大腸がんの手術を受ける方は、手術が無事終わった後も通院が必要だとお聞きになっていると思います。
しかし具体的な通院頻度や期間、検査スケジュールを前もって知っておきたいという方は多いでしょう。
仕事をあまり休めない方や、病院から遠方に住んでいる方は、頻繁に通うことが難しいという不安もあるかもしれません。
また、再発が不安、という方も多いでしょう。
大腸がん手術後の検査スケジュールはガイドラインによって定められており、私を含め大部分の医師は、特別な理由がない限りこのガイドラインに従って通院を指示しています。
再発の有無も、このスケジュールに沿って行う検査で確認することになります。
今回はこれらについて分かりやすく説明したいと思います。
なお、今回は他の臓器にがんが転移しているステージ4の方は含みません。
手術によってがんが全て取り切れる方(このページを見ている多くの方はそのはずです)を対象に話をします。
通院頻度と通院期間
まず退院後の初回の外来が、退院から1〜2週間後にあるのが通例です。
術後合併症など何らかの理由で入院が長引いた方は、少しずれる可能性はあります。
その後3年間は3ヶ月おきに通院します。
大きな問題がなく3年経過すれば、それ以後は半年に1回の通院に変わります。
これを残り2年続け、合計5年間で通院を終わります。
ただし、がんのステージ(進行度)によっては術後に約半年間の抗がん剤治療(化学療法)が必要になる方がいます。
術後補助化学療法と呼び、目的は再発の予防です。
この場合は、抗がん剤治療のスケジュールによって通院頻度が変わります。
通常、抗がん剤治療を行う半年間は、2〜3週に一度は通院が必要になることが多いでしょう。
抗がん剤のメニューによっても異なりますから、これは担当の医師の説明をよく聞いてください。
5年間、再発などの問題がなければ通院の必要はなくなります。
「5年が終われば何もしなくてもいいの?」
と不安になる方はいらっしゃると思います。
何もしなくていいわけではありません。
手術前と同じように、大腸がん検診を受けるのが望ましいでしょう。
大腸がん検診については以下の記事をご覧ください。
大腸がん検診を徹底解説!検査の種類と方法、なぜ受けるべきか?
検査スケジュールは?
術後、定期的に行う検査は3種類あります。
血液検査、胸腹部CT、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)です。
血液検査
前述した通り、最初の3年は3ヶ月に1回通院しますが、この際に毎回血液検査を行います。
血液検査では、一般的な項目に加えて毎回必ず腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)を測定します。
術後3年を超えると半年に1回の通院になりますので、血液検査も半年に1回に変わります。
CT検査
半年に1回、胸部と腹部のCT検査を行います。
ステージ3以上の方はこれを5年間継続しますが、ステージ2以下の方は、3年を超えると1年に1回に伸ばしても構いません。
CTは、より精密に検査するため、造影剤を用いて行うことが望ましいです。
ただし、造影剤アレルギーのある方や、腎臓の機能が悪い方は造影剤なしで検査します。
また、CT検査を受けることが難しい方は、胸部レントゲンや腹部超音波(エコー)を代わりに行うこともあります。
大腸内視鏡検査
術後1年目と3年目に大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を行います。
ただし、直腸癌の方は2年目にも行うことが推奨されていますので、直腸癌の方のみ3年間は毎年大腸カメラを受けることになります。
その理由は後述します。
以上をまとめると次のようになります。
・術後3年以内
通院:3ヶ月に1回
血液検査:3ヶ月に1回
CT:半年に1回
大腸内視鏡:1年目と3年目の2回(ただし直腸癌は2年目も)
・術後4年目以降
通院:半年に1回
血液検査:半年に1回
CT:半年に1回(ただしステージ2以下は1年に1回も可)
再発はどうやって見つかる?
がんの手術を受けた方は再発が最も心配だと思います。
5年間もの間、定期的に通院しなければならないのは、万が一再発が起こった時にそれを早く見つけるために他なりません。
再発は、その80%が術後3年以内に起こります。
術後3年以内の検査スケジュールがタイトなのはそのためです。
では、何が起これば再発したとわかるのでしょうか?
