スピンオフ第5話は、ラストというだけあって迫力ある現場シーンを見ることができる。
しかし主役はまだ未熟なフェローたち。
藍沢らエースたちの素晴らしい技術が見られるわけではないが、フェロー達の泥臭い戦いも、それはそれで見応えがある。
どんな職業にも、成長途上の段階はある。
そこで迷いながら、努力の末に小さな成功を得た時の心地よさは、誰もが経験したことがあるはず。
そんな充実感を共有できる第5話を、徹底解説していこう。
フェローだけの当直
名取(有岡大貴)、横峯(新木優子)が当直の夜、本来指導医として当直するはずだった白石(新垣結衣)が学会出張のため、橘(椎名桔平)が当直することに。
橘は部長であり、何かあっても積極的には呼びにくい、と不安になる横峯。
急変や急患なしに当直を乗り切りたい横峯や名取の期待とは裏腹に、名取が担当していたICU患者が急変。
さらに、転落外傷でショックの患者が搬送されてくる。
橘を呼ぶも、外科の手伝い中で手が離せない状態。
この窮地をフェロー達だけで乗り切らなくてはならなくなってしまう。
名取がICUに向かうと、心臓外科当直の若手医師、木戸も到着していた。
木戸は卒後4年目、名取の一つ上の先輩だが、当直前に後輩の名取に豊富な知識を披露し、「何かあったら連絡して!」と胸を貸す発言をしていた。
患者は心タンポナーデを起こしており、心のう穿刺が必要な状態。
木戸は名取に、穿刺をやってみるよう指示する。
初めての穿刺に手間取る名取に、木戸は心のうの開窓を指示するが、やはり名取はうまく処置を行うことができない。
後輩として「チャンスを与えてもらっている」とばかり思っていた名取は、残念そうに木戸に交代を依頼する。
ところが、なぜか動揺した様子を見せる木戸。
交代しても全く処置ができず、
「実は4年間一度も患者の急変にあったことがなかった」
と告白し、上級医を呼ぶよう看護師に指示する。
患者はショックが進行し、心停止(アレスト)寸前の状態。
上級医を待つ余裕もない状況に意を決した名取は、この場で開胸を決意する。
名取に勇気付けられた木戸は、持ち前の豊富な知識を生かし名取をサポート。
クラムシェル開胸によって心タンポナーデの緊急ドレナージを成功させたのだった。
若手医師のあるある
第5話の木戸と名取のやりとりは、苦笑してしまうほどよくできている。
おそらくこのストーリーを見て、ドラマとして大げさに脚色してはいるものの、
「自分もこんな頃があったな」
と思う医師は多いはずである。
現場に出て4年目といえば、それなりに知識も経験も積み、自分に自信がついてくる頃。
どんな処置でもできると錯覚したり、木戸のように後輩に対して頼りにされたい年頃だ。
だが実際、臨床経験はたったの4年。
その経験の乏しさでは、不測の事態に対応することなどとても不可能である。
まさに今回、心のう穿刺ができなかった時点で、彼はパニック状態に陥ったのだった。
今回、木戸が取るべきだった選択肢はもちろん、急変した時点ですぐに上級医に連絡することだ。
卒後3年目と二人で未経験の処置を行うのは無謀すぎる。
だが、彼の気持ちもわかる。
彼は偶然にも急変を経験したことがないが、他にたくさんいるはずの同年代の若手医師の中で、「彼に限って急変を経験したことがない」という意外な事実を上級医はきっと知らない。
だから、まさか未経験とは今さら知られたくないし、指導医からの期待を裏切りたくもない。
彼は、高度な論文も書き、知識も豊富だ。
優秀な心臓外科フェローとして頼りにされているに違いない。
ここは自力で乗り切って褒められたい。
その上、救命センターの後輩、名取の前で心臓外科医としていいところを見せたいという思いもある。
何なら名取に成功させ、自分は手を下さず、
「先生の指導のおかげで処置がうまくいきました」
と名取に言ってもらいたい。
そしてそれが自分の指導医に伝わると、なお嬉しい。
