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ラジエーションハウス第9話 感想&解説|バリウム検査とスキルス胃がんの診断

ラジエーションハウス第9話で最も印象的だったのは、技師長の小野寺(遠藤憲一)の、

「バリウムの二重造影は技師の腕の見せ所だ」

というセリフです。

 

胃の造影検査(「胃透視」とも呼ぶ)は、放射線技師の高い技術が求められる代表的な検査の一つです。

「二重造影」とは、胃内にバリウムを入れた後に空気を入れ、造影剤と空気のコントラストを見る手技のことです(「二重」とは「造影剤」と「空気」を指します)。

 

では、バリウムによる胃造影検査は、胃がんの検査においてどのような位置付けなのでしょうか?

いつものように、現実とフィクションの境界を知っていただくことを目的に、簡単に解説してみましょう。

 

胃造影検査の実際

スキャンダルから逃れるため、甘春病院に極秘入院することになった大物政治家の安野将司(中村梅雀)。

整形外科の辻村(鈴木伸之)は、麗洋大学病院教授である父の指示で、安野の主治医になります。

辻村は、検査入院という名目上、検診目的で安野に様々な検査を施行。

その結果、胃造影検査でスキルス胃癌が発見されます

 

1ヶ月前に麗洋大学病院の人間ドックで内視鏡検査(胃カメラ)を受け、「異常なし」と診断されていたはずでした。

疑問を呈した安野に放射線科部長の鏑木(浅野和之)は、

「ほとんどの胃癌は内視鏡で見つけられるんですが、まれにそうでないものもあるんです」

と説明しました。

 

胃がんの検診に有用な検査は2種類あります。

「胃カメラ(胃内視鏡検査)」「バリウムによる胃造影検査(胃X線検査)」です。

市町村が行う胃がん検診では、この2種類から好きな方を選ぶことになっているため、それぞれの利点・欠点を押さえておくことが大切です

このサイトでも、以下の記事でまとめています。

胃がん検診で早期発見!胃カメラかバリウムどっちを選ぶべき?

 

胃造影検査と比較すると、胃カメラはごく小さな病変を見つけられる可能性が高いのが利点の一つです。

胃造影検査は、造影剤を胃内に入れ(患者さんに飲み込んでもらい)、X線撮影で胃を観察する、というもので、いわば「影絵」を見ているようなものです。

よって小さな病変の診断能では、直接的に病変を観察できる胃カメラに軍配が上がります。

鏑木の説明にあった、

「ほとんどの胃癌は内視鏡で見つけられる」

というセリフはそういう意味ですね。

 

一方で、胃造影検査の方にも利点があります。

「スキルス」と呼ばれるタイプの胃がんを見つけやすいことがある点です。

 

スキルス胃がんの診断の難しさ

一般的に、多くの胃がんは胃の粘膜の細胞が1箇所で無秩序に増殖し、塊を作ります

ところが、がんが一つの塊を作らず、胃の粘膜の下をがん細胞が這うように広がり、胃の壁全体が硬くなるタイプがあります。

これが「スキルス胃がん」です。

「スキルス」とは、「硬い」という意味ですね。

 

内視鏡検査では、胃の表面を近い距離で観察できるのが利点ですが、胃の袋全体のやわらかさや膨らみ、動きなど、全体像を観察するのは胃造影検査の方が得意です。

鏑木の説明にあった、

「まれにそうではない(内視鏡では見つけられない)ものもあるんです」

というセリフは、スキルス胃がんを診断するには胃造影検査より胃カメラの方が難しいこともある、という点を指して言っているのですね。

 

ドラマ中では、

「麗洋大病院が見落とした胃癌を見つけた」

という説明がありましたが、

それぞれの検査には得手・不得手がある

どれほど優れた検査でも100%病気を発見できるわけではない

という点を踏まえれば、「見落とし」というより「やむを得ない検査の限界」と言えるでしょう。

 

ちなみにスキルス胃がんは、胃の壁の中を広がるように進行するため、胃の壁をつき破ってがん細胞が胃の外にこぼれ落ちるリスクが高くなります。

こうして、がん細胞がお腹の中で種をまいたように広がることを「腹膜播種(はしゅ)」と呼びます。

「播種」とは「種を播く(まく)」という意味ですね。

 

播種は、一つ一つの病変が非常に小さく、術前のCTなどの画像検査では見つけられないことが未だにあります

手術中にお腹を開いて初めて腹膜播種が発見され、「手術不能」となる、というケースは、今でもまれに存在します。

「白い巨塔」や「ドクターX」など、医療ドラマではこういうシーンは定番ですね。

なぜ腹膜播種があるだけで「手術不能」なのか、という点については以下の記事をご覧ください。

ステージ4の胃がんや大腸がんはなぜ手術できないのか?

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大学病院と市中病院の関係

整形外科の辻村(鈴木伸之)は、有名大学病院の教授である父の期待に応えられず、地域の市中病院で勤務する自分にコンプレックスを持っていました

今回、安野の疾患を発見できたことで父から見直され、麗洋大医局への入局を許可されます。

しかし、安野の胃がんを見抜くきっかけをくれたのは、甘春総合病院の放射線技師たち。

辻村は、「大学病院は市中病院より上」という先入観にとらわれていた自分を反省し、入局を断ることになります

また同時に「医師は技師よりも上」と考えていた過去を自省的に振り返ることにもなりました。

 

ドラマはこの経緯を、「5万円を超える高価なボールペン」と「50円で買える格安なボールペン」にたとえ、

「その本来の価値は『何を書くか』」である

と締めめくります。

甘春も、

「大事なのは立場とか場所とかではなく『何をするか』ではないか」

と言っていましたね。

 

大学病院と市中病院は、地域における「役割の違い」こそあれ、医療の質が「どちらが上」というものではありません

それぞれが得意分野を生かしつつ上手に分業していると言ってよいでしょう。

もし医療の質そのものが異なるのなら、それは患者さんにとって大きな不利益になってしまいます。

 

また、「医師と医師以外の職種での分業」も同じでしょう。

現在医療は多様化し、さまざまな職種のスタッフが分業しなければ医療は成り立たなくなっています

職種間に上下関係などなく、フラットな関係が求められますし、それが患者さんにとって最もプラスでしょう。

 

医療ドラマでは、「大学病院の権威性」「医師の他職種に対する優位性」のようなものを、「前提」あるいは「周知の事実」として、それを批判的に描く、という描写をよく見ます。

しかし、こうした状況はもはや「前提」ですらない、と感じる医療者はきっと多いだろうと思います。

 

さて、ラジエーションハウスでは毎回、現実でも重要な疾患や検査が多数出てきます。

今回に関しても、胃がんの検査やスキルス胃がんを知る上では重要なストーリーだったと思います。

ぜひ、以下の記事をご参照の上、知識を整理してみてください。

スキルス胃がんとは何か?特別な手術や抗がん剤治療は必要? ステージ4の胃がんや大腸がんはなぜ手術できないのか? 胃がん検診で早期発見!胃カメラかバリウムどっちを選ぶべき?