今回は、コードブルーで出てくる様々な用語についてのご質問にお答えしたいと思います。
以前の記事でルート=ライン=輸液の針 というようなことがありましたが、
よく出てくるAラインというのは、また違うのでしょうか?
輸液などのときに、レベルワン(なんとなく点滴に使う機械なのかな?と思ってますが)、FFPなどの単語も出てきますが、これらはなんでしょう?
また、FFP早く溶かして!という台詞もありますが、凍っているのでしょうか?
だとしたらなぜ???
by Raoさん
コードブルーで患者さんが初療室に搬送されたときにスタッフらがよく言うセリフに、
「Aライン入れてー」
「FFP溶かして!」
というのがありますね。
また先日の最終回では、ショック状態の患者さんに対して灰谷が、
「レベルワン持ってきてください」
と言っていました。
いずれも救急の現場では必ず使われる用語です。
レベルワンは器械の名前、FFPは血液製剤の名前なので簡単です。
Aラインについては少し詳しく説明します。
ここでもみなさんは、コードブルー製作者の恐ろしいほどの細かいこだわりに衝撃を受けるはずです。
Aラインとは何?
以前「なぜ救急患者はいつも点滴をしているのか」という記事で、「ライン」や「ルート」という言葉を説明しました。
点滴の針のことを、私たちは「末梢静脈ライン」や「末梢静脈ルート」と呼びます。
単に「ライン」や「ルート」と呼ぶこともあります。
コードブルーでも、
「ライン入れて!」
というセリフを聞くことがありますね。
点滴された経験がある方はわかると思いますが、ラインを入れる血管は静脈です。
みなさんの手の甲や腕の表面に浮いている血管、これは全て静脈です。
よってこれを「Vライン」と呼ぶこともあります。
「V」は、静脈の英語「Vein(ヴェイン)」の頭文字です。
一方、動脈に点滴をしなくてはならない時もあります(正確には「点滴」ではないですが)。
これを「Aライン」と呼びます。
動脈の英語は「Artery(アーテリー)」です。
点滴のように、体に水分を補ったり、輸血をする時に使うのはVラインです。
Aラインはそういう目的では使いません。
ではどういう時に使うのでしょうか?
色々な目的がありますが、最大の目的は「血圧をリアルタイムで測定すること」です。
「どう言う意味??」となりますね。
コードブルーのシーンを振り返ってみましょう。
コードブルーではよく、入院している患者さんの横にモニターが置かれていますね。
心電図の波形や数字が表示されています。
モニターの数字は主に、血圧、脈拍、SpO2を表します(つまりバイタル)。
(SpO2については「意識レベル、バイタルって何?どうなると危険?」を参照)。
この中で唯一、普段はリアルタイムに測定できない数字があります。
それが血圧です。
みなさんが血圧を測定する時を思い出してください。
血圧計に腕を入れて、腕がギュッと締め付けられて、その後開放される、という過程を経て、ようやく数字が表示されますね。
健康診断などで結果が出るのに時間がかかるため、いつも順番待ちをするはずです。
血圧だけはこのように、普通に測定すると1分程度は結果が出るまで時間がかかるのです。
健康な方が検診で測定するのであれば全く支障はありません。
しかし重症患者さんの血圧をチェックしたい時は、この1分が治療の遅れにつながることがあります。
1秒ごとでも血圧は変化するからです。
また患者さんも、1分おきに腕を締め付けられては、たまったものではありません。
そこで重症の方には、別の方法でリアルタイムに血圧の変動を見る必要が出てきます。
その時に使うのがAラインです。
Aラインが挿入されていると、動脈内に入った針につながったセンサーによって、その瞬間の血圧を常に表示することができます。
私は「名取&灰谷に学ぶ「ショック状態」の意味と危険性」の記事の中で、コードブルーではモニター画面の数字までリアルに作り込まれている、という話をしました。
第8話で灰谷が担当していた少年(慎一くん)が仮性動脈瘤破裂でショックになった時を思い出してください。
このとき、モニターの画面は2回映ります。
1回目は普通の病棟で、2回目は急変したあとICUで、です。
この合間のシーンはカットされています。
患者さんは、1回目は意識がありますが、2回目は急変し、挿管されているのがわかります。
私は記事の中で
「1回目と2回目のモニター表示が微妙に違うのには理由があるが、長くなるのでまたの機会に」
と書いたのを覚えていますか?
