下痢は様々な原因で起こる症状です。
一時的な下痢(急性下痢)の原因としては、食べ過ぎ・飲みすぎ、辛い食べ物の摂取やストレス、冷えなどがあります。
「牛乳を飲むと必ず下痢をする」という「乳糖不耐症」(乳糖を分解する酵素を生まれつき持っていない)による急性下痢もあります。
これらは一時的なもので、長くても1〜3日以内に治まることが多く、心配はいりません。
一方、長い期間続く、止まらない下痢や、発熱を伴う下痢は要注意です。
自己判断で安易に下痢止めなどの市販薬で対応せず、病院で診察を受けるようにしましょう。
下痢が続く、止まらない、という場合にチェックすべきポイントは5つあります。
これからわかりやすく解説します。
なお、下痢に腹痛や吐き気、嘔吐を伴うときは、受診前に腹痛のページ、吐き気・嘔吐のページも参照してください。
※症状だけで病気を診断することはできません。必ず医師の診察を受けましょう。
目次
1. どんな性状ですか?
■軟便
■水のような下痢
■血が混じった下痢
本人が「下痢」と思っていても、実際には柔らかめの便(軟便)で、病的な意義はないことがよくあります。
注意すべきなのは、水様性下痢(水のような下痢)や血性下痢(血液の混じった下痢)です。
まず自分の便を確認してみましょう。
水様性下痢が続く時
水のような下痢が続く時に最も可能性が高いのは感染性胃腸炎です。
一方、頻度は高くなくても要注意なのが、過敏性腸症候群や、薬の副作用が原因の下痢です。
感染性胃腸炎
摂取した食べ物に病原体や毒素が含まれていて、これが原因で急性胃腸炎を起こしたケースです。
ほとんどは原因のはっきりしないウイルス性下痢です。
通称「お腹の風邪」と呼び、たいてい何ウイルスかを知ることもできず原因不明ですが、数日間下痢が続いて自然に治ります。
特効薬はありませんので、しっかり水分と消化の良い食事を摂り「嵐が過ぎ去るのを待つ」しかありません。
これらの感染性腸炎の典型的な症状は、下痢に加えて、発熱、吐き気、嘔吐です。
ただし、高齢者では熱が出ない、あるいは軽い微熱、ということもあります。
一方、カンピロバクターやサルモネラ、腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌などの細菌や、ノロウイルスのようなウイルスが原因の食中毒、というケースもあります。
潜伏期間は数時間から数日で、病原体により様々です(詳細は後述)。
こうした感染性胃腸炎では、水のような下痢に血液が混じる(血便)こともあります。
対応は上記のものと同じですが、症状がひどい場合は病院に行くことをおすすめします(具体的な目安は後述)。
こちらの記事もご参照ください
過敏性腸症候群(IBS)
下痢や腹痛、お腹の張りなどの症状が続いてるのに、検査では異常がない、という腸の病気です。
会議中や授業中にいつもお腹が痛くなる
通学や通勤の途中にいつも便意を催す
といった症状を持っている方が多く、不規則な生活や精神的なストレスが原因とされています。
下痢だけでなく、慢性的な便秘を起こしたり、便秘と下痢を繰り返す、というパターンもあります。
専門的な治療が必要なため、該当する方は必ず医師の診察を受けましょう。
薬の副作用
下痢が始まった時期に一致して、新しい薬を内服し初めていないか確認しましょう。
最も多いのは、抗生物質(抗菌薬、抗生剤)による下痢です。
抗生物質は副作用として下痢を起こすことがよくあります。
抗生物質を飲み始めてから下痢が始まった、というケースでは、抗生物質をやめるだけで下痢が治ることはしばしばあります。
他にも、鎮痛薬やステロイド、一部の抗がん剤、漢方薬やサプリメントが原因になることもあります。
血液の混じった下痢が出ている時
血性下痢(血液の混じった下痢)が出ている時に注意すべきなのは、虚血性腸炎や、クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患です。
また、大腸がんなどの悪性腫瘍が原因のこともあります。
虚血性腸炎
虚血性腸炎は、大腸に向かう血管が細くなり、血流が悪くなって生じる腸炎です。
血管が細くなる理由は動脈硬化です。
糖尿病や高血圧、脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高い)、喫煙といったリスクを持つ方に多い傾向があります。
50歳以上の高齢者に多く、若い人に起こることはまれです。
突然の腹痛を伴い、そのあと血が混じった下痢が出る、というのが典型的です。
入院が必要ですが、多くは絶食にして腸を休めることで1週間以内に自然に治ります。
ただし重度の場合は手術が必要となることもあります。
炎症性腸疾患
クローン病や潰瘍性大腸炎などを含む、免疫系の異常によって慢性的な腸の炎症を起こす疾患です。
20〜30代を中心とした若い年代の人に多い病気です。
精密検査と専門的な治療が必要です。
なお、潰瘍性大腸炎は粘液性の血便(粘血便)が出ることが多いですが、クローン病は便に血液が混じることはむしろ少なく、水のような下痢が続くケースが多いのが特徴です。
大腸がん
頻度は低いですが、大腸がんなど悪性腫瘍が原因で血性下痢が出ることがあります。
こちらの記事をご参照ください。
2. 何回下痢していますか?
