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コードブルー3 医師が解説|冴島看護師はなぜ優秀か?手術のリアリティ

前回の記事で、コードブルーでこれまでに出てきた道具の種類と、これらがいかにリアリティにこだわって使われているかを解説しました。

今回はその続編です。

手術で使う道具は、正確にはわかりませんが数100種類はあると思います。

ただのハサミでも、先端の形状や大きさ、角度などで様々な種類があります。

鉗子(かんし)も同じです。

これらの名前を、我々外科医とオペナースは正確に覚えているのですが、道具の名前を覚えているだけではオペナースは務まりません

コードブルーでは、冴島(比嘉愛未)が敏腕看護師として描かれますが、この優秀さの描写はきわめてリアルです。

冴島は第6話で自分が昔オペナースであったことを雪村(馬場ふみか)に話していましたね。

以前の記事でも書きましたが、ドラマ「A LIFE」のオペナース、柴田看護師は、優秀さが現実離れしていて違和感がありました。

しかしコードブルーの冴島は非常に「本物っぽい」優秀さです。

冴島が優秀であることを示すシーンはたくさんありますが、前回の第6話のシーンを振り返って見てみましょう。

 

藍沢の頭部処置の介助

倉庫内で突然倒れた若い作業員の、意識障害の原因が頭蓋内にあると判断した藍沢(山下智久)は、その場で穿頭(頭蓋骨に穴を開ける)を始めます

しかし最初に介助についていた雪村は、藍沢のペースについていけません

道具を要求されてもその場に見当たらず、なかなか手術が進みませんでしたね。

そこへ後発組としてドクターヘリでやってきた冴島がヘルプに入った途端、現場の雰囲気が一変します

藍沢が要求する道具を、次々とハイスピードで渡していきます

雪村もあまりの速さにあっけにとられてしまいます。

 

あのシーンでのポイントは、冴島は道具の名前を覚えているだけではなく、藍沢の手元を見て

「次に何が必要そうか」

というところまで常に頭をフル回転させているところです。

道具を要求されてから探したのでは、渡すのがワンテンポ遅れてしまいます。

次に必要だと予想されるものをいくつか手元に持っておいて、言われたら即座に出す、というシーンがリアルに描かれています。

また、このスピーディかつ確実な冴島の動きが、細かいカット割りで見事に表現されます

さらには、道具を渡しつつ、膝でバッグを定期的に踏んで換気もしていました(患者さんは挿管され、自発呼吸がありませんでしたね)。

とんでもなく優秀な看護師ですが、これは実際にしっかりトレーニングを積んだ看護師のリアルな姿です

 

前回記事でも紹介しましたが、第1話の手術シーンでも同じような場面があります。

白石が若手との手術に難渋しているところへ藍沢がやってきて、横からスッとお腹の中に手を入れると出血点がわかる、というシーンです。

白石が「見えた!(出血は)右の総腸骨静脈からだ」と言うと同時に、もう冴島はサテンスキー鉗子(遮断鉗子)を手にしています

そして無言で差し出された白石の手にサテンスキーを渡します。

ここには「サテンスキー」というセリフすらなく、あうんの呼吸です。

これも、慣れたオペナースが入った時の、非常にリアルなオペの光景です。

私たち外科医も、こういう慣れた看護師さんが介助に入ると、手術のリズムが非常に良くなり、快適に手術ができます。

 

「A LIFE」では、敏腕オペナースの柴田看護師が、わざと執刀医が要求したものと違う道具を、「こちらの方が使いやすいよ」と言わんばかりに渡すシーンがありました。

優秀なオペナースは、なまじっか腕が二流の外科医より優秀、という描写だと思いますが、実際にはありえないことです。

「次に何が必要か」というのは、術野の状況だけでなく、執刀医の好みや癖によっても変わります

優秀なオペナースはこれらも熟知しているからです。

 

ただし、コードブルーで描かれる看護師の優秀さは、救急やオペ室における特殊な仕事での優秀さです。

実際、大半の看護師は病棟勤務です。

病棟看護師の優秀さの意味は全く異なります。

たとえば、患者さんの状態の変化にいち早く気づいたり、状態が悪化しそうな兆候を感じとったり、先回りして動いたり。

患者さんの希望や辛さの感情をくみ取ることのできる観察力や話術も必要です。

実際、「この看護師さんにしか正直に心を打ち明けない」という患者さんはいます。

医者はその点でときに無力です。

こういう優秀な看護師さんが一定数いなければ、病棟は機能しません。

コードブルーでは、看護師という仕事の一部しか描写されていないのですね。

 

外科医だけが気づく細かなリアリティ

ここで、医師ですら多くの人が気づかない、細かなリアリティを追求したコードブルーのすごさを紹介します。

手術での服装に関する非常に細かいこだわりです。

 

手術に入る時は、帽子マスク水色のガウン手袋、という4点が必須アイテムです。

実は、この中のガウンと手袋の身に着け方には2通りあります

下手くそな絵ですみません。

上のイラストは手袋を先につけて、あとでガウンを着た場合、下のイラストはガウンを先に着て、あとで手袋をつけた場合です。

手首の部分で手袋が上か、ガウンが上かを見ると、どちらを先に身につけたかがわかります

コードブルーのこだわりがすごいのは、この2通りの身につけ方を細かく使い分けているところです。

 

一般にオペ室で行う普通の手術では、高度な清潔さが求められるため、手術前に5分〜10分かけて入念に手を洗います。

そして、その清潔な手でガウンをとり、看護師に着せてもらい、次に手袋を装着します

つまり、ガウンが先で手袋があとです。

 

一方、救急外来などでの緊急手術では、ゆっくり手洗いなどしている暇はないので、サッと石鹸で洗うだけになります。

そうすると、やや手の清潔度は落ちますから、その手でガウンを触りたくないわけです。

そこで最初に手袋を装着し(手袋は外側に触れずに装着できるように包装されています)、次にガウンを身につけます

手術ではない簡単な処置でも、手術ほど高度な清潔さは要求されないので、手袋が先でガウンがあとです。

 

コードブルーでは、これを丁寧に使い分けています。

第1話の救急外来での白石の手術シーンや、第2話の横峯の胸腔ドレーン留置灰谷のカテーテル挿入のシーンは、全て手袋が下でガウンが上です。

第3話では、ダメージコントロールとなった1回目の手術は救急外来で行ったため、手袋が下でガウンが上

2回目の手術はオペ室で行ったため、手袋が上でガウンが下です。

第4話では、藍沢と、ライバルの新海(安藤政信)が二人で脳外科手術に挑みますが、この場面はオペ室手術で、手袋が上でガウンが下です。

驚くべき細かいこだわりです。

きっちりプロが監修し、細かいところまでこだわっていることがよくわかります。

気になる方は見直してみてください。

 

とにかくコードブルーの医療シーンは、凄まじいまでの製作者のこだわりを感じます。

これから後半戦。

リアルで迫力のあるシーンを期待したいですね!

手術のリアリティについてはこちらでも解説しています

コードブルー3の手術シーンに外科医がリアリティを感じた3つのポイント

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