※「急性腹症診療ガイドライン」では、「腸管が機械的/物理的に閉塞した場合を『腸閉塞』とし、麻痺性のものを『イレウス』と呼ぶ」とされていますが、この記事では「イレウス管」という呼称を用いる都合上混乱を避けるため、便宜上、従来の定義で「イレウス」という言葉を用いています。
まず最初に知識の確認のために症例クイズを一つ出します。
70代の男性、5年前に大腸癌の開腹手術歴あり。
それ以後、癒着性イレウスで入院を繰り返している。
消化器病棟なら必ずあるこんな事例。
さて、これは小腸のイレウスか大腸のイレウスか、どちらでしょうか?
もちろん答えは小腸イレウスですが、もし即答できなかったら、きっちりこのページを最後まで読んでほしいと思います。
今回は、看護師、研修医向けにイレウスの種類と治療について解説します。
治療では様々な種類の減圧チューブを使いますので、管の種類について知識が曖昧な方は以下の記事も参照してください。
マーゲンチューブ・イレウス管・EDチューブ|管の種類と違い・使い分け
イレウスはどんな患者さんにも起こりうる病態ですので、研修医は当然ながら、どの病棟の看護師さんもしっかり理解しておいた方が良いでしょう。
今回は、「教科書よりわかりやすく」を目指してイレウスについて解説します。
教科書的なイレウスの分類
イレウスは、一般的な教科書では以下のように分類されています。
機械的イレウス
・単純性(閉塞性)イレウス
・複雑性(絞扼性)イレウス
機能的イレウス
・麻痺性イレウス
・痙攣性イレウス
つまり、まず
機械的イレウス:何らかの物理的な閉塞が原因
機能的イレウス:腸管蠕動運動の障害が原因(物理的な閉塞はない)
という風に分けます。
さらに、機械的イレウスを以下の二つに分けます。
単純性(閉塞性)イレウス:腫瘍や炎症による狭窄などで起こる
複雑性(絞扼性)イレウス:腸管が絞扼され血流障害を伴う
また機能的イレウスは以下の二つに分けます。
麻痺性イレウス:腸管蠕動運動が低下する
痙攣性イレウス:腸管蠕動運動が亢進する
これに従えばイレウスは4種類あることになりますが、この分類でイレウスの全容がわかるでしょうか?
さらに臨床の現場では、「癒着性イレウス」とか、「腸軸捻転」という言葉が登場し、これらが一体どこに分類されるのかわからなくなります。
おまけに癒着性イレウスで入院した人が、絞扼していることがわかって手術、などということになると、もう病態が分類できなくなってしまいます。
そこで今回は、以下のような「現場で役立つイレウス分類」を紹介してみます。
機械的イレウス
・大腸イレウス
・小腸イレウス
・腹部手術歴のあるイレウス
・腹部手術歴のないイレウス
機能的イレウス≒麻痺性イレウス
機械的・機能的とは?
まず大きな分類としての、機械的イレウスと機能的イレウスは重要な分類です。
これが分かりにくいという方のために、高速道路での渋滞にたとえて考えてみましょう。
高速道路で渋滞が起こる仕組みは大きく分けて二つあります。
一つは、事故や道路工事など、障害物によってある部分で流れが遅くなっている場合です。
これが機械的イレウスに相当します。
この時、「障害がある部分より手前は渋滞するが、それより向こう側はスムーズに流れている」というところがポイントです。
もう一つは、全体的に車のスピードが落ちる場合です。
たとえば、台風で大雨が降って、普段時速100キロで走るところを、みんなが60キロくらいで走ったらどうなるでしょうか。
また、高速道路でスピード違反の取り締まりが行われるという情報があったらどうなるでしょうか。
全員がのろのろ走るので、全体的に渋滞するでしょう。
これが機能的イレウスに相当します。
この場合は、特に障害物があるわけではないのに渋滞する、というのがポイントですね。
障害物がある場合と違って、高速道路全体が渋滞するため、ある部分から先はすいている、ということがないわけです。
消化管は口から肛門まで一本道なので、同じように考えることができます。
そして、腸液・腸内容物の渋滞が起こると、その部分の腸管は拡張します。
CT画像で拡張している腸管の分布を見れば、渋滞の場所と原因がわかるというわけです。
ちなみに、機械的イレウスで蠕動が亢進すると聴診上「金属音」が聴取できます。
しかし、実際には音で聴き分けることは難しく、それ以上の情報は得られないため結局画像検査が必要なことがほとんどです。
次に機械的イレウスを、大腸のイレウスと小腸のイレウスに分けます。