実は、2回目の急変後のモニターには、1回目の時にはなかったリアルタイムの血圧表示があるのです。
つまり、急変後にAラインを入れた、ということです。
ショック状態になり、血圧をリアルタイムに知る必要が生じたからです。
急変後からICUへ移動する間のシーンはカットされているため、ここではAラインを入れるシーンはないし、気管挿管のシーンもありません。
この公開されなかった時間の中で、名取や灰谷、横峯らフェロー達が、急変時の適切な対応をしていたということです。
恐るベき製作者のこだわりです。
まさか一瞬しか映らないモニター画面までリアルに作り込んであるとなると、もう言葉がありません。
本当にコードブルーの全くスキのない医療シーンには感服します。
ちなみに、Aラインのもう一つの目的に動脈採血があります。
Aラインが挿入されていると、簡単に動脈の血液を採取することができます。
動脈血内の酸素・二酸化炭素濃度、pH(ペーハー)、BE(ベースエクセス)(いずれも酸性・アルカリ性の程度)などを正確に知ることができます。
これを「血液ガス分析」、略して「血ガス」と呼びます。
コードブルーで聞いたことがありますね?
血液を専用の器械に通すと1分ほどで結果が印刷されるため、この紙を初療室に持ってきて、
「ペーハー○○、ベースエクセス○○です!」
と言うようなシーンは見たことがあると思います。
レベルワンとは何か?
レベルワンとは、大量の点滴(輸液)をしたい時に使う道具です。
輸液のことを「点滴」と呼ぶのは、ポタポタとしずくが落ちる様子からです。
このポタポタの速度は、管の途中に「しぼり(クレンメと呼びます)」があるので、自由に調整することができます。
しかし救急患者の大量出血などが原因で、一気に大量の輸液をしたい時があります。
(大量出血時に輸液が必要な理由は「なぜ救急患者はいつも点滴をしているのか」を参照)
通常、しぼりをマックスに合わせて、さらに太い針を使ったとしても、結局は重力で落ちる以上の速度は得られません。
病院の1階にいる患者さんに、病院の屋上から落とせば速くなるかもしれませんが、もちろんそんなことはできません。
また太い針といっても、患者さんの体に大きな傷が残るほどの巨大な針を刺すわけにもいきません。
点滴の速度には、高さと針の太さという限界があるのです。
そこで、ポンプを使って無理やり押し込もう、という発想で使うのがレベルワンという器械です。
普通は500ミリリットルの輸液製剤を数十分かけて注入するところが、レベルワンを使えば、ものの1分で血管内に押し込むことができます。
もちろん超緊急事態でしか使いませんので、救急や、大量出血が起こったオペ室でしか登場しない器械です。
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FFPとは何か?
FFPは「新鮮凍結血漿(Fresh Frozen Plasma)」の略です。
輸血の時に使う血液製剤の一種です。
皆さんは「輸血」と聞くと、赤い血を思い浮かべるのではないでしょうか?
実は輸血、つまり投与する血液製剤のうち赤いのは「赤血球製剤」だけです。
現在の輸血は、血液をそのまま注入するわけではありません。
血液を様々な成分にわけてそれぞれを製剤とし、「足りない成分を必要な分だけ補う」が基本です。
ときどき手術前に患者さんのご家族が、
「輸血が必要になったら私の血を使って下さい」
と言われることがありますが、これは絶対にやりません。
ウイルスのチェックや放射線照射など、安全のためのあらゆる関門をくぐりぬけた血液だけが血液製剤になるからです。
この血液とは、街でよくみかける「献血」で得た血液です。
こちらの記事もご参照ください
血液の成分として製剤になっているのは、赤血球のほか、血小板やアルブミンなどのタンパク、血漿(けっしょう)と呼ばれる液体成分です。
このうち、常温では保存できず、冷凍庫で凍らせて保存しなければならないのが血漿です。
血漿の中には凝固因子が多く含まれているため、主に大量出血が起こっている患者さんの止血目的に使います。
(凝固因子については「コードブルー3 第3話 感想|医師が解説!実際はどうなの?外傷手術」で解説しています)
コードブルーのシーンを見直してみてください。
「FFP早く溶かして!」
というセリフがあるときは、きっと外傷などで患者さんに重症の大量出血が起こっている時です。
血液製剤の中では唯一、保存するときは凍結しておき、使う時には温めて溶かして使う製剤なのです。
この解説を読んでもう一度コードブルーを見直すと、初療室での救急対応がよりわかりやすくなるはずです。
ぜひ、もう一度見直してみてください。
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