私は以前、「お尻の穴(肛門)には絶対に大きなものを入れてはいけない理由」という記事で、度を超えた性行為や自慰行為による肛門外傷を紹介しました。
このページは、様々な検索ワードで検索結果の上位に表示されるため、かなりの頻度で読まれています。
「お尻の穴」という言葉だけでも検索回数は非常に多く、検索結果に私の記事が表示される回数はひと月で7000回くらいです。
検索されることが多い理由は明らかで、肛門のトラブルを医師に相談するのがためらわれ、ネットで情報を得ておきたいと思うからでしょう。
しかし前回の私の記事は、肛門の外傷について簡単に紹介しているだけです。
おそらく検索された多くの方の疑問に答えるものではなかったでしょう。
そこで今回は、「お尻の穴」や「肛門」と一緒に検索されるワードをピックアップし、予想される病気やトラブルについて解説しておきたいと思います。
また検索される言葉の中にある「アナル」という間違った言葉についても後半で解説します。
よく検索される「肛門」関連のワード
まず、以下に挙げるワードは、私の前回の記事を参照すれば答えは得られると思います。
お尻の穴にものを入れる
お尻に異物
アナルにものを入れる
お尻の穴に水を入れる
前回の記事で説明したように、お尻に異物を入れてはいけません。
万一取れなくなった場合は、かならず消化器系の科を受診してください。
腸の壁が傷ついて穴があくと、命に関わる腹膜炎を起こします。
一方、水は肛門に入れても問題ありません。
「洗腸」といって、肛門から水を入れて排便を促す処置もあります。
ただ、原則病院で行うべき処置で、自力で行うと直腸や肛門損傷の原因になるため避けた方が良いでしょう。
アナル 裂ける
肛門 切れる
「裂肛」と呼ばれる病気です。
一般には「切れ痔」と言われることもありますが、いわゆる「いぼ痔」である「痔核」とは全く異なる病気ですので、私たちはこれを「痔」と呼ぶことはありません。
機械的な刺激で肛門の壁が切れて出血します。
強い痛みも伴うため、肛門科で専門的な治療が必要です。
一般に軟膏などで治療しますが、中には治療の難しい複雑なケースもあります。
自己判断で薬局の薬を漫然と続けるのは危険です。
こちらもご参照ください。
お尻の穴から腸
これはおそらく「直腸脱」か、「内痔核」の脱出、いわゆる「脱肛」のことだと思います。
「直腸脱」とは、高齢の方で骨盤を支える筋肉が弱くなったせいで、直腸が降りてきて肛門から出てくる病気です。
特にやせた女性で多いです。
手術で治療しなければ、弁漏れなどで困ることになります。
手術には、下半身麻酔で行う方法と、全身麻酔で腹腔鏡を使って行う方法があります。
消化器外科または肛門科を受診してください。
また、いわゆる「いぼ痔(ぢ)」は、肛門(歯状線と呼ばれるライン)の内側にできる「内痔核」と、外側にできる「外痔核」に分けられます。
いずれも静脈瘤のことです。
症状としては、内痔核は出血、外痔核は痛みが主体です。
いずれも大きなもの、症状が強いものは下半身麻酔(腰椎麻酔)の手術で治療します。
中には特殊な薬を注入して手術以外の方法で治療を行う病院もあります(ALTA注射療法(ジオン注))。
巨大な内痔核は、肛門外に脱出して脱肛と呼ばれる状態になることがあります。
この場合、「肛門から腸が出ている」と感じることがあるかもしれません。
早めに治療が必要ですので、やはり肛門科を受診することが望ましいでしょう。
肛門鏡 痛い
上記に挙げた症状で受診すると、肛門鏡という道具を使って肛門を診察します。
太めの棒状の器具を肛門内に挿入して観察する方法です。
これは、長さは短いですが太さは大腸カメラ以上で、少し痛みがあります。
ただ、多くは1分とかからず、すぐに終わる診察です。
私もときどき内痔核ができることがあり(通称「痔主(じぬし)」)、この検査を受けたことが一度だけあります。
なお、肛門から何かが出ている、出血する、痛む、といった症状は、いずれも悪性腫瘍が原因となることがあります。
直腸癌や肛門管癌です。
こうした悪性の病気は、診断・治療に急を要します。
「痔核だと思っていたら癌だった」ということは時々ありますので、いずれにしても判断に迷ったらすぐに受診が望ましいでしょう。
さて、ここまで書いてきた検索ワードに関して、いくつか補足説明をしておきます。
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「アナル」という間違った言葉
「アナル」つまり「anal」(正しい発音は「エイナル」)は、「肛門」という意味ではありません。
「肛門の」という形容詞です。
したがって、「アナルから」や「アナルが」は間違った表現です。
名詞の「肛門」の正しい英語は「anus(エイヌス)」です。
「エイヌスから」「エイヌスが」というのが正しいということになります。
ただ、「肛門」という、誰にも誤解を与えない便利な日本語があるのに、あえて英語を選択する意味は乏しいでしょう。
ちなみに「anal」という言葉は、私たちも日常的によく使います。
例えば、胃や小腸、大腸など、消化管の中で位置を説明するときです。
手術中に「右側」「左側」と言っても、どちらから見ているかによって意味が変わるため、誤解を招きます。
そこで、「口側」や「肛門側」と言ったり、「oral (オーラル)」「anal」と言います。
消化管は口から肛門まで一本道なので、こう言えば誰も間違えず、容易に理解できるからですね。
これは手術中だけでなく、エコー(超音波)や内視鏡などの画像を見ながら説明する際にもよく使います。
腸管は蠕動運動でよく動くため、左右や上下と言っても、次の瞬間には位置が変わっていることがあります。
一方、「口側」「肛門側」は、どれだけ腸が動いても変わらない位置関係なので誤解がない、というわけです。
肛門科医という専門家
痔核や裂肛といった肛門疾患を診てもらうには、「肛門科」がある病院に行くのが最もスムーズです。
このことは意外に知られておらず、肛門のトラブルで「外科」や「消化器外科」を受診し、肛門科のある病院に紹介される、というケースが非常に多くあります。
こうなると、受診した患者さんにとっては二度手間です。
肛門の構造は非常に複雑で、その疾患の治療は専門性がかなり高いと言えます。
消化器が専門でも、特に内科医だと肛門は完全に守備範囲外という人も多いでしょう。
よって、もしみなさんが肛門のことで困って病院に行く時は、インターネットなどで肛門科があることを確認し、肛門科へ直接行くのが良いでしょう。
また、肛門科クリニックの開業医の先生も肛門疾患のエキスパートなので、そちらを受診するのもおすすめです。
肛門や陰部は非常にデリケートなエリアなので、困っても他人に相談することに抵抗を感じる人は多いと思います。
一方、こういう言葉がインターネットで検索される機会が多い分、間違った情報も多く出回っています。
今後、私のサイトでも、痔など肛門疾患についての記事も充実させていきたいと考えていますので、ご参照いただければと思います。
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