臨床の現場では、単純性や複雑性という言葉はあまり使いません。
機械的イレウス
まず大前提として、機械的イレウスなら閉塞部位より上流は全て拡張します。
小腸イレウスなら小腸と胃が拡張し、大腸イレウスなら大腸と小腸と胃が拡張します。
交通渋滞と同じで、事故が起こって障害が現れたら、時間とともに徐々に手前に渋滞が伸びてきます。
またその障害の程度によっても渋滞の長さは変わります(1車線は通れるのか、全く通れないのか)。
よって、イレウスでも発生からの時間や程度で、どこまで上流が拡張するかは異なります。
つまり、大腸イレウスでも、軽いものは大腸だけが拡張するし、ひどいものは胃や食道まで拡張することもあるわけです(小腸でも同じ)。
CTでどこまで拡張していてどこからは虚脱しているのかを見れば、原因がどこにあるかがわかります。
大腸のイレウスなのか、小腸のイレウスなのかも容易に分かります。
高速道路で事故が起こった場所を知りたければ、渋滞しているところから前方に追いかけていけば良いのと同じです。
イレウス患者に対してはまず、「どこからどこまで拡張していて、それは大腸か小腸か」を見ることが最も大切なポイントです。
大腸のイレウス
大腸の閉塞は非常にシンプルなのでわかりやすいでしょう。
多いのは、腫瘍(大腸癌など)と炎症(憩室炎や炎症性腸疾患など)と宿便です。
いずれも、単純に「通り道が詰まるためにイレウスになる」というものです。
大腸イレウスは基本的にこれだけ押さえておけば良いでしょう。
腸軸捻転は、教科書では絞扼性イレウスに入れられますが、臨床の現場で結腸の軸捻転を絞扼性イレウスと呼ぶことはありません。
S状結腸軸捻転や盲腸軸捻転というように、ちゃんと固有の名前があるからです。
現場では、絞扼性イレウスは普通は小腸イレウスにしか使いません。
ちなみに、上行結腸と下行結腸は後腹膜に固定されているので、捻転しようがありません。
捻転するのは、可動性の高いS状結腸と横行結腸と盲腸(人によっては固定が緩い)です。
小腸のイレウス
小腸も大腸と同じように、腫瘍や炎症が閉塞の原因になることもありますが、最も多いのは手術後の癒着が原因の閉塞で起こる癒着性イレウスです。
よってここでは、腹部手術歴のある患者のイレウスと、そうでないイレウスに分けます。
腹部手術歴のある小腸イレウス
術後には必ず腹腔内に癒着が起こるため、これがイレウスの原因になります。
腸管壁同士の癒着や、腸管壁と腹壁の癒着が起こり、その部分が狭くなったり、捻れるようにして詰まったりします。
あるいは、術後にbandと呼ばれる線維性のヒモが形成されてしまい、そのヒモが腸の首を絞めてしまうこともあります。
これらは、ねじれ方が悪いと血流障害を起こすので、絞扼性イレウスに発展します。
逆に、このねじれを臨床の現場で軸捻転と呼ぶ人はいません。
状況は似ていますが、病態は結腸の軸捻転と全く異なるからです。
癒着性イレウスの98.7%に、絞扼性イレウスの84.8%に開腹歴があるとの報告もあります。
大半のケースは、
腹部手術による癒着→癒着性イレウス→絞扼性イレウス
ということですね。
癒着性イレウスは小腸に起こり、大腸には起こりません。
大腸は径が大きく、癒着によってねじれたりbandによって閉塞することは普通ありません。
イレウス患者で大腸の拡張が見られたら、それは癒着性イレウスではないと思ってよいでしょう。
腹部手術歴のない小腸イレウス
こちらは頻度的には非常にまれです。
小腸イレウス患者を問診して、「腹部手術歴がなかったら一大事」と覚えておきましょう。
原因は、内ヘルニアや、食餌性、異物、胆石、腫瘍などで、大半は手術しなければ原因がわかりません。
生理的な(生まれつきの)癒着や索状物が原因のこともあるが、まれです。
ただ、ヘルニア嵌頓がイレウスの原因となっていることもあり、その多くは体表面から診断可能です。
もちろんこれらも、血流障害が起これば絞扼性イレウスに発展しますが、前述した通り絞扼性イレウスに占める頻度は高くはありません。
機能的イレウス
ほとんどは麻痺性イレウスです。
小腸も大腸も蠕動運動は落ちるのですが、小腸の蠕動が落ちることで、小腸内の腸液が貯留して小腸拡張が目立ちます。
大腸だけの蠕動運動が落ちて麻痺性イレウス、ということは通常なく、こういう時は(弛緩性)便秘と呼ぶべき病態であることが普通です。
原因の多くは腹部の手術です。
腹部の手術をすると、腸管を用手的に動かすことなどが原因で、一時的に(数日間)腸の蠕動運動が落ちます。
