コードブルー1st SEASON最終回は、翔北救命センターの総力戦で臨場感あふれる現場治療を見ることができる。
「救急医ならでは」と言うべき診断力、判断力を何度も見ることができ、そのリアリティに唸らされた。
医療ドラマでは、ドクターXの大門未知子のように、
「こんなの誰も分かるわけないだろう」
というようなまれな病気やサインを見抜いて治療するという非現実性に違和感があることが多い。
しかしコードブルーは対照的で、診断は非常に難しいが「あるサインに気づけば答えが分かる」というタイプの、現実的な「難しい病気」が出てくる。
今回の「頸動脈の血栓による脳梗塞」はまさにその典型例だ。
これを緻密な身体診察で見抜いた藍沢(山下智久)と三井(りょう)の思考過程は非常にリアル。
まさに、こういう患者さんをギリギリで救えた、あるいは救えなかった経験を実際に持つ救急医が監修しているからこそ作れるシーンである。
この症例を含め、今回のストーリーにはたくさんの外傷症例が登場する。
2本立てでわかりやすく解説していこう。
前半のあらすじ
トンネル内での多重衝突事故で多数の死傷者が発生。
藍沢ら救急スタッフはドクターヘリで現場に直行し、トリアージタグを用いて現場の収拾を図る。
緋山(戸田恵梨香)と白石(新垣結衣)はトンネル内で腹腔内出血の女性を診察し、ヘリ搬送を決める。
しかし女性は、夫がまだトンネル内で安否不明であるため現場に残りたいと懇願。
搬送を優先すべきと判断した緋山は、夫を必ず見つけ出すと約束してドクターヘリに同乗する。
しかし搬送中に女性が急変、心タンポナーデを発症したことが判明。
現場での心のう穿刺の経験はない緋山だったが、院内からの黒田の指示のもと無事にヘリ内での心のう穿刺を成功させる。
一方、翔北救命センターの初療室では、黒田(柳葉敏郎)、森本(勝村政信)、藤川(浅利陽介)らが搬送されてくる患者の対応に追われていた。
現場では人も機材も不足していることを知った藤川は、
「俺に行かせてください」
と黒田に強く申し出る。
これまで藤川のドクターヘリ出動を一度も認めなかった黒田。
しかしその熱意に押され、藤川を現場に派遣することを決める。
緋山とともに現場に向かった藤川が最初に診察したのは、右下肢コンパートメント症候群の患者。
難しい対応を要する場面、しかし藤川はとっさの判断で減張切開を行い、患者を救う。
一方、緋山が必ず見つけ出すと約束した女性の夫は、トンネル内でトレーラーの積荷の下敷きになっていた。
緋山、藍沢、三井、藤川、冴島(比嘉愛未)の総力戦で必死の救命を試みるが、無情にもトンネル奥でガソリン漏れが発生。
いつ引火してもおかしくない状況に、消防隊長から避難命令が出てしまう−。
まず前半戦は、やはり緋山の心のうドレナージと、現場初デビューの藤川の減張切開にスポットを当てたい。
心タンポナーデに対する心のうドレナージはこれまで何度か解説しているが、今回は黒田から心のう穿刺の経験を聞かれた緋山の、
「エコーとガイドワイヤーがある所でなら(やったことがある)」
のセリフの意味や、3rd SEASONでの藍沢の開胸心のうドレナージまで、それぞれのパターンをわかりやすく解説しておくべきだろう。
また藤川の活躍は短時間ではあるものの、のちに「外傷整形といえば藤川」と言わしめる布石となる重要なワンシーンだ。
コンパートメント症候群とは?
藤川の処置が適切だった理由は?
