血が混じった便が出たら誰しも驚くはずです。
がんかもしれない?
病院に行った方が良い?
と不安になるでしょう。
一回だけ血便が出て放置している、という方も多いかもしれません。
消化器系の外来には毎回初診で「お尻から血が出る」「血便が続く」という症状で患者さんが多く来られます。
一方で、血便はよくある症状であるだけに間違った知識を持っている人は多くいます。
例えば、ストレスで血便が起こると思っている方がいますが、ストレスだけが原因で血便は起こりません。
出血の原因となる病気がない限り、いくら精神的ストレスがあっても便に血は混じりません。
例えば、痔が原因だと思い込んで放置していたら、悪性の病気が隠れていた、ということもあります。
しかし、血便が出た時に、痔(痔核)のせいなのか、痔以外が原因なのかを自宅で正確に見分ける便利な方法はありません。
医師が肛門鏡などを使用して診察しない限り、痔でないという確証は得られません。
インターネット上には、これらを見分ける方法があるかのように記載し、読者をミスリードする記事もあります。
(もちろん明らかに痔から出血していると自分でわかるケースもありますので、その対処法も解説します)
今回この記事を読んでいただき、正しい知識を整理していただきたいと思います。
では、血便がある場合に確認すべきポイントを順に解説していきます。
便はどんな色か?
便の色をまずしっかり観察して、本当に血便かどうかを確認しましょう。
血便とは、便に鮮血(真っ赤な血)が混じることです。
大腸〜肛門のどこからから出血していることを意味します。
一方、胃潰瘍や十二指腸潰瘍のように、胃や十二指腸から出血している場合は、便が海苔のつくだ煮のように真っ黒になります。
腸管内の硫化水素による血液の変化が原因です。
この黒い便を「血便」と呼ぶのは誤りで、正しくは「下血」です。
血便と下血は、出血している場所が全く違いますし、疑う病気、行う検査も全て違います。
まず落ち着いて、便を観察しましょう。
女性の場合は、血便だと思っていたら前側から(膣から)の出血であったというケースもあります。
どこから出血しているか、慎重に観察してみましょう。
なお、便の色や性状だけで、大腸がんかそれ以外かを見分けることはできません。
「がんが原因なら粘液が付着している、赤黒い色だ」というような情報を見かけますが、誤解を招く不適切な記載です。
大腸がんでも赤いサラサラの血液が付着することは当然あります。
肛門に近い直腸癌であれば、新鮮血がポタポタと落ちることもあります。
便の見た目だけでがんか否かを見分けることは、専門家である私たちでも不可能です。
出血量はどのくらいか?
血便の量が多いと貧血が進み、輸血が必要になることがあります。
痔が原因の場合でも、毎日のようにじわじわと出血していると、重度の貧血を起こします。
一度に大量の出血があればすぐに症状が出ることもありますが、毎日少しずつ血が減って貧血になると、自覚症状はほとんど現れません。
重度の貧血があると緊急入院が必要で、その場合は痔が原因でも緊急手術が必要となります。
1回の量が両手一杯分なのか、便器全体が真っ赤になるくらいなのか、あるいは便の表面にうっすら付着するだけなのか、きっちり見てみましょう。
そしてそれが何日間続いているのかを思い出しましょう。
いつからどのくらいの頻度で血便があるのかは、血液がどれくらい減っているのかを知る指標になります。
腹痛はあるか?
