『すばらしい人体』シリーズ累計24万部

外科医以外に手術に必須の4種類の医師たち|医療ドラマでは描かれない真実6

私たち外科医にとって幸せな瞬間は、手術をした患者さんやそのご家族から「ありがとう」と言われる時です。

私自身も全身麻酔手術を受けた経験があるのですが、何時間も眠っている間に自分の体にメスを入れてくれた外科医には、やはり特別な思いを抱きました。

外科医は、患者さんの感謝の気持ちを「チームの最前線」で受け止めることのできる幸せな仕事だと思います。

 

さて、あえて「チームの最前線」と書いたのは、手術は外科医だけで成り立つものではなく、チームによる総力戦だからです。

あくまで、外科医は患者さんから最も見えやすい位置にいる存在です。

 

では、みなさんがもし手術を受けるとしたら、他にどんなスタッフが関わることになるのでしょうか?

医師以外の職種については以前の記事でも紹介したので、今回は「医師」に限定して書きます。

 

ここでは、外科治療に必要とされる外科医以外の4タイプの医師を挙げてみます。

手術の種類にもよりますが、今回は具体例として、今日本人に最も多いがんである大腸がんの手術を見てみます。

 

内科医

外科医が手術を行うためには、「手術が必要な病気である」という診断が必要です。

ここで重要な役割を担うのが、内科医です。

 

例えば大腸がんなら消化器領域ですから、対応する内科医は「消化器内科医」ですね。

消化器内科医が大腸カメラ(下部消化管内視鏡検査)を行い、大腸がんを確認し、その腫瘍の位置や大きさなどを調べます。

その後、外科(消化器外科)に紹介し、手術の準備を始める、という流れが一般的です。

CTやMRI、腹部超音波検査などの画像検査を行ってから紹介するケースもあります(※病院によっては外科医が大腸カメラを行うところも一部あります)。

 

ちなみに、

循環器領域なら心臓血管外科医と循環器内科医

呼吸器領域なら呼吸器外科医と呼吸器内科医

神経領域なら脳神経外科医と神経内科医(脳神経内科医)

というように、外科と内科に分かれている領域なら、それぞれに対応する診療科があります。

 

一方、整形外科、泌尿器科、耳鼻咽喉科、眼科などのように、外科と内科が分かれていない領域もあります。

診断から治療まで、全ての過程を一つの科で担う領域ですね。

これについては、以下の記事で詳しく説明しています。

あなたの病気、何科に行くべき?各科の専門領域、外科と内科の違い

 

話を戻しましょう。

消化器内科医がいくらカメラで腫瘍をじっくり眺めても、外観だけで本当に大腸がんであるかどうかを確定することはできません。

がん細胞は目には見えないくらい小さいので、「そこに本当にがん細胞がいるのか」は、肉眼では分からないからです。

そこで重要になるのが、病理検査です。

 

病理医

大腸がんを疑うような腫瘍を発見した消化器内科医は、大腸カメラを使って腫瘍の一部をつまみ取ります。

これを病理検査に提出。

病理医が、この組織をさまざまな工程で処理し、顕微鏡で観察します。

これによって、がん細胞の存在や性質などを確認し、その結果をレポートにして内科医に伝えます。

内科医はここで「大腸がんである」と診断を確定させることができます。

この検査を「生検」と呼びます。

 

加えて、手術後にも病理医の力が必要です。

大腸がんの手術では、腫瘍を含む大腸を部分的に切除しますが、これも病理検査に提出します。

 

がんの治療では、この病理検査によってステージ(進行度)を確定させることが大切です。

どのくらい進行しているかによって、治療や予後(簡単に言えば「生存期間」や「再発の確率」など)が変わってくるからです。

ちなみに大腸がんでは、ステージ3以上の進行度なら、術後に補助化学療法と呼ばれる抗がん剤治療を行うことが推奨されます。

再発リスクが高いため、再発を予防する必要があるからです。

 

生検でがんの一部を顕微鏡で観察することはできますが、がん全体を細かく調べることはできません。

がんが大腸の壁をどのくらい深く潜り込んでいるのか、周囲のリンパ節にどのくらい転移しているのか、などは、腫瘍を全て切除してしまわない限り、調べることができません。

つまり、術前にはステージを確定させることができないのです。

 

術前にステージ2だと予想していた患者さんが、術後の病理検査の結果、ステージ3だった、と判明することもよくあります。

外科医は術前に患者さんに、

「今の進行度はあくまで予想です。術後に『思っていたより進んでいた』『思っていたより軽かった』ということもよくあります。」

と説明します。

 

この最終的なステージ診断を確定させてくれるのが病理医です。

ちなみに、この診断によって確定するステージを「病理学的進行度」と呼びます。

患者さんの術後の人生を左右する、極めて重要な情報です。

 

放射線診断医

さて、時間軸を再び術前に戻します。

術前には、CTやMRIのような画像検査は必須です。

大腸カメラで見えるのは大腸の管の中だけです。

がんが大腸の壁に深く潜り込んでいて、壁の外まで飛び出しているかもしれません。

がんは管の外のリンパ節にも転移するため、手術ではこれも一緒に切除する必要があります。

 

そこで、CTやMRIなどを使って外から写真を撮る必要があります。

これによって、腫瘍がどのくらい広がっているかが分かるのです。

場合によっては、肝臓や肺のような他の臓器に転移を起こしている様子が写真に写るかもしれません。

これは、治療方針に関わる重要な情報です。

 

こうした画像診断を行うのが、放射線診断医です。

術前の画像検査の結果を放射線診断医が確認してレポートにし、内科医あるいは外科医がそれを確認します。

その結果を踏まえて、どんな治療が必要かを検討することになります。

 

このように、治療方針を決めるためには、術前の時点である程度ステージの見当をつける必要があります。

この段階のステージのことを、「臨床(的)進行度」と呼びます。

臨床進行度の決定には、放射線診断医の診断が大きな役割を果たすのです。

広告

 

麻酔科医

さて、最後に紹介するのは麻酔科医です。

外科医が安全に全身麻酔の手術を行うためには、

・患者さんが深く眠っていること(鎮静)

・患者さんが痛みを感じないこと(鎮痛)

・患者さんが動かないこと(筋弛緩)

の3つの条件が必ず満たされる必要があります。

様々な薬や医療機器を使い、この「不自然な状態」を何時間も維持してくれるのが麻酔科医です。

 

しばしば10時間や20時間を超えるような長い手術もあります。

外科医は、手術が終わった後患者さんのご家族から、

「長い間お疲れ様でした、ありがとうございました」

と言っていただけますが、患者さんが麻酔科医に直接お礼を言う機会はあまりありません。

(麻酔科医による術後回診がありますが、手術からまだ日が浅く、患者さんもそれどころではないということが多い)

まさに「縁の下の力持ち」と言えるでしょう。

 

このように、外科治療においては、手術を行う外科医以外にも複数の医師たちの存在が必須です。

こうした医師たちのことも知っておいていただけるとありがたいと思います。

注意
治療の流れは施設ごとの慣習によって異なります。本記事は一例としてお考えください。

 

「医療ドラマでは描かれない真実」シリーズはこちらから。

緊急手術の前に外科医がやること|医療ドラマで描かれない真実1