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コードブルー3の医療器具/用語を医師が全て解説|第6話までを振り返って

引き続き、みなさんの質問にお答えするコーナー。

今回は次の質問にお答えしたいと思います。

遮断鉗子サテンスキーなるハサミのようなもので、一体なにをしているのでしょうか?

文脈からですと、血管を結紮する?ような処置だと思うのですが。

第六回、冷凍庫の処置シーンでは、若者フェロー氏が、プラスティックで出来ている細いチューブで太い血管を縛り、それを結紮するのにサテンスキーを使っていたように拝見しました。

あのハサミのような器具を、カチッと締めるシーンがよく象徴的に出てくる(止血成功の証?)のですが、そんなにカチッとやって、血管は破れないものなのでしょうか?

あと、カチッとやった後はどうするんでしょう?

ぶらぶらハサミを下げて次の処置に移ったり、搬送したりするんでしょうか。

by ピスタチオさん

ご質問ありがとうございます。

今回は、これまでの第1話から第6話までを振り返りながら、ドラマのシーンでどんな風に道具を使っていたかを順に解説します。

コードブルーが、いかにリアリティにこだわって作られているか、その細かさにきっと誰もが感動すると思います

 

カチッという音の正体は?

まず、いつも「カチッ」と音を立てて締めている道具には、「鉗子(かんし)」という総称があります。

サテンスキー鉗子は、数ある鉗子の中の一つです。

見た目はハサミに似ていますが、ハサミとは目的が異なります。

ハサミは何かを切るための道具ですから、スムーズに開けたり閉じたりできる必要があります。

一方鉗子は、何かをはさんでおく、つかんでおくためのものなので、一度カチッと閉じるとそう簡単には開けられないようになっています

下の写真をみてください。

閉じるときに、両方にあるこのギザギザが噛み込むように締まります。

ここで「カチカチカチ」という音がします。

この部分のことを「ラチェット」と言います。

一度閉じると、少しずらして開かないと左右に引っ張っただけでは開きません

 

ピスタチオさんの言う「止血成功の証」とは非常に鋭い着眼点です。

目的は止血に限りませんが、鉗子は「カチッ」と音を立てて閉めるのがマナーです。

周りの人に対して「ラチェットをかけましたよ」というサインです。

相手はこの音で「いま周囲を触っても簡単に外れることはないな」と認識することができます。

鉗子はゆっくりジワっと閉じると、音を立てずにラチェットがかけられます。

しかしこれをやると、ラチェットがかかったのか、かけずにつかんでいるだけなのかが相手にわかりません

ラチェット部分は手元で隠れて目では見えませんからね。

私は昔、ゆっくり閉じて音が鳴らなかった時に上司から

「音を立てなさい。音を立てずに閉まってしまったら口でカチカチと言いなさい」

と言われたことがあります。

半分は冗談ですが、そのくらい外科手技の中では大切なマナーです。

 

ちなみに、ピスタチオさんが書いている「結紮(けっさつ)」とは、血管などを細い糸でギュッと縛ってしまうことです。

基本的には、ほどく予定のない、切るつもりの血管に行います。

一方、一時的に血流を止めてあとで解放したい場合は「遮断(しゃだん)」を行います。

私たちは英語で「クランプ」とよく言います。

この場合は、切ってはいけない、切るつもりのない血管を傷つけずに遮断できる道具が必要です。

この際、太い血管などを遮断する時によく使うのがサテンスキー鉗子(遮断鉗子の一種)です。

(「サテンスキー血管鉗子が止血に有効だった舌切断の1例」日外傷会誌29(1),2015より引用させていただきました)

先端が少し曲がったあと長く伸びています。

太くて丈夫な血管などを優しく挟んで遮断することができます。

 

ではここから、これまでの放送を簡単に振り返りながら、順に見ていくことにしましょう。

 

冴島が無言で渡したサテンスキー(第1話)

第1話ではまだ、藍沢(山下智久)は救急部に戻って来ていませんでした。

そんな中、白石(新垣結衣)が、慣れない若手と腹部の大出血が起こっている患者さんの手術に入る場面がありましたね。

どこから出血しているかがわからず難渋しているところへ、突然藍沢がやってきてスッとお腹の中に手を入れます

すると出血点がわかる、という藍沢のかっこいいシーンです。

このとき白石が、

「OK、見つけた!右の総腸骨静脈からだ」

と言うのとほぼ同時に冴島(比嘉愛未)がサッと無言でサテンスキー鉗子を渡します

その間のタイムラグはほぼゼロ、白石は術野から目を離しません。

ここは一見すると藍沢がかっこいいシーンですが、実は、道具の名前も告げられていないのに即座にサテンスキーを渡せる冴島がすごいところです

総腸骨静脈は下腹部を走る非常に大きな静脈で、切ることはできません。

一時的な止血のためにサテンスキーで遮断するという方針を、冴島は術野を見て予測していたということです。

その後、傷ついた部分を縫合するなりして修復したはずです。

 

横峯の胸腔ドレーン挿入(第2話)

第2話で、横峯(新木優子)がICU(集中治療室)の患者さんの胸に管を入れる処置(胸腔ドレーン留置)を練習しているシーンがありました。

うまくいかず、ICUで藍沢に厳しく怒られ、その後は練習用のマネキンで動画を見ながらトレーニングしていましたね。

その際に使っていた鉗子はケリーです。

「剥離鉗子(はくりかんし)」とも言います。

写真の一番右がケリーです。

ケリーは長くて、先端が軽く曲がって細くなっています

横峯はこのシーンで、ケリーの先端で管をつかみ、胸の空間の中に管を入れようとしています。

幸い練習の成果が実って、横峯はその後、ドクターヘリの中で緊張性気胸の患者さんの胸腔ドレーン挿入を成功させていましたね。

ちなみに真ん中は布鉗子(オイフ鉗子)、一番左はコッヘルです。

いずれも手術で非常によく使う鉗子です。

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ダメージコントロールの手術シーン(第3話)

