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コウノドリ第5話は、死産分娩と、それに関わる産科医、助産師たちの苦悩が描かれました。
今回は、用語や病気に難しいものがあったわけではないので、少しだけ解説したのち、私の感想を書いてみたいと思います。
今回のあらすじ(ネタバレ)
鴻鳥(綾野剛)が担当する妊娠27週の妊婦、西山瑞希さんが切迫早産のため急遽入院することになります。
同じく切迫早産で入院している別の妊婦と同じ病室に入ることになり、助産師の小松(吉田羊)が瑞希さんを紹介。
同じ境遇の2人は仲良くなりますが、その後のエコー検査で瑞希さんは子宮内胎児死亡と知らされます。
大きな精神的ショックを受ける瑞希さんを鴻鳥と小松が支えます。
死亡した胎児が子宮内に居続けるのは、母体にとっては危険。
数日後、死産分娩を行いました。
何も知らない同室の妊婦は、瑞希さんが無事に出産したものと思い込み、
「赤ちゃん元気?」
と声をかけます。
辛い表情で、
「元気な赤ちゃん産んでね」
と瑞希さんは答えました。
一方、下屋(松岡茉優)が緊急帝王切開を行なった超低出生体重児のベビーは、動脈管開存症が内科的治療で閉鎖せず、手術が必要になります。
しかし両親は、障害が残るかもしれないなら手術を受けさせたくない、とNICUの今橋(大森南朋)に告げます。
両親に、
緊急手術の時も十分に納得してはいなかったが、切羽詰まった下屋の説明や周囲の雰囲気を見て、同意書にサインするしかない状況に追い込まれた
とまで言われ、落ち込む下屋。
しかし四宮(星野源)は、
「大松さんのカイザー、お前後悔してるんじゃないだろうな?そうだとしたらナンセンスだぞ」
「目の前に車に轢かれて死にそうになってる人間がいたら誰だって助けるだろ。その命を救った後に障害が残るかなんて誰も考えちゃいない。緊急オペってのはそういうもんだ」
と、帝王切開を選んだ下屋の行為が間違いなく正しかったと勇気付けました。
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子宮内胎児死亡とは?
少しだけ言葉を整理します。
妊娠22週未満の出産(妊娠の中絶)は「流産」、22週以後37週未満の出産は「早産」です。
これが差し迫った状態のときに、「切迫」をつけて「切迫流産」や「切迫早産」とします。
37週から41週の出産が「正期産」ですね。
一方、「出産」や「分娩」という言葉は胎児の生死を問いません。
そこで生死を分類するため、生きている出産を「出生」、そうでないものを「死産」と呼びます。
(法律上は妊娠12週以降の死児の出産=死産)
また、胎児が子宮内で死亡することを「子宮内胎児死亡(IUFD)」と呼びます。
ドラマ中でも説明があったようにこの状態を持続させるのは危険で、出産の必要があります。
胎児のトロンボプラスチンという物質が母体の血液中になだれ込み、「播種性血管内凝固症候群(DIC)」を起こすからです。
今回鴻鳥が説明した「血が固まりにくくなる」というのは、このDICのことです。
全身で血が固まりにくくなって致命的になります。
また四宮が説明したように、IUFDの4人に1人は原因不明とされています。
原因がわかるものは、母体側の原因と胎児側の原因に分けられます。
前者は、妊娠高血圧症候群や母体の病気(糖尿病や腎疾患、膠原病など)、子宮の異常など、後者は、胎児奇形や染色体異常、感染症、臍帯の異常など、様々です。
(妊娠高血圧症候群については「コウノドリ2 第1話 解説|妊娠高血圧症候群&ヘルプ症候群、心室中隔欠損とは?」参照)
通常、経腟超音波で胎児の心拍が確認できるのは、妊娠5週の始めから、遅くとも6週末です(お腹にエコーを当てる「経腹」超音波では8週)。
したがってそれ以後で心拍が確認できない場合はIUFDの疑いがあることになります。
私の知人でも37週でIUFDを経験した方がいますが、出産予定日が近ければ近いほど、ベビーベッドやベビー服、ホームビデオなど出産後の準備が整ってくるため、本当に辛いと思います。
また一度IUFDを経験すると、次の妊娠への恐怖もあることでしょう。
そしてそれを伝える産科医も辛い仕事だと思います。
この辺りは私が語れることではありませんのでこのくらいにしておいて、ここからはドラマ中に少し気になったセリフについて私の考えを述べます。
大部屋での患者さん同士のプライバシー
