劇場版コードブルー徹底ネタバレ解説として、公開直後に3部作で記事をアップしました。
これらの解説記事は、映画とセットで読んでもらうための「読み物」をイメージしているので、隅々までは解説していません。
最初から細かく解説すると取扱説明書のように面白くなくなるからです。
ただ、映画を視聴した皆さんは、2時間を超えるストーリー中で疑問に感じた部分は他にもまだまだあるはず。
こうした細かいポイントをこれから解説していきましょう。
今回は、海ほたるでの緋山のカッコいいファインプレーと、藍沢が受けた処置について解説します。
※ここからはネタバレです。映画未視聴の方は「【ネタバレなし】「劇場版コード・ブルー」試写会 感想&解説」を読み、映画を見てから読まれることをおススメします。
緋山のブラインド経鼻挿管
海ほたるでのフェリー衝突事故現場で、緋山は名取を指導しつつ患者の対応に当たります。
その横で、呼吸状態が悪くなった患者さんに対し、救命士が気管挿管しようとしますが、うまくいきません。
SpO2(サチュレーション)は90%を切り、かなり危険な状態(「コードブルー3 |意識レベル、バイタル、SpO2とは?どうなると危険?」参照)。
緋山はこれを横目で気にしつつ、しかし名取からも目が離せません。
名取から、自分のことは気にせず救命士のヘルプに入ってほしい、と強く言われ、ようやく緋山はその救命士の元へ向かいます。
患者さんの状態を見た緋山は、
「口からは無理ですね。経鼻挿管(けいびそうかん)しましょう」
と言い、鼻から挿管します。
ここで救命士が感嘆したように、
「ブラインドで一発・・・!」
と言います。
現場での気管挿管は、コードブルーではおなじみです。
一般的には「経口挿管」、つまり、患者さんの口を開け、左手で喉頭鏡を持ち、喉を開いて直接喉の奥を見ながら右手でチューブを気管に挿入します。
喉頭鏡とは、こんな道具です。
何度も見たことがありますね。
喉の奥には「声帯」と呼ばれる、声を出すのに必要な扉のような臓器が左右にあり、この扉の隙間を「声門」と呼びます。
声門は、普段呼吸する際は開いていますが、声を出す時には扉のように閉じ、吐き出す空気で声帯が振動して音が出ます。
経口挿管では、声門に向けてチューブの先端を直接見ながら挿入します。
ところが、今回は救命士が経口挿管に苦労していました。
声門がうまく見えなかったからです。
上述したように、声門が見えないとチューブをどこに挿入すればいいか分からず、口からの挿管は困難です。
ここで緋山は口からの挿管をあきらめ、鼻からの挿管に切り替えました。
これが「経鼻挿管」です。
鼻からチューブを声門の手前までゆっくり挿入します。
呼吸の音を慎重に聞きながら、患者さんが息を吸ったタイミング=声門が大きく開くタイミングを見計らってチューブを一気に挿入します。
当然この方法ではチューブの先端も喉の奥も直接見ないので、手元の感覚と呼吸の音を聞く耳の感覚を頼りに挿入することになります。
緋山は耳を患者さんの口元に近づけ、呼吸音を聴きながら、手でチューブの動きを探りつつ、途中で一気にチューブを進めましたね。
この動きの理由はもう分かるはずです。
鼻から太い気管チューブを入れるシーンは、見た目が痛々しく、さすがに人を相手には撮影しにくいためか、この部分ははっきりとは映されていません。
そのせいか、何が行われているか少し分かりづらいと感じた方も多いのではないでしょうか。
ちなみに、直接目で見ずに行う医療行為のことを「ブラインド」と呼びます。
日本語では「盲目的」です。
視覚を頼りにせずに行うため、処置が一段階難しくなります。
しかも呼吸状態が悪い人の気道確保は、秒単位の対応が要求されるほど、非常に緊急性の高い処置です。
救急対応のABCの「A」の大切さは「コードブルー3 医師が解説|なぜいつも現場で気管挿管をするのか」で説明しました。
少しでも遅れると患者さんの命に直結するからです。
そこで今回、救命士が経口挿管に難渋している姿を横目で見て知っていた緋山は、すぐに臨機応変に経鼻挿管に切り替えたのです。
難しい処置ですが、これを一発で決めた緋山が素晴らしくカッコいい、という描写です。
ちなみにここで流れるBGMが、劇場版で新たに登場した「Red」という曲です。
緋山の「緋」は「赤色(紅色)」という意味。
つまり「Red」は緋山のテーマソングです。
まさに、「緋山のために用意されたシーン」なのです。
ぜひもう一度見直す時は注目してみてください。
