痔で悩んでいる方は多いのではないでしょうか?
病院に行って見せるのが恥ずかしい
できれば手術せずに治したい
病院に行く前にどんな検査や治療をするのか知っておきたい
できれば痔はこっそり治したい
そんな方も多いでしょう。
お尻は自分で見えない部分なので、検査や治療が怖い、他人に見せるのが恥ずかしい、と思うのは当然のことです。
特に女性は、羞恥心もあって病院に行くのが億劫で、自宅で何とか対応しているという方も多いです。
しかし、実はイギリスで肛門鏡を用いて肛門を調べる調査をしたところ、痔核は55%の人にあったという報告があります。
性別、年齢を問わず非常に多くの人がかかりうるありふれた病気だということです。
ネット上では「痔を自分で治す方法」などといった間違った情報が出回り、私から見ても危険だと感じます。
外科医としてこれまで痔核の症状で悩む方を診察、検査、治療してきた経験から、今回は痔核について医学的に正しい知識をわかりやすく説明します。
難しい話は全くありませんのでご安心ください。
なお、今回は痔核(いわゆる「いぼ痔」)についての解説です。
痔ろう(あな痔)や裂肛(切れ痔)は全く別の病気です。
これらを一緒に論じているサイトも見かけますが、原因やリスク、治療法が全く異なるため、注意が必要です。
目次
痔核の原因とは?
「痔(じ)」という名称は正確ではありません。
上述した通り、痔核、痔ろう、裂肛という全く異なる肛門の病気を全て含んでしまっているからです。
今回述べるのは通称「いぼ痔」、すなわち「痔核」です。
肛門にイボのような腫れ物ができ、ときに肛門の外に現れ、痛みや出血の原因となる病気です。
肛門に繰り返し負担がかかることで、肛門周囲の毛細血管が集まった部分(静脈叢)がうっ血し、血流障害が起こって腫れてくるのが原因という説がありますが、確実に明らかにはなっていません。
痔核は人間だけがかかる病気と言われています。
あらゆる動物の中で、まっすぐに二足歩行する人間だけは、胴体の重みが全てお尻にかかります。
血液が心臓に戻りにくく、肛門部で血液がたまりやすくなるわけですね。
痔核は、位置によって2つに分けることができます。
内痔核と外痔核です。
肛門を歯状線と呼ばれるラインで外側と内側に分け、内側にできるものを内痔核、外側にできるものを外痔核と呼んでいます。
中にははっきり見分けにくい位置にあるものや、内痔核と外痔核が連続しているものもあります。
どんな人が痔核になりやすい?
痔核の発症リスクは、排便習慣と食事習慣にあります。
完全に明らかにはなっていませんが、一般的には以下のような人に痔核のリスクがあるとされています。
排便時に怒責する(強くいきむ)
トイレに長時間座る
野菜摂取が少ない
重いものを扱う職業
長時間座りっぱなしの職業
スポーツでいきむ(ゴルフなど)
排便時に気張ったり、トイレに長時間座る、というのは便秘や便が固くて出にくいことが原因です。
そしてこの便秘や便が固くなる原因の一つが野菜摂取不足、つまり食物繊維の不足です。
後述しますが、これらの生活習慣を改めることが痔核の治療には重要です。
逆に、痔核を一度治療してもこうした生活習慣に変化がなければ再発します。(職業上全てを改善するのが難しい場合もあると思いますが)。
起こりやすさには男女に差がなく、45〜65歳に多く見られます。
なお、痔核が遺伝するかどうかについては、はっきり分かっていません。
痔核の方は、家族に痔核を持つ方が多いことが知られていますが、遺伝的要因というより共通の生活習慣によって影響を受けていると考えられています。
なお、便秘の治療については以下の記事をご参照ください。
→便秘のタイプ別に解説|治療法と便秘薬の種類・使い方と副作用
痔核の症状とは?
痔核の症状としては、以下のようなものが挙げられます。
出血
内痔核に多い症状で、多くは排便時に起こります。
排便後にお尻を拭くとトイレットペーパーに血がついたり、排便後に便器が真っ赤になることもあります。
色は鮮やかな赤(鮮血)であることが多い傾向があります。
どす黒い赤色や、便に血液が混ざったものは大腸からの出血であることが多く、痔核(肛門からの出血)の可能性は低くなります。
また排便時だけでなく、運動時や歩行時に出血することもあります。
痛み
痛みは外痔核に多く、内痔核は全く痛くないこともよくあります。
ただ、内痔核でも脱出(脱肛)時には痛みが生じます。
血栓性外痔核と呼ばれる、静脈瘤の中に血栓ができるタイプは、突然の激しい痛みと腫れが特徴です。
脱出(脱肛)
内痔核が排便時や運動時、しゃがんだときなどに肛門の外に脱出することを「脱肛」と呼びます。
イボのような腫れが肛門の外に現れ、自分で触っても分かります。
中には毎回排便のたびに脱出し、自分で押し込んで戻しているという方もいるでしょう。
かゆみ
痔核に「かゆみ」が生じることは意外に知られていませんが、かゆみのある肛門疾患の20%が痔核です。
排便後の清浄がうまくできていなかったり、痔核から粘液が漏れることによる皮膚への刺激が原因と考えられています。
受診のタイミングは?
