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コウノドリ2 第6話 解説|妊婦の甲状腺クリーゼはなぜ怖いのか?

コウノドリ第6話は、妊娠を契機に急性発症した甲状腺クリーゼによって妊婦さんが亡くなる、というショッキングなストーリーでした。

甲状腺クリーゼとは一体どんな病気?

と思った方も多いでしょう。

また今回は心肺停止患者の蘇生処置で救急医たちが目立ちましたね。

救急車で妊婦さんが初療室に搬送されてからの一連の処置、ACLS(二次心肺蘇生法)はコードブルーも顔負けの驚くほどのリアリティでした。

私はどちらかというとこういう救急領域の解説が得意ですので、今回はこれらについて解説してみようと思います。

 

今回のあらすじ

人手不足のこはる産婦人科のヘルプとして当直に入った下屋(松岡茉優)。

そこで切迫早産で入院中の妊婦、神谷カエさんと出会います。

偶然名前が同じ「カエ」であり、年齢も同じであったことから意気投合。

お互いの境遇を語り合いますが、下屋はカエさんの手が震えていることや脈拍が速いこと(頻脈)が気になります。

甲状腺の機能異常ではないか?

そう思った下屋はそのことをこはる産婦人科の院長に伝えますが、「週明けに検査する」と返されます。

ペルソナに下屋が戻ったのもつかの間、妊娠35週の妊婦が心肺停止(アレスト)で緊急搬送されるとの連絡が入ります。

なんとそれはカエさんでした。

驚きのあまり声を失う下屋。

救命救急センターの医師も心肺蘇生に参加し、懸命な蘇生処置を行うも母体の命を救うことはできませんでした。

心肺停止の原因は甲状腺クリーゼ

あの時、甲状腺の検査をするよう強く言っておけば・・・

自責の念にかられる下屋はその日から仕事に身が入らず、鴻鳥(綾野剛)や四宮(星野源)が休暇をとるよう指示します。

休暇中に、カエさんの全身状態を把握できていなかったことや、搬送後の処置に手間取ったことなど、自分の弱点に気づいた下屋は、救命救急センターでトレーニングを受けることに決めました

 

甲状腺クリーゼとは?

甲状腺は首の前側にある臓器で、体の代謝をコントロールする甲状腺ホルモンを分泌しています。

このホルモンの量は脳の下垂体という部分で厳密にコントロールされていますが、このコントロールが効かないくらい甲状腺機能が異常に高まる(亢進する)病気があります。

甲状腺機能亢進症(バセドウ病)です。

甲状腺ホルモンが必要以上に多量に産生されるため、全身で代謝がアップします。

全身倦怠感や体重減少、動悸、息切れ、頻脈、発汗、手の震えなどが生じます。

常に激しく代謝が行われている状態は、激しい運動をしている状態と似ていると考えればわかりやすいでしょう。

また甲状腺機能亢進症では甲状腺が大きく腫れることも多く、この腫れで病気に気づかれることもあります。

治療は、甲状腺の機能を落とす薬の内服です。

うまく薬でコントロールができれば日常生活が普段通り送れます。

 

ところが、何らかの体の変化がきっかけで病気が急性に悪化し、暴走したようにホルモンが多量に分泌されてしまうことがあります。

これを「甲状腺クリーゼ」と呼びます。

ちなみに「クリーゼ」はドイツ語で、英語では「crisis(クライシス)」です。

クライシスは「危機的な状況」を意味する言葉ですから、何となくイメージがわきますよね。

余談ですが、ノイローゼネフローゼチアノーゼなど「◯ーゼ」で終わるドイツ語病名が日本では多く使われていますが、欧米では通じません。

これらは英語では「◯ーシス」になります(「ニューローシス」「ネフローシス」「サイアノーシス」です)。

 

甲状腺クリーゼは、もともと甲状腺機能亢進症がある方に対する手術や感染、ストレス、分娩などがきっかけで起こります

私たちも、甲状腺機能亢進症の方を手術する時は、事前に内分泌臓器(ホルモンを分泌する臓器)のプロである内分泌内科の診察を受けてもらいます。

 

さて、甲状腺クリーゼが起こると、全身の臓器が大量の甲状腺ホルモンにさらされます

高熱、意識障害、心不全、肺水腫(肺に水が溜まる)などが急性に生じます。

死に至る危険性のあるきわめて危険な病態で、一刻を争います。

今回は、搬送中の救急車内で心肺停止(アレスト)になり、蘇生処置も無効でしたね。

 

前述したように、救急医を中心としたこの心肺蘇生は、他のドラマでもあまり見ないくらいリアルでした。

心電図の波形がどうなったらどういう処置をするの?

AEDのような除細動は行っても意味がないの?

など疑問に思った方がいるかもしれません。

今回のシーンは非常にリアルだったので、これを振り返りながら簡単に解説しておきましょう。

 

二次心肺蘇生法とは?

今回のような病院での心肺蘇生処置のことを二次心肺蘇生法(ACLS)と呼びます。

病院には、心電図モニター、除細動器、挿管チューブなど蘇生に必要な道具が揃っています。

こういう状況下でどういう順に処置を行うか、という方法です。

一方、道具のない屋外でのケースは一次心肺蘇生法(BLS)です。

(BLSについては「高校野球部の女子マネージャー死亡、低酸素脳症への誤解」参照)

今回コウノドリで行われていたリアルな流れを解説してみます。

 

まず心肺停止患者の心電図波形をモニターで確認し、「どのタイプの心停止なのか」を確認します。

心停止のタイプってなに?

