査でも分かります。

治療が必要なケースでは手術を行います。

 

どういう治療をするか?

上述した通り、胃食道逆流症は市販薬では治りません。

胃食道逆流症の治療は「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」と呼ばれる、胃酸をおさえる飲み薬を使います。

この薬は、現在最も強力に胃酸をおさえることができる薬として、様々な胃の病気に使われています。

プロトンポンプ阻害薬で胃食道逆流症の80〜90%が治癒します。

治療期間は重症度により異なります。

服薬をやめると症状が再発する人は、維持療法(長い間薬を飲み続ける治療)を行うこともあります。

プロトンポンプ阻害薬は市販されていませんので、必ず病院の受診が必要です

具体的には、「オメプラール」「タケキャブ」「タケプロン」「ネキシウム」「パリエット」といった名前の薬が処方されます。

 

なぜ市販薬では治せないのでしょうか?

確かに、市販薬にもある程度胃酸をおさえることのできる薬はあります。

市販の胃薬のCMで「胃酸をおさえる!」というフレーズを聞くことがあるはずです。

現在市販されている薬の中で胃酸をおさえることができるのは、ヒスタミンH2拮抗薬というタイプの薬です。

「ガスター」「アシノン」「アルタット」など市販の薬の名前をきけばピンと来る方が多いのではないでしょうか?

これらの薬も胃酸をおさえることができますが、上述のプロトンポンプ阻害薬に比べれば効果はかなり劣ります

この薬を使ったときの胃食道逆流症の治癒率は40〜70%程度です。

これでは決して適切な治療とは言えません。

 

そしてこれが市販薬の限界です。

まして他のタイプの市販薬(太田胃散やパンシロンに代表される総合胃腸薬)や漢方薬などは、胃食道逆流症にはほぼ効果はありません(胃酸を抑える作用のない薬です)。

これらの効かない薬を漫然と使い続け、治らないままにしておくのは危険です。

なぜ危険か?

次に書くような病気を引き起こすからです。

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放置するとなぜ危険か?

胃食道逆流症を放置してはいけません。

食道炎が原因で出血したり、食道炎を繰り返して通り道が狭くなる(狭窄する)ことがあります。

狭窄が起こると、内視鏡治療が必要になったり、まれに手術が必要になることがあります。

 

また最大の問題は、食道がんのリスクです。

胃食道逆流症によって「バレット食道」と呼ばれる粘膜の変化が起き、これが食道がんのリスクになります。

食道がんの最もよく知られた大きなリスクはお酒喫煙ですが、これが原因で起こるのは「扁平上皮癌」というタイプの食道がんです。

一方、胃食道逆流症がリスクになる食道がんは、「腺癌」という異なるタイプの食道がんです。

食道腺癌は日本ではまれですが、欧米では20年間で2倍に増加しており、扁平上皮癌より多いという現状があります。

欧米で胃食道逆流症の患者さんが増えているからです。

食道腺癌の発症には、胸焼けの期間頻度重症度がそのリスクに関わるとされています。

20年以上の強い胸焼けのある方で、食道腺癌のリスクは43.5倍になるという報告もあります。

我が国でも胃食道逆流症が増加傾向にあることを考えれば、今後食道腺癌が増える可能性は十分にあります。

 

生活で気をつけるべきこと

早期の薬の治療も大切ですが、日常生活でも胃食道逆流症を悪化させないよう気をつける必要があります

 

減酒・禁煙

まず、タバコアルコールは症状を悪化させます。

禁煙し、お酒の量も適度におさえましょう。

 

食生活に注意する

1回の食事量を少なめにし、回数を分けての規則正しい食生活を心がけましょう。

また脂っこいものを摂り過ぎないようにしましょう。

肥満は胃食道逆流症の原因になります。

肥満の方は減量しましょう。

また、食後に横になると逆流症状は悪化します。

食後はすぐに横にならず座っているようにし、可能な限り夕食から就寝までの間を空けるようにしましょう。

また便秘のある方は食物繊維の多い食事を摂る、必要に応じて便秘薬を使うなどして便秘を解消することも症状の改善につながります。

腹圧上昇を避ける

腹圧の上昇を避けるため、コルセットやベルトでお腹を締め付けすぎないようにしましょう。

また背中の曲がった姿勢は改めるようにしましょう。

 

何科に行くべきか?

上述した症状に該当する方は必ず病院に行くべきとお考えください。

胃食道逆流症の専門は「消化器内科」です。

胃カメラのできる消化器内科医がいるクリニックでも構いませんし、消化器内科のある一般的な病院でも良いでしょう。

また病院に行く際は、上述した症状をよく読み、自分にどんな症状がどういう時に起こるのか、きっちり説明できるようにしておきましょう。

それがスムーズな診断と治療につながります。

(参考文献)
胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2015/日本消化器病学会