解説その1はこちら!
1週間の自宅謹慎から明け、それぞれの持ち味を存分に発揮するフェローたち。
そんな彼らのもとに、列車の脱線事故という大規模災害現場への出動要請が入る。
車両は脱線転覆し、大勢の死傷者が発生している状況に、白石(新垣結衣)はトリアージ役の司令塔として活躍。
(トリアージについては「コードブルー3 第7話 感想|医者が患者に言ってはならない言葉」参照)
車両の中では藍沢(山下智久)と藤川(浅利陽介)が、いずれも上級医からの口頭での指導だけで難しい処置を成功させる。
外傷整形の藤川、頭部外傷の藍沢。
この二人が、のちにその専門性を身につけた救急医へと成長することを知っている私たちコードブルーファンにとって、今回のシーンは非常に感慨深い。
徹底的に解説しよう(以下ネタバレあり)。
藤川の大腿動脈クランプ
車両内で藤川が担当したのは、右足の開放骨折で出血性ショックの患者だった。
圧迫でも止血できない大出血。
膝窩動脈(しつかどうみゃく:膝の裏の動脈)の損傷により、動脈性の出血を起こしていたからだ。
血液製剤は足りず、しかも横にいるのは「今日が初めての現場出動」と言う頼りない救命士ただ一人。
絶体絶命の状況に追い込まれてしまう藤川。
しかしここで突然、列車の外から聞き覚えのある声で指示が飛ぶ。
「早く説明しろぉ」
辞職したはずの黒田(柳葉敏郎)であった。
アメリカに行く妻と息子を見送るために空港に向かうタクシーで列車事故のニュースを聞き、急遽現場に出向いたのである。
黒田は藤川に、動脈損傷での出血は外科的止血が必要として、大腿動脈の遮断(クランプ)を命じる。
黒田の指導のもと、藤川は右鼠径部(足の付け根)を切開し、無事に血流遮断、止血に成功する。
足(下肢)からの出血に対し、止血を目的として大腿動脈をクランプするシーンは、コードブルーでは定番だ。
3rd SEASON第6話ではフェローの灰谷が工場の冷凍庫内で白石の指示のもと行ったし、最終回では当の本人、藤川が藍沢にされた処置でもある。
灰谷の処置の解説→コードブルー3 第6話|脳死移植の難しさ、医師の落胆に抱く違和感
藤川に藍沢が行なった処置の解説→コードブルー3 最終回 解説|クラッシュシンドロームと横紋筋融解症はなぜ怖いのか?
大腿動脈とは、足の付け根にある動脈のこと。
足から動脈性に出血しているときに、その動脈を根元で遮断すれば止血できる、というシンプルな発想の処置である。
もちろん遮断したまま放置すれば足が腐ってしまうため、出血を止めるための一時しのぎの処置だ。
最終的には損傷した膝窩動脈を手術室で修復する必要があるが、ひとまず血を止めないことには患者さんは手術室に生きてたどり着けない。
今回の大腿動脈クランプのシーンは、黒田の丁寧な解説があるため非常にわかりやすい。
指示の仕方も的確で、まさにコードブルーらしい、きわめて「本物っぽい」指導である。
たとえば黒田の、
「少しでも内側の大腿静脈を傷つけたら大出血するぞぉ。慎重にやれぇ」
のセリフ。
(医療用語では「内側=ないそく」「外側=がいそく」で、「うちがわ」「そとがわ」とは言わない)
体の中の血管は、同じ名前の動脈と静脈がペアで隣同士に存在することが多い。
大腿動脈と大腿静脈、膝窩動脈と膝窩静脈、鎖骨下動脈と鎖骨下静脈といった具合である。
この動脈と静脈では「動脈の方が太い」と思っている人が多いのではないだろうか?
