解説その2はこちら!
(以下ネタバレあり)
藍沢(山下智久)と藤川(浅利陽介)が車両内で患者の処置を行う間、緋山(戸田恵梨香)は車両外で患者のトリアージに勤しんでいた。
しかし車両が突然揺れ、上にいた緋山がうつ伏せに転落。
そのまま意識を失ってしまう。
現場治療と患者の搬送が終わり、病院へ引き上げる段になって緋山がいないことに気づいたスタッフたち。
緋山への電話もつながらず、心配する藍沢の元に緋山のPHSを使って黒田(柳葉敏郎)から電話が入る。
何と心肺停止状態の緋山に黒田が蘇生処置を行なっているという。
現場に急行したスタッフらがすぐに加勢。
緋山は車両からの転落による胸部打撲で心タンポナーデを起こしていた。
「どのくらい心停止を?」
との藍沢の質問に、
「わからん、俺も1分前に来た」
黒田が発見時、すでに緋山は心肺停止であったという。
心のう穿刺によってかろうじて心拍が再開したところで翔北に搬送。
緊急手術を受けることとなる。
心臓は右心耳や左房にかけてひどく損傷しており、なんとか修復に成功するも、長時間の心肺停止による低酸素脳症が重度なら緋山の意識が戻ることはない。
「脳の方は意識が戻らないことには何とも言えないようです」
とうなだれる白石(新垣結衣)。
完全回復は絶望的なのか。
しかし緋山の父親も見守る中、無事に意識は回復。
父親と久しぶりに再開した緋山の喜ぶ顔を見て、藍沢らは安堵の色を見せる。
緋山に起こったのは、外傷性心破裂とそれによる心タンポナーデ。
(心タンポナーデについては「コードブルー1st 最終回 解説①|藤川の活躍、コンパートメント症候群と減張切開」参照)
発見時はすでに心肺停止状態であった。
緋山は結果的にこの状態から現場に復帰するまでのほぼ完全な回復を見せる(不整脈に悩まされることにはなるが)。
緋山を救えた決め手は何だったのか?
今回はコードブルースペシャル解説記事の最終編。
翔北のスタッフたちが緋山を心肺停止からどのように救ったのか、徹底分析していこう。
心肺停止の予後、最もカッコ良かった黒田
心肺停止のことを、英語でcardiopulmonary arrestと言う。
私たちはこれを略して「CPA」と言ったり、最後のarrestだけをとって「アレスト」と言ったりする。
コードブルーでは「アレスト」の方を使うことが多い。
心肺停止の患者さんを見た時、私たちはまず以下のことを考える。
・CPAタイムはどのくらいか?
・目撃ありCPAか?
・バイスタンダーCPRはあったか?
まず最も大切な「CPA タイム」は、心肺停止になってからどのくらいの時間が経過したか、ということ。
心肺停止によって脳が低酸素状態になると、3〜5分で脳に修復不能なダメージが生じ始める。
こうなると心臓が元どおり正常に動いても、一度ダメージを負った脳が二度と元に戻ることはない。
永久に意識は戻らないということだ。
CPAタイムが長ければ長いほど意識の回復は絶望的、ということになる。
今回の緋山のケースでも、藍沢が初めて緋山に接触した時の第一声は、
「どのくらい心停止を?」
であり、搬送中に院内から電話で森本も、
「心停止してた時間は?」
とまず質問する。
とにかくCPAタイムが気になる様子がよくわかるだろう。
そして「目撃ありCPA」とは「目の前で人が倒れた」というケース、「目撃なしCPA」は「倒れているところを発見された」というケースだ。
これら2つのケースには、CPA タイムが正確にわかるかわからないか、という大きな違いがある。
今回の緋山のケースは「目撃なしCPA」、したがって「CPAタイム」は不明。
黒田が接触時すでに緋山はCPAだったからだ。
その時点でまず黒田を含め現場のスタッフらは「救命は絶望的」と思ったはず。
だが、心のう穿刺後すぐに心拍が再開したことは、黒田が接触する直前まで心臓が動いていた可能性を示唆する展開である。
つまり、CPAタイムはきわめて短いかもしれないということ。
長時間CPA後の心臓が心のう穿刺くらいで再び動き始めるとは考えにくいからだ。
最後に、もし最初に接触した人が今回のように医療者でなかったら?
