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アンナチュラル第5話 感想&解説|溺死体が発する苦しみのサイン

学生時代の法医学の講義で、私が最も印象に残っているのが「溺死」の回である。

水中で死体が発見された場合には、以下の3パターンを考えなければならない。

溺れて死亡(溺水)

水中で起こった急性の病気で死亡したもの

別の場所で殺害され、水中に投棄されたもの(他殺)

さらに、溺水は自殺と他殺に分類することができる。

アンナチュラル第5話でも、溺死について法医学的に重要なポイントが描かれた。

ミコトたちが当たり前のように指摘していく死体の所見やCTの読み方など、今回のポイントとなったシーンをわかりやすく解説していこう。

 

今回のあらすじ(ネタバレ)

青森から、若い女性の溺死体の解剖依頼がUDIに入る。

依頼したのは、その女性の夫と名乗る男性。

埠頭から海に飛び込む姿を地元の釣り人に目撃され、自殺と断定された妻の死に納得できないという。

ミコト(石原さとみ)、中堂(井浦新)らは解剖を開始するが、死体は男性が葬儀場から盗み出したものだったことがわかり、解剖作業は中断。

真相究明のため独自に調査を続けたUDIのスタッフたちは、死後の肺に疑問を抱く

溺死の割には肺の膨らみが小さく、水の吸い込みが少ない、いわゆる「ドライドローニング」の所見があったからである。

入水時に意識を失っていたのではないか

 

女性が誰かに突き落とされ、水面に顔面を強く打ち付けて起こる「エベック反射」の可能性に気づいた中堂は、他殺の可能性を男性に報告。

犯人は、海から飛び込む姿を釣り人に目撃させ、自殺を偽装したのであった。

中堂の助言によって犯人が女性の同僚であることを割り出した男性は、ミコトらの目の前で犯人をナイフで刺してしまう。

男性の人生をも変えてしまった中堂を責めるミコトに、

「思いをとげられて本望だ」

と言う中堂。

中堂もまた恋人を誰かに殺され、その死の理由を求めて悩み続けていたからだった。

 

法医学で学ぶ溺死体の特徴

冒頭で書いたように、水中で死体が発見された場合、

それが溺死か否か

がまずは重要となる。

特に、他の場所で殺され、死体が水中に投棄された可能性は見落とせない

そこで法医学的には、溺死体に特徴的なポイントを頭に入れておくことが重要になる

 

口と鼻の泡沫

まず一つ目は、現場でミコトがまず指摘した「口と鼻の泡沫(ほうまつ)」である。

つまり、口や鼻の表面についた「あわ状」の水のこと。

溺れたとき、人は苦しさのあまり必死で呼吸しようとする。

しかし水中に空気はないので、気管を水が激しく出入りすることになる。

気管の水と空気が激しく撹拌(かくはん)され、泡状になって、死後に気管から押し出されてくるわけだ。

 

溺死肺

二つ目は、「溺死肺」と呼ばれる特徴的な肺の姿である。

溺れている最中の激しい呼吸運動で、肺にもともとあった空気が肺の隅へ押しやられ、肺が大きく膨らむことになる。

時に左右の肺が接するくらいまで大きくなることもある。

また肺の中に水が入り込み、肺水腫(すいしゅ)と呼ばれる状態になる。

今回ミコトが説明したように、CTでは肺が「すりガラス状」になるのが特徴だ。

 

プランクトン

三つ目は、体内に侵入したプランクトンの存在

溺れた際、口から海水または淡水が侵入し、肺を経由して血管内にプランクトンが侵入する。

これが全身の各臓器にたどり着くため、これを検出することができれば溺死を証明できる。

今回ミコトと中堂が自宅でいわば「DIY」のごとく検出しようとしたのもプランクトンだった。

 

ところが、ここで一つの疑問が浮上した。

死後に撮影されたCTで肺が正常のサイズだったことである。

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実際にはどんな可能性を考える?

溺死直後の肺は膨張していても、時間がたつと元のサイズに戻る。

よって死の5日後に行われた解剖時には肺が正常のサイズでも疑問はない。

だが死の直後に撮影されたCTが正常となると話は別である

 

そこで今回ミコトらは、入水後すぐに意識を失っていた可能性を考え、エベック反射(顔面反射:顔面を強く打ったことによる反射)で意識を失った、という答えを導き出した。

口から吸い込む水分量が少ない溺死(ドライドローニング)だったということだ。

ここからは急転直下で、

「他人から突き落とされて顔面を水面で強打した」

という結論に一気に辿り着く

 

実際ならここで、

突然冷たい水に入った際に迷走神経反射が起こって失神した可能性

高いところから飛び降りたため、水面に到達するまでに失神していた可能性

水中で何らかの急性疾患を発症して意識レベルが低下した可能性

を考えるため、自殺を否定することは全くできない

ここからがむしろ法医学の腕の見せ所で、面白い部分でもある。

むろんドラマでは尺の問題があるため、ここはツッコミを入れるべきところではないのだが、現実には重要なポイントである。

 

私が学生時代に法医学を学んだとき、死体がいかに多くの情報を発するか、ということに驚いた記憶は今も鮮明だ。

この情報はいずれも、

「死にゆくまさにその最中に、『苦しみの象徴』として発信されている」

というところに、何とも言えない「歯がゆさ」や「もの悲しさ」を感じる。

溺水による死亡では「口と鼻の泡沫」、絞殺なら「首についた激しい引っかき傷」と、「爪の間に残る大量の垢(皮膚の角質)」

興味深いとは言え、決して「面白い」とは言いづらい学問である。

引き続き、アンナチュラルで法医学の世界を思い出す作業を続けてみたいと思う。