コードブルー2nd SEASONは2010年1月〜3月の月9枠に放送された人気シリーズの第2弾。
このサイトでは、最近放送された3rd SEASONを全話徹底解説したのち、1st SEASONから振り返って解説記事をアップしている。
今回からは2nd SEASONの解説に入っていきたいと思う。
1st SEASONでは、指導医黒田のもとで成長を見せた藍沢、白石、緋山、藤川、4人のフェロー達。
最後の最後まで「救命を諦めない」積極的な姿勢を黒田から学んだ彼らは、2nd SEASONで救える見込みのない命にどう向き合うのかという難題をつきつけられることになる。
右腕を失って戦線離脱した黒田の代わりに、2nd SEASONから新たな指導医として赴任したのは3rd SEASONでもおなじみの橘。
「医師は諦めも大切」とドライな姿勢を貫く橘から、フェロー達は何を学び、どう成長するのか、見所である。
さて第1話では、心肺停止の少年に対してこれまで出てきたことのないようなアクロバティックな蘇生処置を行うシーンがある。
これはどこまでリアルなのか?
藍沢がすごいのか?それともドラマだけの「トンデモ」シーンなのか?
疑問に思った方も多いと思う。
順に説明していこう。
DNRの意味と難しさ
翔北救命センターに、救急車とドクターヘリで立て続けに患者が搬送されてくる。
一人は、最近翔北のICUで亡くなったばかりの男性患者の妻。
ICUで長期入院する夫のもとに毎日通った末、疲労がたたって心筋炎を起こしたのだった。
「DNRオーダーにサインもらえてればご家族もここまで苦しまずに済んだのかもね」
「植物状態で亡くなるんなら人工呼吸器つけないって選択肢もあっただろ」
との藤川(浅利陽介)の言葉を聞き、看護師の冴島(比嘉愛未)は辛い表情を見せる。
DNRとは「Do Not Resuscitate」の略で、直訳すると「蘇生してはいけない」。
「心拍や呼吸が停止したとき、心臓マッサージや人工呼吸器による延命処置を拒否する」
という患者さん(あるいはその家族)からの意思表示のことである。
冴島の恋人、田沢は難治性の神経疾患ALS(筋萎縮性軸索硬化症)にかかっており、すでに首から下はほとんど動かず車椅子生活の状態。
ALSは全身の筋肉が動かなくなる進行性の病気で、いずれ呼吸筋が麻痺し、呼吸ができなくなる。
いまだに有効な治療法はない。
DNRの意思を表明する用紙にサインすることを田沢が悩んでいる状況下で、冴島は藤川のセリフに複雑な感情を抱いたのだ。
結果的に田沢は、延命処置の拒否を選んだことを冴島に告げる。
本当にそれで良かったのかとの冴島の質問に、
「最後まで俺らしくありたい。残りの人生、お前に会うために使いたい」
と田沢は答え、冴島は涙する。
DNRの概念は、
癌の末期や老衰、救命の可能性がない病状の患者は、最期の迎え方を自分で選ぶ権利がある
という考え方に基づく。
この「尊厳死」に基づく考え方は、近年医療現場に定着した。
この概念がない頃は、延命は何よりも優先されるべきことで、余命が短く助かる見込みのない人に対しても心臓マッサージし、気管にチューブを入れて人工呼吸を行うことが正しいとされていた。
これによって患者さんがその後長く生きられるのなら良いが、生き長らえる見込みのないケースでの延命処置は患者さんの体を痛めつけるものでしかない。
今回田沢は意識のある状態でDNRを希望したが、実際の医療現場ではむしろ、本人の意思表示ができない状況で家族がDNRに同意する、というケースが多い。
今回ドラマに出てきたような、DNRの意思を問う文書はどの病院にも必ずある。
みなさんの中にも、ご家族のために同じような書類にサインをしたことのある人がいるかもしれない。
実際余命の短い患者さんは、いつ何時急変するかわからない。
ご家族の意思が明確でないときに患者さんが急変したら、全例において私たちはフルの延命処置を行うしかない。
激しい心臓マッサージを繰り返すことで肋骨は折れ、無理やり人工呼吸器に繋がれることで患者さんに多大な苦痛を与えることになる。
私たち医療者は、
「本当にこの患者さんはこれを望んでいるのだろうか」
と心の中で何度も問いかけながら、必死に蘇生処置を行う。
できればまだ元気で全身状態が安定しているうちに、家族の中で自分が最期をどのように過ごしたいか話し合っておくことを私たちはすすめている。
心肺停止の少年を救った藍沢の意図
一方藍沢(山下智久)は、ドクターヘリで出動した現場で、溺水した少年を治療、翔北に搬送する。