実は逆で、動脈のペアとなっている静脈は、いずれも動脈より遥かに太い。
体の中心を走る、大動脈と大静脈を比べても、大静脈の方がかなり太い。
つまり大腿部で大腿動脈を探るつもりが「すぐ内側にあるもっと太い大腿静脈を傷つけてしまう」というリスクがあるわけだ。
黒田はこれに注意するよう指導していたわけである。
広告
藍沢の穿頭ドレナージ
同じく車両内で藍沢は、意識レベルが低下した少年を治療する。
硬膜外血腫の恐れがあり、病院に搬送する余裕はないと判断した藍沢は、その場で穿頭することを決意する。
頭蓋内にたまった血液を除去するためである。
藍沢はここで、脳外科医西条に電話で指示をもらいながら、その場にあった工具のドリルを使って頭蓋骨に穴を開けるという荒技を使う。
ところが、穴が開いたはずなのに血液の流出が見られない。
そこで西条が、
「血腫が冠状縫合を超えていないんだ。子供の硬膜外血腫なら少なくないケースだ」
と指導、前頭部に再度穿頭するよう指示する。
西条の指示通り、再穿頭によって無事に血液が除去され、少年の意識は回復する。
工具のドリルを使うのは衝撃の荒技。
だが現場で他に手がなく、脳圧の上昇による脳ヘルニア(脳が圧迫されて本来あるべき空間からはみ出してしまう)を防ぎたいなら「なしではない」作戦だろう。
ただ、画像検査もできない現場で、意識がないからといって「硬膜外血腫」とピンポイントに診断することは困難である。
よって実際にこれをやろうという脳外科医はいないのではないかと思う。
実際、3rd SEASON第6話で藍沢は、現場で穿頭を行うも実際には硬膜外血腫でなかった、というケースを体験することになる。
(「コードブルー3 第6話②|藍沢が現場で頭に何個も穴を開けた理由を医師が解説」参照)
もちろん硬膜外血腫だということがほぼ確実なら、道具は手術用だろうと工具だろうと安全に頭蓋骨に穴が開くなら何でも良い(消毒すれば)。
重要なのは道具の種類より「診断の確からしさ」である。
次に、「冠状縫合を超えていない」という西条の指導はどういう意味だったのか?
なぜ西条は2ヶ所目の穿頭を指示したのか?
硬膜外血腫という病気と合わせて簡単に解説しよう。
頭蓋骨は、実は一つの骨でできているのではなく、いくつかの骨が癒合してできている。
この写真を見ればイメージしやすいのではないだろうか?
要するに、頭蓋骨はこんな感じになっているということだ。
ちなみにこれは我が子のお気に入り、「マグフォーマー」という有名な幼児用知育玩具。
立体像を頭の柔らかいうちからイメージできるようにしておくことは大切(算数に強い子供になります)。
余談はさておき・・・
このように頭蓋骨はいくつかの骨が成長するにつれて徐々に癒合していくことになる。
赤ちゃんの頃は頭蓋骨が完全に癒合していないため、大泉門や小泉門といった頭蓋骨の隙間のぷよぷよした部分を触れることができる。
小さなお子さんを持つ方ならよくわかるだろう。
大人になるとこの隙間が徐々に閉じてくるが、この骨と骨が癒合した部分に「縫合線」と呼ばれる線が何本もできることになる。
冠状縫合とは、頭を真横に走る縫合線の一つだ。
さて硬膜外血腫とは、硬膜の外側の硬膜外腔に血液が広がる病態のこと。
ここでポイントは、縫合線の位置では硬膜外腔も仕切られているということ。
(完全なイメージ図です)
したがって硬膜外血腫は、血液の量が増えてもこの縫合線を超えることはめったにない。
一方、硬膜の内側に出血する硬膜下血腫は、硬膜下腔に仕切りがないため縫合線超えて広がっていく。
西条は「小児では少なくない」と言ったが、成人でも硬膜外血腫が縫合線を越えることはほとんどない。
よって「縫合線を超えているかどうか」が、画像上で硬膜外血腫か硬膜下血腫を見分ける一つのポイントでもある。
穴を開けた空間に血液がたまっていないことを知った西条は、
「冠状縫合」と呼ばれる真横に走る縫合線で区切られた、となりの空間に再度アプローチすべきだ
と指示したわけだ。
藍沢はのちに脳外科領域を専門とする救急医に成長し、現場での穿頭は彼の得意技となる。
ある意味今回のケースは、頭蓋内疾患の患者を現場で自力で救った藍沢の第一歩と言えるだろう。
ちなみに最後に西条が、
「搬送中は輸液のスピードを速くしすぎるな」
と藍沢に指示する。
輸液量(点滴の量)を多くしすぎると脳がむくみ、脳圧上昇につながるからである。
「処置が成功しても気を抜くな」ということだ。
さすが、毎回救急症例に駆り出されて「救命の尻拭いをさせられている」だけあって、きわめて隅々まで行き届いた丁寧な指導である。
さて、いよいよ次回は緋山(戸田恵梨香)に密着する。
心破裂で心肺停止に陥った緋山を、翔北の面々はなぜ救うことができたのか?
コードブルーの中でも、メインキャラが生死をさまようというきわめて重要なエピソードだ。
徹底的に解説しよう。
解説その3はこちら!