第9話の解説記事には、この1本だけで、約2日間で4万を超えるアクセス(PV数)がありました。
今回はSNSでのシェアはほとんどなく、新規で来られた約3万人の方ほぼ全員が検索エンジンからでした。
多かった検索ワードはやはり「SSS」でした。
私がこだわっている、ネット上に正しい情報をできるだけ迅速にアップしておくことが、いかに重要かを改めて実感します。
みなさんご存知のように、ネット上の医療情報は間違ったものが非常に多いです。
しかし残念ながら、検索でそういう記事にたどり着いて、間違った知識を身につけてしまう方が非常に多くいます。
私一人の力でどのくらいできるかは分かりませんが、今後も正しい情報を分かりやすくお届けできるよう努力したいと思います。
みなさん、このサイトには他にもたくさんの「読みやすくてためになる記事」があります。
コードブルーが終わってもぜひ来てくださいね。
というわけで、コードブルー3rd SEASONもいよいよ次回が最終回ということで、これまでのシーンを振り返りつつ解説記事を書いていきます。
以前から、藍沢のカッコ良さをまとめて記事にしたいと思っていました。
しかし誰が見てもカッコいいとわかるシーンを解説しても意味がないので、医師(あるいは医療関係者)が感じるコアなカッコ良さを紹介したいと思います。
私がこれまでで、藍沢が医師として最もカッコいいと思った瞬間です。
これは実は第1話にありました。
おそらく誰もがよく覚えているシーンです。
山車と壁に頭を挟まれた少年を白石が救命しようとします。
困難な体勢の中、なんとか気管挿管に成功したものの、意識レベルが低下してきます(意識レベルについての解説はこちら)。
頭部処置が必要なのですが、白石にはその技術はありません。
脳外科医である藍沢を呼ぶしかない。
まだこのとき藍沢は救急部に戻ってきておらず、脳外科医として勤務していました。
祈るように白石が電話をかけると、藍沢が応対し、すぐに駆けつけるというシーンです。
「カッコ良いのは当たり前じゃん」と思うでしょう。
実はここのシーンは、みなさんが思う以上にカッコいい理由があります。
患者の情報を全く尋ねなかった藍沢
藍沢は白石から電話を受けたとき、病状説明をしようとする白石の言葉をさえぎって、
「もういい、わかった。現場に向かう」
と即答しましたね。
これがどれほどカッコいいことなのか、説明します。
他の科の医師に、患者さんのことについて相談することを、業界用語で「コンサルト」と呼びます。
コードブルーでは「コンサル」と略していますが、「コンサルト」の方が一般的です。
他科の医師からコンサルトの電話を受けた時、どの医師でもまず知りたいと思うのは、
「口頭指示で解決できる問題かどうか」
ということです。
実際、専門科の医師への多くのコンサルトは、口頭で解決できる類のものです。
忙しい時は特に、自分が出向いていかなければ解決しない相談だと、仕事の優先順位を即座に変更しなければならなくなるからです。
あのとき白石が見たスマホの画面には18時15分と表示されていました。
日没になるとヘリを飛ばせなくなる、という切迫感が表現されたシーンですが、これは外科医にとって非常に忙しい時間帯でもあります。
日中の手術が一通り終わり、術後の患者さんの管理をしたり、手術記録を書いたりしなくてはいけないためです。
さらに、外科医は病棟に担当患者さんが何人もいます。
手術中にも、患者さんは色々な変化を起こしています。
病棟の看護師は、「患者さんのことについて医師に相談したいこと」がたまりにたまっているわけです。
急ぎの用事なら、手術中でも医師の職員用PHSに病棟から電話をかけますが、術後に相談すれば十分、という用事の方が多いのが普通です。
ですからこの時間帯は、外科医は各病棟を回ってそういった相談を受け、それぞれに対応しています。
患者さんを診察し、治療方針を変えたり、病状を説明したりしないといけないことも多くあります。
外科医にとってこの時間帯のコンサルトは、
「これらの仕事より優先順位が高いか低いか」
が気になるものです。
そのため、普通は必ず患者さんの情報を詳しく尋ねます。
急ぎの用事かどうか、という確認です(もちろんどんな時間帯でもそれは同じですが)。
例の少年の状態なら白石に対して、
どういう状況で患者さんが受傷したのか(受傷機転、頭部以外も含めて)
血圧や脈拍、呼吸状態、意識レベル(つまりバイタル)はどうなのか
どういう治療が必要だと思われるのか
を詳しく尋ねるのが普通です(バイタルについての解説はこちら)。
緊急性を判断するためには必須の項目です。
しかし藍沢は何一つ尋ねませんでした。
どんな患者さんなのか、詳細な情報が何もないのに、
「現場に向かう」
と言ったのです。
行ってみたら、自分が行かなくてもできる応急処置で済む話だった、という可能性もあったのに、です。
なぜ藍沢は何も尋ねなかったのでしょうか?
