解説その2はこちら!
※完全ネタバレ記事です。映画未視聴の方は「【ネタバレなし】「劇場版コード・ブルー」試写会 感想&解説」を読み、映画を見てから読まれることをおススメします。
藍沢を救ったECMO(エクモ)
ECMO(エクモ)とは、Extracorporeal Membrane Oxygenation(体外式膜型人工肺)の略。
人間の肺は、外界から取り入れた酸素を血液中に取り込む(酸素化)臓器だが、この代わりをしてくれる装置である。
全身をめぐって各臓器に酸素を届けて心臓に戻ってきた血液は、含まれる酸素が少なくなっている。
この血液に肺で定期的に酸素を補充することで、全身に酸素が絶えず行き渡るようになっている。
ところが、今回の藍沢(山下智久)のように肺の機能が落ちるとうまく酸素が外界から取り込めなくなる。
その場合、人工呼吸器によって酸素濃度の高い空気を肺に送り込むことになるが、これも限界がある。
そのうち全身が酸素不足となり、死に至る。
そこで、「一時的に機械に肺の代わりをさせよう」というコンセプトで行うのがECMOである。
肺に戻る前に血液を体外に出し、機械を通して再び身体に戻す、というわけだ。
今回藍沢はこのECMOによって肺を補助され、その間に呼吸機能が立ち直り、完全回復したというわけである。
これを読んだ方は、肺の障害に対する治療としてECMOは名案だ、と思うかもしれないが、あくまで「一時しのぎ」に過ぎないことに注意が必要だ。
外傷を負った肺を治療するのではなく、「自然に肺の機能が回復するのを待つ間の時間稼ぎ」として、機械に肺の代わりをさせている。
この間に呼吸機能が立ち上がらなければ、結局患者は救えない。
そしてECMOは、短期間で大量の医療コストを消耗するため、効果の期待できない患者さんに適応するのは許されない。
さらに、管理を行う医師、看護師、臨床工学技士にも高いレベルの技術が必要であり、限られた施設でしか導入できない。
あくまで今回のように、回復力に期待でき、救命できる可能性があるような患者さんに対して、専門的な施設で念入りな検討の上で導入されるべき治療なのである。
10年の思いを胸に…
予定通りに挙式できなかった藤川(浅利陽介)と冴島(比嘉愛未)。
しかし、橘(椎名桔平)ら救命チームの計らいで、病院の中庭でサプライズ結婚披露パーティーが開かれる。
ようやく式を挙げられ、満足げな笑顔を見せる藤川の元へ、橘が一通の手紙を手にしてやってくる。
それは、かつてフェローであった藍沢らの最大の師匠であり、現在僻地医療を続ける元救急部部長、田所(児玉清)からの手紙であった。
田所は、かつてまだ未熟で毎日悩み苦しんでいたフェロー達を支えた存在だ。
黒田(柳葉敏郎)が腕を失うきっかけを作った白石(新垣結衣)は、一度辞表を提出するまで精神的ダメージを負ったが、そんな彼女を救ったのは田所だった。
訴訟問題に苦しみ、萎縮しきっていた緋山(戸田恵梨香)をどん底から救ったのも田所。
そして、複雑な家庭に育ち、かつて医師としての適性を疑問視されるほど異端だった藍沢の成長を、温かく見守ってきたのも田所だった。
田所の姿を久しぶりに見て感じるのは、10年間という月日が藍沢ら元フェローたちを見違えるほどに成長させたということだ。
彼らの姿を見て、1stからコードブルーを見てきた私たちは、きっと自分にこう問いかけるだろう。
私たちもまた、人として、職業人として、彼らと同じように成長できたかどうか?
田所の手紙を読む一人一人の声を聴きながら、これまで10年間で歩んできた人生を、きっと誰もが振り返ることになるだろう。
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チームが支えた救急医療
藤川と冴島の結婚式のため、白石がサプライズムービーを撮影していた。
一人ずつビデオメッセージを集めるという定番の企画だ。
各人がカメラの前で話す言葉や仕草には、これまでコードブルーを見て私たちが感じてきた各キャラクターの魅力で溢れている。
メッセージの撮影をあれほど嫌がっていた緋山が、いざカメラの前で話し始めると号泣するなど、表面的には強がっていても実は真っ直ぐで素直な性格が現れているし、
画面の前でスマホをいじっている名取(有岡大貴)や、自分の番が回ってくるまでポケットに忍ばせたノートで話す内容を確認する灰谷(成田凌)の姿にも思わず苦笑させられる。
だが最大の見所は、藤川が藍沢からのメッセージを見てセリフを一言も発さずに涙を流すシーンだ。
ビデオメッセージに乗り気にならない他のメンバー達の中で、唯一進んでメッセージを撮影したのが藍沢だった。
かつてフェローの中でも劣等生で、日々コンプレックスを感じていた藤川は、1st SEASONから飛び抜けて優秀だった藍沢に、
「自分はどうして藍沢みたいになれないのか?」
と本音をこぼしたことがある。
藍沢はこの時のことを覚えていて、カメラの前で藤川に、
「今は俺の方がお前みたいになりたいと思う」
と言うのだ。
「大切な人間に胸を張って大切だと言えることがいかに尊いことなのか、お前を見ているとわかる。
俺もいつか伝えられるようになりたいと思う。」
と。
技術は優れているが、人間性の面で自らに課題を感じ、葛藤してきた藍沢
技術面では劣るが、素直な性格でムードメーカーとしてなくてはならない存在だった藤川
この二人の間で交わされる言葉は、理想的なチームの本質をついている。
翔北の救命は「お互いの弱点をカバーし合うチーム」だ。
それぞれ能力が高くて魅力的だが、同時にそれぞれが大きな弱点を持っている。
完璧なスーパースターは一人もいないのだ。
それは部長の橘(椎名桔平)とて同じである。
息子の脳死移植を迷う両親に対してどう接すれば良かったのかと尋ねた灰谷に橘は一言、
「わからんよ。俺も毎日、迷いながらやってる」
と言う。
救急部部長として長年修羅場をくぐった橘ですら、答えのない問いと毎日向き合い、悩んでいる。
チームのメンバーが、年齢や経験を問わず自分たちの弱点を謙虚に自覚し、それを補い合って現場に立ち向かう。
コードブルーは、こうした理想的なチームを描き出したドラマであることを、劇場版を見て改めて痛感させられたのである。