と思った方がいるかもしれません。

実は心停止は「心臓が完全に止まること」ではありません

心停止とは、以下の4つの状態の総称です。

心室細動(Vf)

無脈性心室頻拍(VT)

無脈性電気活動(PEA)

心静止(Asystole)

このうち、心臓が震えるように動いているだけで血液を送り出すポンプ機能はない状態が、心室細動無脈性心室頻拍です。

これらは不整脈ですので、AEDや除細動器による電気ショックで元に戻せる可能性があります

一方、無脈性電気活動心静止には除細動の適応はありません(行っても意味がありません)。

無脈性電気活動は、モニター上波形はあるが心臓は動いていない状態、心静止はモニター上でも完全に心臓が止まった状態です。

これらには胸骨圧迫(心臓マッサージ)を続けるだけです。

今回のカエさんは、心静止でしたね。

心静止のことを、英語で「Asystole(アシストール)」、業界用語で「エーシス(Aをエーと読む)」と言います。

 

最初はエーシスでも、胸骨圧迫を繰り返すうちに波形が変化する可能性があります

たとえばエーシスだった波形が心室細動に変われば除細動で治療できます

ところが胸骨圧迫を続けると、胸につけた心電図モニターはこの衝撃を感知し、波形が大きく乱れます

つまり胸骨圧迫の最中には波形の変化に気づけないということです。

そこでタイムキーパーを一人決め、時間を測定してもらいます。

その人は2分ごとにメンバーに合図するのが仕事で、処置には参加しません。

合図があれば、全員が動きを止めてモニターをチェックします

患者さんを揺らすと波形が乱れるので、点滴や採血、挿管、エコーなど様々な処置を行っている医師たちが、全員瞬時に静止してモニターを見るわけです。

ここで心室細動と無脈性心室頻拍に変化していれば、即座に除細動

今回はエーシスのままだったので、胸骨圧迫を再開です。

これを2分サイクルで繰り返す、という流れです。

このサイクルに合わせて、アドレナリンなどの心臓を刺激する薬剤の投与も行います。

 

まさに、今回のコウノドリの蘇生処置シーンは本物に近いリアリティでしたね。

リアルでなかったのは、救急部部長や救急医加瀬(平山祐介)の態度くらいです。

あんな偉そうな救急医や、あんな声が大きくてテンションが高い「お祭り男的救急医」意外といません

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リアルじゃない救急医の姿

コードブルーを見慣れた人は、コウノドリの救急医の描き方に違和感を感じるのではないでしょうか?

私が疑問に思ったのは「なぜあんなに救急医たちが偉そうなのか?」ということです。

挨拶に出向いた下屋を冷たくあしらい、

「救命なめんなよ」

「1年持たない」

「学生気分なら今すぐ帰れ、救命は勉強する場所じゃないんだ」

など、救命が厳しい現場だということをことさらに主張します

そんなことないでしょう。

確かに難しい仕事でしょうが、自分の仕事が一番大変だとか、一番厳しい現場だと思っている救急医に会ったことはありません

救急医はシフトワーカーなのでオンオフがはっきりしていますし、患者さんとも一期一会なので人間関係を築く難しさもありません

淡々と日々の業務をこなす仕事人的なイメージです。

 

しかも初療を担当すれば、あとは専門科に引き継ぎます。

毎日、

「後のことはよろしくお願いします」

と他科の医師に言う立場です。

基本的に謙虚で腰の低い人たちです(優秀な救急医ほど)。

 

 

余談ですが、コードブルー3rd SEASONの第1話で、脳外科医の新海(安藤政信)が、

「救命は(患者を)受け入れるだけ受け入れて、さばききれてないですもんね」

と嫌味を言い、横で聞いていた藍沢(山下智久)が微妙な表情を見せるシーンがあります。

救急部はこのように、次々患者を受け入れて専門科医師の仕事を増やす、という、いわば悪役のような立ち位置であることが多いです。

救急部の医師がいるからこそ減っている仕事もかなりあるはずなのですが。

 

いずれにしても、もし実際に「救命なめんなよ」などと言い出す救急医がいたら、

「お前、産科なめんな」

と同僚に一蹴されて終わるのではないでしょうか。

 

最後にもう一つ。

救急医の仕事は「全身管理」ではありません

「プライマリーケア(初期診療)」です。

下屋は、全身の診察技術を身につけたり、心肺停止患者への対応を学ぶために救命を選んだのは正しいのですが、「全身管理を学びたい」という動機を語るのは変です。

「全身管理」のプロはICUで働く集中治療医や麻酔科医です。

ここは聞いていてかなり違和感があったポイントでした。

救急医の仕事についてはこちらもご参照ください。

救急医の仕事 ドラマと現実の違い/「救命」「ER」の意味の違いとは?

ドラマですのでツッコミを入れても仕方ありませんが、さすがにちょっと目に余る「お祭り男っぷり」には辟易しました。

ただし、俳優の平山祐介さんはカッコいい人です。

モデルとして雑誌の表紙も飾っていますよ。

というわけで来週もお楽しみに!