痔核は、それによって命を奪われるような病気に発展することはまれです。
したがって、受診・治療のタイミングは「症状に困った時」です。
上述した中では、
排便時に出血してなかなか止まらない
傷みが強くて座るのがつらい
排便時に痔核が脱出し、毎回戻すのが大変
という方は、すぐに受診した方が良いでしょう。
何科を受診すべきか、については後述します。
痔核の診断に必要な診察と検査
まず、診察室でベッドに横向きに寝てもらいます。
お尻を医師側に向けてズボンを下ろしてもらい、目で見た上で、指で触って大きさや圧痛(押さえて痛いかどうか)、出血の有無を確認します。
外痔核であれば外から簡単に見えますが、内痔核は脱出していない限り簡単には見えません。
指を入れる(直腸診)こともありますが、それだけでは分かりません。
そこで痔核の診断には、肛門鏡を用いて直接見ることが必須です。
肛門鏡とは、金属あるいはプラスチックでできた筒状の道具です。
内視鏡と名前は似ていますが、胃カメラや大腸カメラのように画面で見るわけではありません。
筒を肛門に入れて、医師がのぞき込んで肉眼で見て診断します。
大腸カメラ(内視鏡)で見た方が分かりやすいんじゃないか?
その方が恥ずかしくないんじゃないか?
と思う方がいるかもしれませんが、大腸カメラ(内視鏡)で痔核を見つけられる確率は6.3%と非常に低いとされています。
肛門入り口すぐの病変はカメラでは見にくいからです。
ちなみに便潜血検査でも、内痔核の23%でしか陽性とならないとされています(血液の量が多すぎると陽性になりません)。
一方、痔核があっても、血便(便に血が混じっている)があって大腸カメラをしたことがない人は、年齢によっては大腸カメラも勧められます。
血便をきっかけに大腸癌と痔核が両方見つかる人も多く、当然そのケースでは癌の治療が優先されます。
詳細はこちらをご参照ください。
→病院に行くべき血便(鮮血便)|原因となる病気、何科にかかるか?
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痔核の種類と重症度
一般的には、痔核の重症度を4段階に分けるGoligher分類が用いられます。
これは痔核の「脱出」という症状に重きを置いた分類です。
I度が最も軽く、IV度が最も重度です。
I度:脱出しない
II度:排便時に脱出するが、自然に戻る
III度: 排便時に脱出し、手で戻さなければ戻らない
IV度:常に脱出し、戻せない
重症度によって治療法、対処法は異なります。
痔核の治し方、各治療法の特徴
痔核を治す方法としては、日常生活の改善、薬物治療、外科的治療の3つがあります。
順に説明します。
日常生活の改善
まずは生活習慣を整えることが大切です。
以下の項目に当てはまる方は、これを改善するよう努めましょう。
長時間座る
寒いところでの作業
便の我慢
排便時の怒責(いきむ)や長時間の排便
飲酒(アルコール)
体の疲れ
精神的ストレス
体の冷え
軽い痔核であれば生活習慣の改善だけで自然治癒することもあります。
食事習慣としては、水分と食物繊維を十分とることが大切です。
水分と食物繊維を多く取ることで便がやわらかく排便しやすくなり、長時間便器に座ったり排便時にいきんだりしなくてよくなります。
薬物療法
痔核を薬で完治させることはできませんので、あくまで腫れ、脱出、痛み、出血などの症状の緩和が目的です。
薬剤には、内服薬(飲み薬)と外用薬(塗り薬)の2種類があります。
よく使うのは外用薬で、座薬と軟膏に分けられます。
ボラギノールなどの市販薬、ポステリザン軟膏などの処方薬がこれに含まれます。
いずれもステロイドを含み、炎症を抑えるのに役立ちます。
座薬は内痔核に、軟膏は外痔核に有効です。
注入軟膏タイプを用いれば、内痔核に軟膏を塗布することも可能です。
一方内服薬には、ヘモリンドなどの市販薬、サーカネッテン、ヘモクロン、ヘモナーゼといった処方薬があります。
血液の循環を改善してむくみを抑えたり、炎症を抑える働きがあります。
いずれにしても、多少の症状改善が得られるかもしれませんが、根本的な治療にはなりません。
なお、妊婦が薬を使用する場合は注意が必要です。
痔核の外用薬が子宮収縮を誘発して流産、早産のリスクにもなることから、大量投与は避ける必要があります。
自己判断は難しいため、妊娠中は必ず医師の指示に従いましょう。
外科的治療
ほとんどの痔核は、完治のためには外科的治療が必要です。
ただし、痔核の外科的治療は「切って取る」だけではなく、「切らない外科的治療」もあります。
よく行われる3種類の外科的治療について簡単に解説します。
結紮切除術(LE、Milligan-Morgan法)
痔核を手術で切り取ってしまう、最も主流となる治療法です。