シアン中毒で運び込まれた患者さんが、病院内で2度目の自殺を図って病室から飛び降り、肝臓が破裂してお腹の中に大量出血します

ダメージコントロール手術の場面です。

私は個人的には、この手術シーンが一番好きです。

患者さんが救急外来に運び込まれるやいなや

「挿管する!」

「Aラインとってー」

「緊急度1で輸血オーダーします!」

「FASTしよう!」

「誰かもう一人オペ入ってー」

と、目まぐるしく細かいカット割りが続き、様々なセリフが飛び交います。

ここから始まる一連の手術シーンは、本物の映像だと言われても私は疑いません

セリフの中での言葉の使い方、タイミング、各スタッフの動き、治療の流れ、その全てがリアルです

こういうシーンは簡単には作れませんから、俳優陣たちも本物の手術現場を見て相当練習したのではないでしょうか

 

このあと、「オペ室まで行く余裕がない」ということで、その場で開腹手術を行います。

皮膚の表面をメスで薄く切ったあとすぐに藍沢は

「メイヨー!」

と言います。

メイヨーとはいわゆる「ハサミ」です。

ハサミにも色々ありますが、メイヨーは一番シンプルで、結構丈夫なものを切る大きなハサミです。

この場面で藍沢がメイヨーを要求したところに、コードブルーのリアリティのすごさがあります

 

普通の手術では、メスで皮膚の表面を薄く切ったあと、次に要求するのは電気メスです。

皮下組織は全て電気メスでゆっくり切っていきます。

皮下組織は細かい血管が多いため、電気メスを使って小さな血管を焼きながら切らないと、出血してしまうからです。

しかしこのシーンで藍沢は、メイヨー、つまりハサミでザクザクと開腹しています

お腹の壁をハサミで切るなど、本来は乱暴で異常なことですが、この場面では適切です。

傷のきれいさや細かい出血などにかまっていられないくらい、お腹の中で大出血が起こっているからです。

ここでは、きれいさや丁寧さよりスピードが要求されます

こういう重症外傷や、緊急帝王切開など、「待ったなし」のときにこういうことを実際行います。

 

次に緋山(戸田恵梨香)の

「開胸して大動脈遮断する!」

というセリフと、藍沢の

「肝門部遮断する、サテンスキー!」

というセリフがあります。

 

いずれも太い血管を遮断するために遮断鉗子を用いています

(大動脈を遮断する際には、サテンスキー鉗子とは別の先の尖ったタイプの遮断鉗子を用います)

遮断鉗子の目的は上述した通り、太い血管を傷つけないように遮断する道具です。

肝臓はお腹と胸の真ん中にある臓器です。

肝臓からの大出血を一時的におさえるため、肝臓に流入する血管をその上下で遮断したことになります。

ちなみに「大動脈遮断」は英語で「アオルタクランプ」と言います。

コードブルー 2nd SEASONでは英語の方が登場するシーンがありましたね。

 

灰谷の大腿動脈クランプ(第6話)

冷凍庫内で足から大出血した患者さんに、フェローの灰谷が右の大腿動脈に細いヒモをくぐらせて鉗子でカチッと止め、動脈を遮断するシーンがあります。

この時に使用した鉗子がこちらです。

これはペアンと呼ばれる鉗子です。

大腿動脈は細い血管ですので、サテンスキーのような大きな鉗子では遮断できません(鉗子が隙間に入りません)。

また、鉗子で直接ガチッと血管を挟むと、血管を傷める可能性もあります。

そこでヒモを通してしばり、しばったヒモを鉗子で止めています

この灰谷の手の動かし方は非常に上手で、見ていて違和感がありません。

ここの鉗子の使い方に、確実にプロの指導が入っていると感じました(手だけ別人かもしれませんが)。

 

このあと、遠隔カメラで見ていた白石が安堵した表情で

「よかった、これで2、3時間はもつ」

と言います。

逆に言えば、これ以上長く遮断していると、足への血流がないため足が腐ってしまいます。

一旦止血して、出血している部分を早急に修復して、再度遮断を解除して血流を再開することになります。

 

ピスタチオさんの

「ぶらぶらハサミを下げて次の処置に移ったり、搬送したりするんでしょうか」

という質問ですが、ほぼその通りです。

もちろん止めた鉗子はガーゼで覆うなどして「ぶらぶら」することはありませんが、一旦はこのまま病院に搬送して足の怪我の処置に移ったはずです。


このように、手術に関する道具はたくさんあります。

これらを我々外科医とオペナースは正確に覚えています。

しかし道具の名前を覚えているだけではオペナースは務まりません

なぜでしょうか?

手術シーンの冴島の姿を見ればその答えがわかります

冴島は元オペナースだということを、第6話で後輩の雪村に明かしていましたね。

ちなみにドラマ「A LIFE」で出てきたオペナースの柴田は「優秀すぎてありえない」のですが、冴島の優秀さは「本当にいそうな」リアルさです。

何が違うのでしょうか?

冴島がいかに優秀な看護師か、ということを次の記事で解説します。

コードブルー3医師が解説|冴島看護師はなぜ優秀か?手術のリアリティ

 

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