もう一つ注意しておくべきなのが、薬剤が原因のイレウスです。
代表的なのは、オキシコドンやモルヒネなどの麻薬性鎮痛剤です。
これらは抗コリン作用があるために、特に抗コリン作用を有する薬物と併用することで麻痺性イレウスに至ることがあります。
緩和ケアの領域では注意が必要です。
他には、腹膜炎など腹腔内の感染などによる炎症は、蠕動運動を低下させて麻痺性イレウスを生じます。
ただ、こういう場合は「イレウスどころではない」事件がお腹の中に起こっている時なので、他の麻痺性イレウスとは意味がずいぶん異なります。
痙攣性イレウスは臨床の現場で出会うことはほとんどありません。
教科書では腹部打撲や鉛中毒、ヒステリーなどが記載されています。
イレウスの治療
治療法を考える時も、大腸のイレウスか小腸のイレウスかを考えることは非常に大切です。
繰り返しになりますが、
「小腸イレウスでは小腸と胃が拡張し、大腸イレウスでは大腸と小腸と胃が拡張する」
ということがポイントです(いずれも程度によりますが)。
まずは拡張しているところを減圧しなければならないため、小腸イレウスなら、経鼻胃管かイレウス管を用います。
大腸イレウスなら、拡張の程度に応じて、経鼻胃管かイレウス管、それに加えて部位によってコロレクタルチューブを使います。
(減圧のために使う管の違いについては「マーゲンチューブ・イレウス管・EDチューブ|管の種類と違い・使い分け」を参照)
コロレクタルチューブは最長でも1週間程度の留置が限度で、穿孔のリスクがあるためそれ以上長く留置しません。
その後の手術が前提です。
また、絶食を継続する必要があります。
切除までもっと長い時間をおきたい時は、コロレクタルチューブではなく大腸ステントを留置します。
大腸ステントなら食事摂取は可能で、一旦退院も可能になります。
基本的に、大腸イレウスは原因となっている閉塞を手術によって解除しなければ治癒には至りません(大腸切除)。
一方、小腸イレウスは、腹部手術歴がある場合は、癒着性イレウスなら保存的に治癒できることが多いですが、絞扼性イレウスなら手術適応です。
ただ癒着性イレウスでも、繰り返す場合や、CT上いつも同じ部分が閉塞起点になっている場合は、待機的に手術を検討します。
一方、腹部手術歴がない場合は、保存的な治療が難しいケースが多いです。
まず原因がわからないことが多く、診断目的で手術することが一般的です。
また上記に加えて、どのイレウスでも絶食、輸液管理が必要です。
では最後に、上級医へのコンサルトの仕方を解説します。
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上級医へのコンサルトの仕方
ここで提唱するイレウス分類に沿って説明すれば問題ありません。
主要なポイントは以下の通りです。
①まず機械的か機能的(麻痺性)かを判断。
②機械的なら、大腸か小腸かを判断。
③大腸なら閉塞起点と考えられる病変はどこにあって、原因は何と考えられるかを説明する。小腸なら、腹部の手術歴があるかないかを確認。
④手術歴があって癒着性イレウスが疑われれば、これまでに癒着性イレウスの既往があるか、これまでのCTがあれば、閉塞部位が同じかを確認。
「機械的」や「機能的」といった言い方は現場ではほとんどしないので、コンサルト時に伝える病名は結論のみでよいでしょう。
つまり、
「癒着性イレウスです。5年前に大腸癌の手術歴あり。小腸中程に閉塞起点(caliber change)があります。癒着性イレウスはこれで3度目で、これまで2回と同じ、臍直下での癒着が疑われます」
「大腸のイレウスです。横行結腸に閉塞起点あり、それより口側の結腸と、小腸全体に拡張あり。閉塞の原因は、CTから腫瘍が疑わしいと考えます」
のような形です。
もちろんこれに加えて患者背景や症状の強さ、腹部診察所見なども説明します。
消化器内科医にコンサルトするか、消化器外科医にコンサルトするかは、病院の習慣によって様々なので、事前に確認しておくとよいでしょう。
以上が、臨床現場に即したイレウスの考え方です。
このサイトでは、一般向けに病気に関する知識をまとめたページを多く用意していますが、看護師さんや研修医の先生にもきっと役立てていただけると思います。
ぜひご参照ください。
(参考文献)
「開腹歴のないイレウス12例の検討」日外科系連会誌 34(5) : 752-758, 2009
専門医のための消化器病学 第2版