■10回以上
■5回以下
下痢が続いていて病院に来られた方に私たちは必ず、下痢の回数を尋ねます。
原因に関わらず、多量の下痢は脱水の原因となるためです。
吐き気や嘔吐があって水分が摂れず、下痢で多量の水分が失われているケースでは点滴が必要です。
いつ頃から1日何回くらい下痢が出ているか確認しましょう。
合計10回を超えるような下痢が出ている時は要注意です。
前述の通り、最も多い感染性胃腸炎では自然に治るケースがほとんどですが、水分が十分に摂れない、という方は必ず病院に行き、その旨を伝えましょう。
3. 摂取したものに心当たりはありませんか?
■ある(過去1〜2週間の範囲までさかのぼって)
■ない
前述の通り、下痢の原因として最も多いのは感染性胃腸炎ですが、その原因は食べたものにあります。
摂取したもので確認すべきなのは、生魚、生肉、生卵などです。
カンピロバクターや病原性大腸菌など、発症まで1週間以上かかるものもあるので、過去2週間近くまでさかのぼって記憶をたどってみてください。
(潜伏期間は、サルモネラは6時間〜2日、腸炎ビブリオは6〜20時間。ブドウ球菌は3時間程度と最短)
私たち医師は必ず食べたものについて患者さんに尋ねます。
病院に行く時は、「◯◯を◯日前に食べた」と正確に説明できるよう思い出しておきましょう。
また前述の通り薬剤が原因で下痢をする場合もあります。
最近新しい薬を始めていないか(漢方やサプリメントなど含めて)一度確認してみてください。
4. 周囲に同じ症状の人はいませんか?
■いる
■いない
感染性胃腸炎の場合は、
家族の中に同じ症状の人がいる
施設入所中の高齢者なら施設で流行している
子どもなら幼稚園や学校で流行している
といったケースがよくあります。
子供の下痢便や嘔吐したものを掃除した大人が感染することもしばしばあります。
周囲に同じ症状の人がいれば、感染性胃腸炎である可能性が高くなります。
5. 最近海外に行きましたか?
■海外に行った
■海外には長い間行っていない
海外旅行帰りの方の下痢は、要注意です。
旅行者感染症の可能性があるためです。
海外、特に発展途上国では、日本では流行していないような特殊な病原体に感染することがあります。
ジアルジア症(ランブル鞭毛虫症)やアメーバ赤痢といった寄生虫が原因ということもあります。
帰国してから下痢がおさまらない、という場合は注意が必要です。
中には潜伏期間が3週間以上と長い感染症もあります。
(少なくとも帰国後6ヶ月の間は旅行関連の感染症が生じる可能性があると考えます)
比較的長い期間を振り返って、海外渡航歴がなかったか思い出してください。
該当する方は、病院で必ずそのことを説明するようにしましょう。
「下痢」受診前チェックリスト
1. どんな性状ですか?
軟便
水のような下痢
血が混じった下痢
2. 何回下痢していますか?
10回以上
5〜9回
4回以下
3. 摂取したものに心当たりはありませんか?
ある ない
4. 周囲に同じ症状の人はいませんか?
いる いない
5. 最近海外に行きましたか?
行った 行っていない
※スクリーンショットなどで受診時にお使いください。PCの方:Windowsの方はPrint Screenボタン、Macの方はshift + command (⌘) + 3でスクリーンショットできます。
他の症状をチェックする場合は以下の記事へ
病院で症状をうまく医師に説明する方法/13の症状とチェックリスト