発見時すでに心肺停止、しかも体温は26℃と低体温症を起こしていた。
低体温では、通常の心肺蘇生法で心拍が再開することはない。
救急車内でも心電図上は心静止が続いていた。
しかし諦めたくない藍沢は、救急車内で骨髄針(血管が細くて点滴できない時に骨に針を刺して急速輸液を行う方法)によって輸液を行い、懸命の心肺蘇生を続けながら翔北に搬送する。
さらに搬送後、開胸心臓マッサージを行いながら、お湯を張ったバスタブに少年をつけて胸腔内へ直接お湯を流し込んで復温することを提案。
少年を救うために全力を尽くしたい藍沢に同調した白石、緋山、藤川、冴島も処置に参加する。
31℃まで復温したところで心電図波形がVf(心室細動)に変化。
白石による除細動で、ついに心拍は再開する。
しかし少年の瞳孔は散大、対光反射は消失していた。
心拍再開時、すでに発見時から50分が経過。
低酸素脳症による脳障害によって、脳の機能が廃絶していたからだ。
「医者の成長は亡くなった患者の犠牲によって成り立ってる」
「指導医の務めはリスクを最小限にして若い医者に経験を積ませること」
と、救える見込みがほとんどないことを知りながらフェロー達にあえて自由に処置をさせた橘(椎名桔平)の意図を知り、藍沢は再び悩むことになる。
実際こんな風に無理やり蘇生することはあるの?
この治療で少年の心臓が再び動きだすことはあるの?
と、この描写のリアリティがどのくらいのものなのか、疑問に思った方は多いのではないかと思う。
藍沢が無理やり救命したこの少年は、確かに本来はここまでの蘇生処置の適応はないと言える。
発見時に心肺停止からどのくらい時間が経過したかわからず、しかも心肺蘇生に反応せず心静止が続いた状態で、救命できる可能性はほとんどない。
これは藍沢が橘とのちに振り返った通りだ。
心電図波形や心肺停止が救命できる条件についてはこちらで解説しています
救急医が救えない命とどう立ち向かうべきなのかを問う、第1話のもう一つの症例である。
では藍沢らの処置によって、結果的に心拍が再開した今回のドラマの描写は、完全に非現実的なのか?
というと、実はそうでもない。
なぜなら今回は「低体温症」が存在したからである。
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低体温症とは?
低体温症とは、体温が35℃以下に下がることを言う。
今回のように、冷たい水の中で意識障害を起こした場合や、雪山などで遭難したケースで起こる救急疾患だ。
体温が33℃を下回ると心電図波形に変化が現れはじめ、30℃を切ると心室細動など致死的な不整脈が起こる。
さらに下がると最終的に心臓は完全に動きを止めてしまう。
今回の少年も、発見時の体温は26℃。
つまり心停止の主因が低体温なら、復温するだけで心拍が再開する可能性があるわけだ。
実際私たち医師は、低体温の患者さんに死亡確認をしてはいけないことになっている。
死亡確認をするには、体温が30〜32℃を超えていることが要件だ。
体温を上げることで心臓が動きだす可能性がある以上、本当に死亡しているかの判断が適切にできないからである。
さらに、低体温は脳保護作用があるとされている。
体温が非常に低く、対光反射がなくなっていても、永続的な脳障害を起こさず復温された例がまれだが存在する。
また、まだ一般的とは言えないが、損傷を受けた脳に対して体温を32〜34℃にあえて下げる脳低温療法という治療もある。
今回の症例でも、長時間低体温にさらされていたことは、低酸素血症による脳障害を抑制することができる点で少年にとっては有利だったと言える。
また、重度の低体温症の復温方法として、胸腔内(胸の空間)に太い管を挿入し温水を灌流するという方法がある。
私自身もこの方法を経験したことはある。
今回のケースではすでに少年は開胸された状態だったため、そのまま温水につけるという形になったが、藍沢はこの復温方法が頭にあったからこそ、この手法をとったわけだ。
もちろんそれで仮に救命できたとしても意識が戻る可能性はきわめて低いことに変わりはない。
今回も、結局少年の意識は最後まで戻らないし、奇跡は起こらない。
しかし今回の藍沢らフェロー達の処置は、ただ無我夢中で理想を追い求めたのではない。
それなりの根拠があって行われたということである。
この辺り、リアルとエンターテイメントのギリギリを攻めるコードブルーらしい展開だと言って良いだろう。
というわけで、次回が楽しみになる上々の滑り出し。
第2話以降も引き続き解説をお楽しみに!
第2話の解説はこちら!