訴訟問題に疲弊していた緋山(戸田恵梨香)がついに現場に復帰する。
相手が提訴を取り下げたからだ。
前回解説した通り、緋山の強い意思が患者家族を動かしたのである。
また、2人の外傷患者に藍沢(山下智久)と白石(新垣結衣)が自分の人生を重ね合わせ、家族のあり方を問う。
処置シーンはほぼなく、目立った病気も出てこない、非常に情緒的なストーリーである。
しかも出てきた外傷はいずれもこれまで解説したことのあるものばかり。
よってあまり解説するネタはないのだが、あえて書いておきたいポイントに絞って解説しよう。
気をつけるべき外傷とは?
外来にやってきたのは、バイクの転倒事故後に右足の痛みが続く、と訴えた女性。
対応した藍沢は、腫れた右足を見て即座に手術が必要と判断する。
コンパートメント症候群を起こしていたからだ。
放置すると足を切断しなくてはならなくなる危険な病態。
藍沢が即座に見抜いたおかげで、無事に減張切開が行われる。
ところが、女性の話し方が何となくおかしいことに、看護師冴島(比嘉愛未)が鋭く気づく。
藍沢がよくよく尋ねると、女性は転倒時のことを全く覚えていないという。
精密検査が必要と判断され、MRIを撮影すると脳腫瘍(頭蓋底腫瘍)が発覚。
脳腫瘍は非常に大きく、これが原因で意識を失ったことが事故の原因だったのだ。
西条(杉本哲太)と藍沢が脳腫瘍の摘出を行うが、残念ながら後遺症で右手足に麻痺が残ってしまう。
女性は、9歳の息子との母子家庭。
仕事のため、息子は祖母と二人で田舎暮らしをしている。
あっという間に成長してしまう幼い息子との時間を大切にしたい思いから、一緒に住む予定だった矢先の事故だった。
「親失格だ」と落胆する女性。
幼い頃に父に出て行かれ、母を自殺で失い、祖母と2人で暮らしてきた藍沢は、
「子供と一緒にいられる時間の大切さに気づいただけいい母親だ」
と自らの人生を重ね合わせて励ましたのだった。
コンパートメント症候群と、その治療である減張切開がコードブルーで出てくるのは2回目。
1回目は1st SEASON最終回である。
この病気がなぜ一刻を争うほど危険なのかについては、解説記事で書いた通り。
また、今回のこの女性のように、
「単なる外傷だと思っていたら、実はその背景に大きな病気が隠れていた」
というのは、医療ドラマでは定番だ。
コードブルーでも似たストーリーは他にある。
たとえば、1st SEASONの指導医である黒田(柳葉敏郎)の息子が空港のエスカレーターから転落し、肝損傷を起こしたケース(第9話)。
この黒田の息子、健一くんも女性と全く同じ、脳腫瘍による意識消失が外傷の原因だった。
ただ定番とはいえ、今回のようなケースでは特に、
「背景に大きな病気が隠れていないか」
を真っ先に考えることが重要になる。
なぜなら、単なる交通事故ではない、「単独事故」だったからだ。
単独事故は普通ではない
今回の女性はコンパートメント症候群を起こすような、それなりに大きな怪我だったから入院し、結果的に脳腫瘍が見つかった。
軽い怪我だったらそのまま自宅に帰され、脳腫瘍に気づかれなかったかもしれない。
逆に言えば、もし軽傷、たとえば軽い擦り傷だけであっても、傷の処置だけであっさり診療を終わってはいけないということだ。
単独事故では、その原因をきっちり本人に問いただすのが大切だと我々医師は教育される。
単独事故を起こした患者を見たとき、我々が考えるべき原因は「6つのS」で表現される。
Sake:酒
Sleep:居眠り
Seizure、Stroke:けいれんや脳卒中
Suicide:自殺
Sugar:低血糖
Syncope:失神
要するに、単独事故は「普通じゃない」と思っておくべきだということだ。
「酒」や「居眠り」は、飲酒運転や居眠り運転が原因のケース。