「この時間帯に白石から緊迫した声色で電話がかかってきたということは、もう自分が行かなくては解決しない問題が起きている」
と即座に確信したからです。
これは、藍沢と白石がお互いのことを知り尽くしているからできることです。
これまでに、藍沢と白石が共に歩んで来た道、乗り越えて来た困難、あらゆる経験を共有しているからこそ、説明は不要だったのだと思います。
チーム医療は大切だと言われます。
私も、組織として良好なチームワークは、患者さんの治療効果に大きな影響を与えると思っています。
この場面は、まさにその好例だと思いました。
結局1分1秒を争う危険な状態だった少年は、即座に現場に出向いた藍沢によって救われたからです。
広告
返答は「藍沢です」ではなかった
もう一つ、あのシーンには重要なポイントがあります。
白石が、
「お願い、まだいて」
と言って電話をかけます。
その時の応対は
「藍沢です」
ではなく、
「脳外科医局です」
でした。
病院内の場所として「医局」というと職員室と同じ意味です。
ここで「藍沢です」ではなかったということは、白石は、脳外科医局の、誰がとるかわからない固定電話に電話したということです(実際藍沢はモバイルではなく固定電話を手にしています)。
つまり、この病院の職員用のモバイルは、外線に対応していないことがわかります。
対応しているなら、白石は真っ先に藍沢のモバイルに直接かけたはずだからです。
どこの病院でも、全医師が個人用の職員用モバイルを与えられています。
一般的にはPHSですが、新しい病院ではスマホ型のものを給付されるところもあります(翔北ではそうですね)。
入職時に与えられ、退職時には返却する、院内専用のモバイルです。
院内で医師同士、あるいは医師と看護師など他の職種の人と連絡を取り合うためには必須の道具です。
この職員用モバイルは、外線対応、つまり院外から直接かけられるように設定している病院と、院外からはつながらない、外線に対応していない病院があります。
外線に対応していると便利な反面、セールスの電話がかかって来るなどトラブルの原因になるため、設定は病院により様々です。
いずれにしてもあのシーンからは、彼らの(少なくとも藍沢の)院内で持ち歩いている電話は、外線非対応だと予想できます。
(時間帯で変えているかもしれませんが、第4話の冒頭、病院からバーにいる冴島にかけた藤川、藍沢にかけた新海、そして第8話の竹内先生から緋山への電話、全て私用モバイルを使用しているので、外線非対応で統一しているように見えます)
ということはあの場面では、
脳外科医局に誰もいなければ誰も出ないか、違う医師がいればその医師が出て、「藍沢先生につないでください」というタイムラグが発生する可能性の方が高かった
ということです。
それなのに、まさに奇跡的に藍沢自身がその場にいて、直接その電話をとった。
そして藍沢の声で「脳外科医局です」という声が聞けた。
白石にとっても、少年にとっても、まさに救われた瞬間でした。
視聴者はここで、
「藍沢はやっぱり何か持っている男なのだ。患者を救うために、そういう星のもとに生まれた男なのだ」
と、白石と同じ感情を抱くことができる仕組みになっているわけです。
藍沢が電話に出た瞬間に、BGMがプツリと止まります。
こういう奇跡的な瞬間の訪れを表現したものです。
そしてその時、藍沢の強く握ったこぶしが映り、オープニングテーマが流れます。
ようやく3rd SEASONがここから始まった、ということです。
おそらく藍沢が、救命救急の現場に戻ろうと決意した、という意味ではないかと解釈します。
私は個人的に、コードブルーの数あるシーンの中でも、藍沢と白石が2人きりで話す場面が気に入っています。
厳しい現場をくぐり抜けて来たもの同士の醸し出す、そっけない言葉とは裏腹の、お互いへの信頼に満ちた独特の空気感を感じるからです。
あと1回でそれも見られなくなるのかと思うと残念ですが、スペシャル版や次回作にぜひ期待したいところです。
コードブルー全話解説記事目次ページへ→コードブルー3 医師による全話あらすじ/感想&解説まとめ(ネタバレ)