腹痛がある場合
腹痛があって血便が出ている場合は、大腸の炎症を考えます。
代表的な病気は、感染性腸炎です。
食中毒など、細菌(黄色ブドウ球菌、サルモネラ、カンピロバクターなど)やウイルス(ノロウイルスなど)が原因になります。
感染性腸炎の場合は、下痢や吐き気、嘔吐を伴うのが一般的で、血便より下痢の方が目立ちます。
症状が血便のみ、という場合は、感染性腸炎の可能性は低くなります。
また、大腸の血流障害が炎症の原因になる虚血性腸炎という病気も、血便を伴います。
腸に向かう血管が細くなることが原因です。
高齢者の方、高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロールや中性脂肪の値が異常)などで動脈硬化がある方、透析をしている方などにリスクがあります。
こちらも頻度の高い疾患で、腹痛と血便が起こります。
そのほか、抗生剤(抗菌薬・抗生物質)などの薬剤が原因となる腸炎も出血の原因となります。
「長い間抗生剤を飲んでいる」「最近新しい薬を始めた」などがないか確認しましょう。
腹痛がある場合は、こちらのチェックリストも確認してみてください。
また、頻度は低いものの、若い方の場合は炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)が原因になることもあります。
これは腸の病気というより全身性の病気ですので、発熱や食欲低下、体重減少、倦怠感(体がだるい)なども起こります。
全身的な検査が必要になります。
腹痛がない場合
腹痛はないが血便がある、という場合は、痔のように肛門からの出血の可能性が最も高くなります。
内痔核は、肛門の内側にできる、イボのように腫れた静脈瘤のことです。
肛門から脱出して目立つ(脱肛)こともありますが、小さい場合は自分でもわかりません。
通常肛門の痛みはなく、出血が目立つことが多いでしょう。
一方、外痔核は肛門の外側にできますが、こちらは肛門の痛みが目立ちます。
いずれも「いぼ痔」と呼ばれています。
一方、「裂肛」といって肛門が切れて出血することもあります。
通称「切れ痔」です。
これらはいずれも、血便の原因になります。
痔核の症状に当てはまるかどうかもご確認ください。
また頻度の高い疾患に、憩室出血があります。
「憩室(けいしつ)」とは大腸の壁のくぼんだ部分のことで、多くの人が大腸内に持っています(「憩室症」と呼びます)。
憩室症自体は無症状ですので、何十個と憩室があっても気づいていない方は多くいます。
時々ここから出血を起こすことがあり、これが腹痛のない血便の原因となることはよくあります。
特にこれまで大腸カメラを受けたことがあり、「憩室がたくさんある」と言われているような人は、憩室出血の可能性を考えます。
憩室についての詳しい説明はこちら!
一方、頻度は低くても重要な病気が腫瘍です。
腫瘍は良性のもの(大腸ポリープなど)と悪性のもの(大腸がんなど)に分けることができます。
いずれも出血の原因になりますが、通常お腹の痛みはなく、血便のみの症状です。
むろん、がんが非常に大きくなれば痛みが出ることもあります。
しかしもしそのくらい進行しているなら、食事が摂れない、体重が減っている、お腹が張る、など、他にも様々な症状が現れていることが一般的です。
大腸がんの症状についてはこちらにまとめています。
大腸の精密検査をしたことがあるか?
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を1年以内に受けたことがあり、そこで「異常なし」と言われている方の場合は、あわてて精密検査をもう一度受ける必要はありません。
通常、大腸ポリープなどの病変がない方で、がんの特別なリスクもない方は、大腸カメラは3年に1回で良いとされています(注)。
もちろん、この間に新たにポリープやがんができる可能性はゼロではありませんが、可能性は非常に低いといって良いでしょう。
ただし上述したように、大腸カメラを最近受けたことがあっても、血便の量が多く、それが持続する場合は必ず受診が必要です。
大腸ポリープについてはこちらでも解説しています。
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何科にかかるべきか?
血便があってかかるべき科は、消化器内科か消化器外科です。
ただし、原因が痔だと明らかな場合は別です。
痔を以前から診断されていて、手で触れることができる、そこから明らかに出血している、と自分ではっきりわかることもあるでしょう。
その場合は、「肛門科」を受診してください。
「消化器内科」や「消化器外科」「外科」という標榜だけであれば、肛門疾患の治療を行っていないことがあります。
一般の方にはあまり知られていませんが、痔核や裂肛、痔ろうなどの肛門疾患はかなり専門的な領域です。
外科手術を盛んに行っている病院でも、肛門手術は行っていない、専門家がいないという病院は多くあります。
もちろんそういう病院を受診されても、肛門科がある病院に紹介してもらえますが、二度手間になるためおすすめはできません。
肛門科と標榜されている、あるいは肛門外来がある病院への受診をおすすめします。
痔についてはこちら!
病院で行う検査
腹痛があって腸炎が原因と思われる場合は、全身を診察したのち、必要であれば血液検査、レントゲンなど一般的な検査を行います。
血便のみの症状であればまず肛門を診察します。
次に、直腸診(指を挿入)を行い、血液が付着するかどうかを見ます。
直腸癌の一部は肛門から指が届きますので、直腸診である程度診断ができます。
また肛門鏡を用いてさらに詳しく診察します。
肛門鏡とは細く短い棒のような道具で、肛門に挿入してその場で観察できます。
これらで血便の原因がわからなければ、次に大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を行います。
大腸カメラは準備が必要ですので、受診した当日に受けることはできません。
後日予約をとることになります。
大腸カメラについてはこちらをご参照ください。
血便については、受診するのが恥ずかしいという気持ちを逆手にとってか、私から見ても危ない間違った情報が出回っています。
ネットでの情報を信用せず、早めに病院に行くことをおすすめします。
痔の症状に当てはまるかどうかもご確認ください。
(参考文献)
内視鏡による大腸癌の予防と早期診断/日消誌 2016;113:1176-85
大腸ポリープ診療ガイドライン2014/日本消化器病学会