けいれんは、てんかん発作が起こって意識を失っていた瞬間に事故を起こしたといったケース。
脳卒中は、脳出血や脳梗塞で意識を失い、事故を起こしたケース。
そして低血糖も意識障害を起こす原因になる。
低血糖を起こす大きな病気が隠れているかもしれない。
そして失神して事故を起こしたなら、不整脈や重度の貧血が隠れているかもしれない。
そして絶対に忘れてはいけないのが「自殺」。
自殺が目的での事故は、本人に問いたださないと明かさないことがある。
ちなみに「居眠り」も、睡眠時無呼吸症候群など、何らかの重度の疾患が背景にある可能性もある。
これらを細かく確認しなければならない理由はもちろん、
次は命がないかもしれないから
である。
今回の女性は脳腫瘍が原因の失神、あるいは痙攣発作と考えられる。
自殺については、コードブルー3rd SEASON第8話でフェローの灰谷がホームに飛び込んで怪我をした際にも記事にした(解説記事はこちら)。
自殺企図での(自殺を目的とした)怪我を見逃すと、次こそ本当に死んでしまうかもしれない。
偶然命を落とさずに済んだこのタイミングで「なぜ単独事故?」と医療者が突っ込んで介入することが、患者の命を救うことにつながるのである。
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スキー選手の事故
一方現場に復帰した緋山が担当した男性はスキー選手。
スキーの練習中に木に激突して大怪我を負い、ドクターヘリで搬送される。
両側の気胸を起こしており、現場で胸腔ドレーン(胸の空間に入れる管)を挿入して脱気。
一命をとりとめたものの、MRIで中心性頸髄損傷が発覚。
手に麻痺が永久に残る可能性が高いことが判明する。
厳しい現実を患者に突きつけることに、復帰したばかりの緋山は踏み切れず、白石にその重役を依頼。
白石は男性に、危険なため二度とスキー競技をしてはいけないと伝える。
男性は、これまで何度も怪我を負いながら、それでもスキーを続けてきたのは、まだ自分が活躍する姿を見たことのない娘のためだったと白石に明かす。
もう一度スキーをさせてほしいと訴える男性。
しかし
末期の肺がんで長くは生きられない父を持つ白石は、
「子供にとって父親はただ元気でさえいてくれればいい。家族のためにベストな決断をしてほしい」
と強い口調で悟し、男性は受け入れたのだった。
中心性頸髄損傷とは、頸髄(脊髄の首の部分)の中央部分だけを損傷すること。
頸髄の中央部分は、両手に向かう神経が通る経路があるため、両手に麻痺が出るのが特徴だ。
中心性頸髄損傷といえば、3rd SEASONで登場した緋山の恋人、緒方さんの病態と全く同じ。
3rd SEASON第9話の解説記事にも書いたので、そちらを参照していただければと思う。
ちなみに今回の男性は緒方さんのケースと微妙に異なる点がある。
もともと中心性頸髄損傷を起こしやすい病気があったことである。
首のMRIを見た白石の、
「脊柱管狭窄症による中心性頸損だよね」
というセリフが示すように、男性にはもともと脊柱管狭窄症という病気があった。
脊柱管とは、背中の神経の柱である脊髄が通るトンネルである。
脊柱管狭窄症とは、年齢とともに骨や靭帯が分厚くなることで脊柱管が狭くなり、脊髄が圧迫された状態のこと。
もともと脊髄が不自然な形に圧迫されているため、そこに加わった外力で脊髄が損傷されやすくなっていると考えれば良い。
今回の外傷は、ややマニアックな設定が組み込まれた、コードブルーらしいストーリーと言って良いだろう。
というわけで第9話の解説はここまで。
いよいよ2nd SEASONもクライマックス、あと2回で解説も終了である。
最後まで楽しくお付き合いください。