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コードブルーを見て医師や看護師を目指す人に私が伝えたいこと

コードブルー1st、2nd SEASONを見たことがきっかけで現在医療職についている人は、私の周りに実際にいます。

直近の3rd SEASONを見て、将来医師を目指したいと思った方も多くいるでしょう。

私のブログやtwitterにも、そういったメッセージをたくさんいただきます。

 

繰り返し述べているように、コードブルーの医療シーンは非常にリアルで、医学的にほぼ矛盾のない描写が特徴です。

しかし、コードブルーで描かれるのは、あくまで「救急」という極めて狭い領域のみです。

私は「冴島看護師はなぜ優秀か?」の記事の中で、敏腕看護師冴島の優秀さがいかにリアルかを述べました。

しかしその後に、大半の看護師は病棟勤務で、病棟において「優秀」であり「敏腕」であることとは全く意味が違う、と述べました。

コードブルーでイメージする医療者の姿が、現実の多くの医療者にそのまま当てはまると思ってほしくなかったからです。

 

今回はその点を踏まえて、コードブルーを見て医師や看護師を目指したいと思った人に伝えたいことを書いてみます。

 

患者層の大きな偏り

コードブルーで出てくる患者さんは、極端に「外傷」に偏っています

外傷救急が、見た目が派手でドラマになるからです。

しかも外傷は活動性の高い若い人に多いため、病気と違って若い患者さんの割合が多くなります

 

若い患者さんに関わるストーリーはドラマになりやすい、という特徴もあります。

例えば3rd SEASON第7話では、結婚式に向かう途中だった男女が踏切事故に巻き込まれ、男性は命を落とし、女性は一命を取り留めます。

男性が亡くなったのは、踏切内に入った女性を命がけで守ったからでした。

何もなければ結婚式を挙げる予定だった若い男女を襲った悲劇、というのは、一つの感動的なシチュエーションを生む伏線になります。

 

また、第4話で出てきた料理人の緒方さんは、釣りの最中に渓流で溺れて搬送されます。

結果として緋山(戸田恵梨香)と恋愛関係に発展し、ドラマを盛り上げるのに大きな役割を果たしました。

第1話の夏祭り中の事故で頭部外傷を負ったのも小学生くらいの少年でした。

少年が頭を挟まれて昏睡状態になっている、というショッキングなシーン、そしてその少年を主人公の藍沢(山下智久)が助ける、という展開に、一気に視聴者は惹きつけられたはずです。

第7話で灰谷(成田凌)が担当した仮性動脈瘤の慎一君も同じように、幼い少年です。

ご高齢の方には大変失礼な言い方ですが、これが高齢男性ではなく少年であることの意味は、ドラマ上では大きいはずです。

 

しかし実際には、自分の病院の周囲で頻繁に災害や事故が起こることは普通ありません

実際の救急現場ではむしろ、脳梗塞や心筋梗塞、感染症のような「内科救急」がほとんどを占めます。

そして患者さんの多くは高齢者です。

これは確率論で考えれば当たり前のことです。

若い方は高齢の方より病気になる確率が低いからです。

 

コードブルーを見て、災害現場で活躍する「救急医になりたい」「救急ナースになりたい」と思った方に伝えたいことは、

実際には災害や重症外傷の頻度は非常に低いということ、実際に救うべき人たちは、コードブルーからイメージする人とは違うことが多いかもしれないこと

を覚えていてほしいということです。

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大切なのは救命ではない

コードブルーでは「救命」という言葉が数え切れないほど出てきます。

確かに「命を救うこと」は尊い仕事で、「救命」は美しく響く言葉です。

そして「救命」は、救急医療において最大の目的です。

 

しかし、患者さんにとって「救命」は「最低限の目的」でしかありません

患者さんやそのご家族が目指しているのは「救命」ではありません。

病気や怪我をする前の状態に復帰すること

完全な社会復帰です。

これを決して忘れてはいけません。

 

救急現場を舞台にしているコードブルーでは、「救命」のその後が描かれることはあまりありません。

生死をさまよった患者さんが、ようやく目を覚ました、手が動いた、というところでみんなが感動して、1話が完結します。

しかしご家族にとっても、医療者にとっても、それは長い長い戦いの始まりに過ぎません

時に、そのまま完全に身体機能が戻らず、寝たきりのままになったり、車椅子での生活を余儀なくされる方もいます。

人工呼吸器から離脱できず、療養型病院に転院し、自宅に帰れない方もたくさんいます。

むしろ、そういう患者さんやご家族とどう接していくか、どう治療していくかが、医療者の仕事の難しい部分でもあります

 

例えば、コードブルーで出てくるような「ようやく意識が戻ってきた」というような方が、結局その後も状態が安定せず、良くなったり悪くなったりを繰り返した末、数ヶ月後亡くなる、ということはよくあります。

病院に通うご家族の方も徐々に疲弊します。

初診時のことを指して「あのとき手術してもらわなければよかった」と言われたことなど、一度や二度ではありません。

初診時、患者さんにとってベストだと思って行なった治療が本当に適切だったのか、数ヶ月後に振り返って悩むことも多々あります

しかし救急を舞台にするドラマでは、徹底して「初診」が描かれます

 

コードブルーを見て医師や看護師を目指したい、と思った方にはぜひ、

「重症患者さんが救命されたその後にも、医療者が寄り添わねばならない人生がある」

ということを知っておいてほしいと思います。

 

ただ、コードブルーの魅力は、救急医療が舞台でありながら「救命が全てではない」というところを製作者がきっちり分かっているところにもあります

ドラマのテーマ上、救命のその後が具体的に描かれることはありませんが、ことさらに「救命」そのものを絶対的な目標としては掲げていません

この謙虚さこそが、他の医療ドラマにはないコードブルーの特徴と言えると私は思っています。