それは、腫瘍マーカーの上昇、CTでの異常、大腸カメラでの異常です。
それぞれについて説明します。
腫瘍マーカーの上昇
通常、CEAとCA19-9という2種類の腫瘍マーカーを測定します。
これらの数字が上昇すると、再発の可能性があると判断し、精密検査を行います。
ただし、腫瘍マーカーは万能ではありません。
以下のように腫瘍マーカーが再発の確認に使いにくいケースもあります。
CEAが使いにくいケース
喫煙者の場合です。
タバコを吸っている方は、もともとCEAが高い傾向にあります。
がんのせいでなくても、CEAが高く出ることがありますので、やはり判別が難しくなります。
ただ、喫煙者でもせいぜい正常の2倍程度までの上昇にとどまることが多く、非常に高い数字が出れば、がんが原因だとわかる場合も多いです。
CA19-9が使いにくいケース
日本人の約10%に、がんになってもCA19-9が全く上昇しない方がいます。
「ルイス式血液型が陰性の方」のことですが、専門的な話をするとわかりにくいので、「生まれつき体がCA19-9を作らない方」とお考えください。
一方、胆石や胆道系の病気などが原因で、逆にがんでないのにCA19-9が高く出ることがあります。
がんのせいで数字が上昇しているのか、他の病気で上昇しているのか見分けがつかない場合は、1 ヶ月後に再検査をするなどし、さらに上昇がないかどうかを確認することもあります。
腫瘍マーカーはがん以外の正常の臓器でも産生される物質です。
ここに挙げたのは頻度の高い一部の例で、他にも「当てにならない」ことは多くあります。
腫瘍マーカーだけで病気を診断することは不可能で、他の検査結果と照らし合わせて総合的に判断する必要があります。
CTでの異常
大腸がんの再発のタイプとして多い、肝臓への転移、肺への転移、リンパ節への転移、腹膜播種(お腹の中にがんの粒が広がる)などは、胸部と腹部のCTで見つけます。
これで再発を疑うような「影」が現れた場合、さらに精密検査としてPET検査やMRI検査などを追加することもあります。
大腸内視鏡検査での異常
主に「吻合部再発」と呼ばれるタイプの再発を見つけるために行います。
大腸がんの手術では、がんを含む大腸を10〜20センチほど切除し、その上流と下流をつなぎ合わせます。
大腸がんの手術について詳しく知りたい方はこちら
これを「吻合」と呼びますが、この吻合した部分にがんが再び現れることがあります。
これを「吻合部再発」と呼びます。
これを最も見つけやすいのが大腸内視鏡検査です。
ほとんど(95%以上)が術後3年以内に起こります。
特に直腸癌は吻合部再発のリスクが高いため、前述の通り3年間は毎年大腸内視鏡検査が必要です。
再発したらどうする?
大腸がんは、再発のタイプによって治療法が大きく異なります。
再発した腫瘍を切除できる場合は手術を行います(肝転移や肺転移、吻合部再発など)。
手術ができない(手術するメリットがない)タイプの再発であれば、抗がん剤治療を行います。
治療方針は、再発の種類、再発した場所、再発した腫瘍の個数、全身状態などに応じて様々です。
担当の医師と十分に相談の上で決めることになります。
再発時に「手術ができない」とはどういう意味なのか、疑問に思った方がいるかもしれません。
これについては以下の記事で解説していますので、ご覧ください。
ステージ4の胃がんや大腸がんはなぜ手術できないのか?
「再発したら終わりだ」といって大きなショックを受ける方がいますが、大腸がんの場合は特に、再発に対する治療の選択肢はかなり多くあります。
まずは、早く異常を発見するためにきっちりスケジュールを守って通院すること、万が一再発しても、焦らず担当の医師と十分に相談して作戦を練ることが大切です。
(参考文献)
「大腸がん治療ガイドライン 2019」(大腸癌研究会編)
術後の注意点などに関する以下の記事もご参照ください。