街中で人が倒れた(あるいは倒れていた)場合の大半のケースがそうである。
この場合、「バイスタンダーCPR」があったかなかったかが非常に重要になる。
「バイスタンダー」とは直訳すると「通りがかりの人」。
「CPR」は「心肺蘇生処置」のこと。
つまり、発見者が救急隊に引き継ぐまでに心臓マッサージ(胸骨圧迫)をしたかどうか、ということである。
これがあれば生存確率は格段にアップする。
胸骨圧迫の目的は、止まった心臓を外から繰り返し圧迫することで、心臓のポンプ機能を代替すること。
適切な胸骨圧迫で、正常の30-40%の血液を心臓から拍出することができる。
これによって、医療者に引き継ぐまでのあいだ、脳への血流がかろうじて保たれることになる。
「バイスタンダーCPRなしのCPA」つまり、救急隊が到着するまで発見者が単に様子を見ていた、というケースだと、同じCPAタイムでも救命の可能性はかなり低くなってしまう。
今回のケースでは、藍沢らが緋山のもとに到着したとき黒田はかろうじて使える左腕一本で懸命に胸骨圧迫をしていた。
藍沢らが到着するまでのこの1分間が緋山の運命を左右した可能性が高い。
右手を失ってもなお救急医の鑑であり続けた黒田は、最後までカッコ良かったのである。
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緋山が振り返ったトリアージ失敗
緋山は無事に回復したあと、列車事故現場でのことを振り返って、部長の田所(児玉清)にこう言う。
「トリアージ失敗して怒られました・・・黒田先生に」
実は緋山は現場でのトリアージの際、
「ブランチテスト1秒だった。黄色です!」
と言い、緊急搬送が必要な「赤」ではないと判断した患者が、黒田の診察で心筋梗塞であると分かり、
「大災害のときは心筋梗塞が増える」
「START法はトリアージの一つの方法にすぎん。そこに頼りすぎるな!」
と黒田に叱られたのである。
3rd SEASONでも一度解説したが、このSTART法トリアージについておさらいしておこう。
(コードブルー3 第7話 感想|医者が患者に言ってはならない言葉参照)
START法トリアージとは、歩行の可否や呼吸状態、循環、意識レベルなどを順に観察し、重症度を4段階で評価すること。
重症度に応じて緑、黄、赤、黒の4色のタグのうち一つを患者さんにつけていく。
これがあれば一見しただけで誰が重症で誰が軽症かが判断でき、搬送すべき優先順位の判断がしやすくなる。
それぞれの色の意味は以下の通り。
黒:死亡または救命不可能のため、搬送、治療しない。
赤:生命に関わる重症患者のため、最優先で搬送、治療する。
黄:生命に危険は及んでいないが、治療は必要な状態。
緑:軽症であるため搬送、治療の必要なし。
このトリアージは、大規模災害で多数の外傷患者が発生したケースが想定されている。
ところが、災害による直接の外傷がなくても、それによるストレスや運動負荷によって持病が悪化したり、別の内科疾患を発症する人がいる。
今回の黒田が指摘した心筋梗塞はその典型例だ。
ブランチテストとは、爪を押さえて白くした後「どのくらい素早く赤みが戻ってくるか」を見る試験。
みなさんもやってもらえばわかると思うが、健康であれば1秒もかからないうちにすぐ赤みが戻る。
血圧が低くなると指先の(末梢の)血流が落ちるため、この赤みが戻ってくるまでの時間が長くなる。
この時間が2秒以上なら「循環に問題あり」=「赤」として緊急搬送が必要と判断する。
緋山は、これが2秒未満だったから「循環に関しては問題ない」と判断して「黄」にしたわけだ。
しかし心筋梗塞は、ブランチテストに影響が出るほど循環がやられる以前に治療を開始しなければ危険な病気。
もし緋山がこの患者さんに一般の外来で出会っていたら、心筋梗塞のリスクや胸痛の性質をしっかり問診し、胸部の診察を念入りに行ったはず。
災害現場でのトリアージのアルゴリズムにこだわる余り、患者さんの診察の基本をおろそかにしてしまったことを黒田から叱られたのである。
この反省が生かせるのも命あってこそ。
緋山は無事現場に復帰し、この失敗をバネに2nd SEASONでの活躍に繋げていく。
というわけで次回からは、2nd SEASONの解説に入っていきたいと思う。