私も全身麻酔手術を受け、3週間近く入院したことがあります。
長期入院で個室代を支払う余裕もなく、大部屋で過ごしました。
大部屋では医療者がかなり気を遣わないと個人情報が筒抜けになります。
カーテン越しに、医師と患者さんの会話が容易に聞こえてしまうからです。
私は医師と患者を両方体験しているので、大部屋の患者さんに話す時は、周囲の人に聞かれても良い会話かどうか、かなり気を遣って話します。
そうでなければ、別室に移動して話すようにします。
切迫早産で入院する場合は、分娩時の入院と違って個室でないことが多いため、ドラマのように同じ境遇の人たちが仲良くなることもあるでしょう。
しかし今回のように「お互いの個人情報を一部分だけ知っている」という状況は大きな誤解を生みかねません。
助産師の小松が病状も含めて詳しく「他己紹介」をするのはどうなのかな、と私は違和感を持ちました。
少なくとも私たちはしませんし、病棟の看護師がそういうことをしている姿を見たこともありません。
同室者と腹を割って話したいかどうかは本人次第ではないかと思います(産婦人科病棟ではどうなのかわかりませんが・・・)
プライバシーを守りたければ個室にすれば良い、という意見があるかもしれません。
しかし私が「入院は個室か大部屋(相部屋)どっちがいい?値段はどう違う?」の記事でまとめているように、個室料はおよそ1泊1万以上、病院によっては2万を超えます。
長い入院でこの出費に耐えられる人は決して多くないと思います。
ちなみに私が入院した時、カーテン越しの前のベッドの人は末期の前立腺癌の高齢男性でした。
辛い境遇のはずですが、いつも明るく、見舞客と楽しそうに話していました。
カーテン越しでも声が聞こえるのでよくわかるのです。
「俺は末期癌だから!」
といつも冗談のように言っていました。
担当の医師に、検査の結果が悪いという話をされた時も、
「末期癌だからそんなのわかってるよ!」
と笑い飛ばしていましたが、その後すぐに家族に電話し、話しながら泣いていました。
こういうプライベートな情報は、医療者も相当気をつけないと大部屋では周囲に筒抜けです。
この男性は知られても良いと思っていたかもしれませんが、そういう方ばかりではないですから。
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四宮らしくないセリフ
もう一つ、私が気になったセリフが四宮の、
「その命を救った後に障害が残るかなんて誰も考えちゃいない。緊急オペってのはそういうもんだ」
でした。
私はドライで現実的な四宮の考え方にいつも同意するのですが、このセリフに関しては少し違った考えを持ちました。
もちろん産科医は相手が赤ちゃんなので、こういう発想が普通なのかもしれません。
しかし今回四宮のたとえに出てきたのは「車に轢かれて死にそうになっている人間がいたら」でした。
それを聞いて「私たち外科医はそうではない時も多々あるな」と思いました。
多くの内科系、外科系医師は、担当する患者さんの多くは高齢の方です。
若い人はあまり病気になりませんからね。
高齢の方は、突然重い病気になって生死をさまよう状態になることが多々あります。
こういう時、ご本人に苦痛を与えてでも、何がなんでも助けることをご本人が望んでいるのかどうか、少し立ち止まって考えなければならないことがあります。
どれだけ緊急な場面でも、この時だけはゆっくりご家族とお話をしなければならないこともあります。
救命しても、脳に重い後遺症が残る。
人工肛門が必要になる。
食事が摂れなくなる。
歩けなくなる。
話せなくなる。
こういう方々を今後看ていくのはご家族であって、私たち医療者ではありません。
命を救った後にどの程度障害が残るリスクがあるのか、どんな緊急オペでも考えなければなりません。
その上で患者さんにとってベストな治療を考える必要があります。
これは私がコードブルーの解説記事「コードブルー1st 最終回解説②|藍沢が語る救命の限界、その先にあるもの」で書いた通りです。
四宮は私が一番好きなキャラクターなのですが、おそらくこれまでで唯一、考え方が異なると感じたシーンだと思います。
周産期に関わる医療者と、成人を相手にする私たちとでは考え方が全く違うからでしょうね。
コウノドリは、リアルで真面目なドラマで色々と考えさせられる分、見終わるとどっと疲れるドラマでもあります。
何も考えずに見られるドクターXの方が好きという人の気持ちもわかる気がしますね。
(参考文献)日産婦誌59(6,11)