III度、IV度の内痔核、外痔核いずれにも有効な、根治的治療です。
背中に痛み止めの注射をする腰椎麻酔(下半身麻酔)で下半身の痛みを完全にとって、手術室でうつ伏せで手術を行います。
この治療の最大の利点は、どんな痔核でも完全に治してしまえることです。
一方、この治療法の欠点は、術後に出血が0〜3.5%に起こることです。
痔核を切り取ったところから、しばらくしてから血がじわじわと出ることがあり、止血術を要することもあります。
こうしたことから、この治療では通常入院が必要です。
仕事復帰や今まで通りの日常生活を送るまでに3日〜1週間程度は必要になることが多いでしょう。
またもう一つの欠点として、切り取ったところが治る過程で硬く分厚くなり、肛門が狭くなることがあります。
これを「狭窄(きょうさく)」と呼びます。
場合によっては、時間が経過してから拡張術が必要になることもあります。
ゴム輪結紮療法
痔核を切るのではなく、ゴム輪でしばって壊死・脱落させる方法です。
適度な大きさのものに対して日帰り手術として行なうことが多いです。
治るまでの期間は、ゴム輪で縛ってから1〜2週間程度です。
痔核が脱落し、輪ゴムも便と一緒に排出されます。
この治療の利点は、手術で切るわけではないため痛みがほとんどないことです。
また、手術時間は10分程度で麻酔もほとんど不要です。
一方、大きな痔核には使えないという欠点があります。
一般に、II度までは効果が高いとされていますが、III度以上のものは効果が乏しく繰り返しの治療が必要になることがあります。
再治療が必要になるリスクを考慮した上で、III度の痔核の第一段階の治療として行うことはあります。
なお、ワルファリンなど抗凝固薬(血をサラサラにする薬)を内服しているケースでは、出血の合併症が多いため、控える方が良いでしょう。
一般に内痔核に対して行われ、外痔核を伴っている場合は不向きな治療です。
硬化療法
これが「切らない外科的治療」です。
「ALTA(アルタ)療法」と呼ばれる治療法が有名です。
痔核に対して直接「ジオン」と呼ばれる薬液を注射器で注入します。
これにより血管に炎症を起こさせ、痔核を潰してしまう治療です。
限られた施設で、専門的な技術を持つ医師しか行えません。
メスを使って切除する治療ではないため、治療後の痛みはほとんどなく、5分から10分で治療が終わります。
クリニックでは日帰り治療を行うところが多いですが、病院では入院治療としているところも多くあります。
II度、III度の内痔核に対して有効で、痔核を縮小させて脱出を長期的に予防できます。
IV度でも脱出の改善効果があります。
内痔核に対して行われる治療で、外痔核には行いません。
ただ、内痔核と外痔核が合併しているケースでは、内痔核を治療することで外痔核が縮小したり、引き込まれて症状がなくなるケースも多くあります。
注射してから脱出が見られなくなるまで、およそ1週間から1ヵ月程度かかります。
一方欠点としては、再発率が4〜16%と、切除術よりやや再発が多いとされています。
また処置後に反応性に発熱したり、直腸に潰瘍ができるリスクがあります。
下腹部痛、血圧低下、徐脈といった直腸の迷走神経反射など、特有の合併症が起こりうるという欠点もあります。
ALTA療法は、妊娠中や授乳中の方など、受けられない条件の方もいますので、該当する方は必ず医師にその旨を伝えましょう。
以上の外科治療をまとめると以下のようになります。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
結紮切除術 |
完治が得られる可能性が高い どんな痔核でも治療できる |
術後出血のリスクがある 狭窄のリスクがある |
ゴム輪結紮療法 |
痛みが少ない 手術時間が短く日帰り治療が可能 |
軽い痔核にしか使えない 内痔核にしか使えない |
硬化療法 |
痛みが少ない 大きな痔核でも適応がある |
再発率がやや高い 内痔核にしか使えない 直腸潰瘍のリスクがある |
何科に行くべきか?
私のような消化器外科医が痔核の手術を行っている病院もありますが、専門は「肛門科」です。
一般的な外科(消化器外科)でも治療はできますが、重度のものや、複雑な治療を要するものは肛門科のある病院やクリニックに紹介します。
患者さんにとっては二度手間ですので、最初から「肛門科」を標榜しているところに行くのがおすすめです。
「消化器科に行くべき」と書いてあるサイトがありますが、一般的に消化器内科は痔核を診療しません。
また、産婦人科や泌尿器科などは、お尻に近い部分を専門領域とするとはいえ、痔核に全く関わりはありませんので、注意してください。
(参考文献)
肛門疾患診療ガイドライン/日本大腸肛門病学会