思考回路としてはそんなところだろう。
こうした若手医師「あるある」を、やや脚色しつつもリアルに描くのがコードブルーの面白いところである。
心タンポナーデの処置
さて、心タンポナーデの処置についてはこれまで何度も書いてきた通りだが、簡単におさらいしておこう。
心臓は「心のう」という袋の中に入っており、この袋の中に血液がたまると心臓の拍動が妨げられる。
この状態を心タンポナーデと呼ぶ。
まずは体表から注射をして心のう内の液体を除去する必要がある。
これを「心のう穿刺」と呼ぶ。
今回は血液が凝固しており、針で固まった血液を吸引することができなかったため、直接心のうに切れ目を入れ、中の血液をかきだすことになった。
ここまでは、3rd SEASON第2話で、ドクターカー内で藍沢が行った処置と全く同じである。
藍沢も穿刺困難と判断した時点で開胸、手で固まった血液をかき出す、という処置を行なっている。
しかし今回、これでも視野が悪く心タンポナーデが悪化したことから、両側開胸、すなわちクラムシェルに踏み切った、という流れになる。
「クラムシェル開胸」はご存知の通り、2nd第4話で出て来た「二枚貝」のように胸を開ける処置である(図は再掲)。
コードブルーをこれまで見てきた人にとっては、ある意味おなじみの処置のオンパレード。
違うのは、フェローの名取が何とか苦しみながらも持ち前の冷静さで泥臭くやり遂げた、という面白さである。
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開胸肺門部クランプ
一方、転落外傷でショックの男性患者が初療室に搬送される。
当直でもない灰谷(成田凌)が、フェローだけの当直に参戦する気満々だったのを知っていた横峯は、灰谷に手伝いを依頼する。
男性は、右胸腔内に大量出血が見られ、すぐに止血が必要な状態。
こうした対応にまだ十分な経験はなかったが、藍沢らの処置を覚えていた横峯は、肺門部遮断を決意する。
サテンスキー鉗子で肺門部をクランプし、無事止血を得たのだった。
「胸腔内の損傷による大量血胸(胸の空間に血液がたまる)→肺門部遮断」
の流れは、コードブルーで何度か出て来たことのある重要な処置である。
肺は、肺門部で大きな動脈と静脈の通り道があるため、ここを遮断すれば一時的に出血を止めることができる。
2nd第7話では、冴島がサテンスキーを救急バッグに入れ忘れる、というミスを犯したせいで「ハイラーツイスト」という妙技が登場するが、目的は同じである。
この記事の中で、臓器にはデパート型と自宅型があり、自宅型の場合は玄関だけを遮断すれば良い、という話を書いた。
今回もそれを思い出せば分かりやすいだろう。
(血液の入口と出口がたくさんあるデパート型の臓器は、1箇所の遮断だけでは止血できない)
彼らにとって肺門部遮断は初めてであり、戸惑いながらであるのは当たり前。
だが、注目すべきは患者搬送後の彼らの動きである。
まず静脈ラインを取る横峯、胸郭を押さえながら診察する灰谷。
さらに灰谷は、ポータブル胸部レントゲンを指示した上で、FAST(エコー)を用意。
胸腔内出血を疑った横峯は、ドレーン(管)の留置を指示。
意識が危うくなり、気道が怪しくなったところで横峯が挿管。
まさにABCを意識しつつ、外傷に対するプライマリーサーベイを淀みなく行なっている。
その後の処置に未熟さを感じたかもしれないが、むしろフェロー達がここまで成長したことに注目してほしいところだ。
この一連の動きがなぜすごいのか?
これについては、これまでこのブログを読んできた方ならすぐにわかるはず。
まだ読んでいない方はぜひ、以下の記事を順に読んでいただけたらと思う。
救急対応のABCとプライマリーサーベイについて
コードブルー1st 第5話感想|外傷プライマリーサーベイを全て解説!
ポータブルとFASTの指示について
劇場版コードブルーのネタバレなし記事はこちら!