なお、名取は自分への教育が緋山の人生のブレーキになっているのではないかと負い目を感じていて、ここでも強く自立しようとしました。
緋山にキツい言葉を投げかけますが、最後は、
「進むべき道は見つけられました、緋山先生のおかげで」
と自分を一人前にしてくれた緋山を立てることを忘れませんでした。
名取はプライドが高く、時に強がって本心が分かりにくい男ですが、実は同僚思いで先輩への感謝の気持ちを忘れない、優しい一面があります。
この性格は3rd SEASON後半から徐々に現れ、スピンオフやスペシャルでも魅力的に描かれています。
彼が変わったというより、彼がもともとポテンシャルとして持っていたキャラクターなのでしょう。
これを引き出したのは、もちろん指導医の緋山です。
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もう一つ余談ですが、口から挿管できない!となった場面で検討すべきもう一つの選択肢があります。
輪状甲状靭帯切開です。
1st SEASON第1話で藍沢が行なった処置ですね。
今回、もし経鼻挿管も難しければ、緋山は即座にこの処置に移ったはずです。
お忘れの方は「コードブルー1st 第1話解説|医者に厳しすぎるリアルな救急」をご参照ください。
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挿管中の経鼻胃管
藍沢が胸部外傷によって気管挿管され、ICUで管理されることになります。
ここで藍沢の鼻に白い管が入っているのですが、この管の目的に関してご質問をいただきました。
この管は「経鼻胃管(けいびいかん)」と呼ばれる、鼻から入れて胃に先端を置く1メートル前後のチューブです。
目的は多くあるため、全てを細かく説明すると専門的になりますが、簡単に言えば「液体を入れるか、出すか」のどちらかです。
「入れる」のは、栄養剤を投与したい場合です。
気管挿管されていると、口から食事がとれません。
点滴で栄養を補給することはできますが、栄養剤を直接胃に注入できれば食事するのとほぼ同じ効果が得られ、患者さんの回復にとって有益です。
そこで、長期間人工呼吸管理が予想されるような患者さんには、このように鼻から管を入れて栄養管理をすることが一般的です。
一方、「出す」のは、胃内に溜まった空気や胃液、食べたものです。
ICUで管理されるような重症の方は、胃や腸の動きが悪くなりがちで、消化管が交通渋滞を起こして胃内に液体がたまりやすくなります。
溜まりすぎると、胃が張って嘔吐の原因にもなるため、管を使って吸引する必要があります。
そこで、胃に管を置いておいて、常に液体が管から排出されるようにしておくわけです。
管から毎日多量の排液が出ているような状態では、栄養剤を注入することはできません。
胃や腸の動きが悪いことを意味するからです。
逆に排液が少なければ、栄養療法の開始を検討します。
管からの排液量を見ることで開始時期の目安にもなります。
また気管挿管中に、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などを起こし、出血することがあります。
こういう場合でも、胃管からの排液が赤くなることで気づかれるため、重症患者さんの胃の状態を察知するためのツールとしても使えます。
ちなみに、実際には経鼻胃管は透明のものを使うことが多い印象です。
透明のものの方が排液の色調が見えやすいからです。
たいてい、この管は胃液や栄養剤で褐色に汚れていることが多く、ドラマではこの描写が難しい(透明な新品だとおかしい)ため、白色が使われているのでしょう。
コードブルーでは、二次災害によってスタッフが被害を被ることがあまりに多く、これまで人工呼吸管理を受けたのは、藍沢以外に3人います。
緋山(心破裂)、冴島(シアン中毒)、藤川(クラッシュシンドローム)です。
このうち、鼻に管が入れられたのは藍沢と冴島でした。
藤川は現場での挿管シーンしかないため、病院に戻ってから挿入した、と考えれば自然ですが、緋山に挿入されていなかった理由ははっきりとは分かりません。
細かな説明はないため、設定上、上述のいずれの必要性もなかったから、と考えるのが良いでしょう。
引き続き、劇場版コードブルーに関して質問を募集します。
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