と疑問に思った方も多いと思うので、これを解説したいと思う。
心タンポナーデと心のうドレナージ
心タンポナーデは、緊急で治療しなければ死亡リスクのある危険な病態のため、コードブルーで扱われることは多い。
心臓は心のうと呼ばれる袋の中に入っている。
外傷で心臓周囲の血管が傷ついたり、心臓自体が損傷して出血すると、この袋の中に血液が充満するため、心臓の拍動が妨げられるのが特徴だ。
血液によって周囲から心臓が圧迫されるからである。
そこで治療は心のう内から血液を除去すること。
これを「心のうドレナージ」と呼ぶ。
ちなみに「ドレナージ」とは英語で”drainage”、「排水」という意味だ。
一般的な心のうドレナージは、エコー(超音波)で見ながら針を刺し、その針先をエコーで追いかけながら心のう内に到達させる方法だ。
心のう内に針が入れば、それに沿わせて細いワイヤーを挿入。
ワイヤーが心のう内に入ったところで、ワイヤーに沿わせて太いチューブを心のう内に入れていく。
いきなり太いチューブを挿入することはできないが、ワイヤーに沿わせる形であれば挿入することができる。
このワイヤーを「ガイドワイヤー」と呼ぶ。
これが「普通の」心のうドレナージで、緋山が院内でやったことがあるという処置だ。
一方現場でエコーやガイドワイヤーがない場合は、当てずっぽうに針を刺して注射器で血液を吸引することになる。
ただ当てずっぽうといっても、
「みぞおちから指1本分下(Larry点)で、左烏口突起(肩の骨の突起)に向けて斜め45度の角度で」
という厳密な手順が決まっているため、穿刺は可能である。
これが黒田が指示したブラインドでの(エコーなしの)ドレナージだ。
さらにこの針がうまく心のう内に入っても、血液がドロドロに固まっていると吸引してもうまく引けないこともある。
血液は時間がたつと、「血腫」と呼ばれる塊に変化するからだ。
こういう場合は注射針での吸引は不可能。
開胸して心膜を切開し、心のうを開いて中に溜まった血液を除去する必要がある。
3rd SEASON第2話で藍沢が救急車内で行なった、「開胸心のうドレナージ」である。
状況は今回のヘリ内での患者さんの急変と非常によく似ている。
これについては、こちらで解説しているのでご参照いただきたい。
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コンパートメント症候群と減張切開
一方藤川が治療したコンパートメント症候群も、外傷救急においては極めて重要な病態である。
腕や足の筋肉は、筋膜などで囲まれた小さな部屋のような区画内におさまっている。
この区画のことを「コンパートメント」と呼ぶ。
骨折や脱臼などの外傷で出血や組織の腫れが起こると、このコンパートメント内の圧が高まってくる。
しかし圧の逃げ道がないため、徐々にそこを通る血管や神経が圧迫されてくる。
(以下の図は足の断面図のイメージ)
すぐに開放しなければ血流不全で筋肉が壊死して切断を余儀なくされたり、神経障害によって麻痺が永久に残ってしまう。
これを「コンパートメント症候群」と呼び、整形外科領域では極めて重要かつ緊急性の高い疾患である。
今回の藤川が治療した男性は右下腿(膝より下の部分)のコンパートメント症候群。
多くの筋肉が存在するため特に起こりやすい部位だ。
治療は、コンパートメントの仕切りとなる筋膜を大きく切開して開放すること。
これを「減張切開」と呼ぶ。
「張り」を「減らす」ための「切開」である。
筋膜を切り開くためには、その表面にある皮膚も大きく切り開くことになる。
しかし現場での大きな皮切は感染のリスクも大きい。
そこで一旦皮切を最小限にし、筋膜だけを大きく切開する、という応急処置を選んだのが今回の藤川だ。
「皮切を最小にして筋膜だけ切開すれば切断は回避できる」
と言う藤川のセリフの意味はもうわかるだろう。
ただし、ここで一気に開放すると起こる怖い現象とは何か?
コードブルーファンの方は想像がつくはずだ。
クラッシュシンドロームである。
(クラッシュシンドロームについては「コードブルー3 最終回 解説|クラッシュシンドロームと横紋筋融解症はなぜ怖いのか?」参照)
今回は阻血範囲が狭いため心停止のリスクは少ないにしても、壊死物質の流出による、のちの腎不全は危惧される。
そこで藤川が使ったのが、事前に生理食塩水と重炭酸ナトリウム製剤を点滴する方法だ。
大量の輸液と尿のアルカリ化で腎臓を保護できるからである。
この点滴を「クラッシュカクテル(crush injuryカクテル)」と呼ぶ。
「クラッシュカクテル作るから重炭酸ナトリウムと生食用意して!」
初の現場治療とは思えぬ見事な立ち回り。
いつかドクターヘリで活躍できる日が来ると信じ、綿密にシミュレーションしてきたのであろう。
のちに現場で多くの外傷患者を救うことになる藤川の、記念すべき第一歩である。
というわけで前半戦の解説はここまで。
次回はいよいよトンネル内の総力戦での治療を解説しよう。
後半の解説はこちら
1st SEASONまとめ記事はこちら!