第6話はこれまで以上にミステリー色が強く、医学的には非現実的な設定が多かった。
特に、遠隔操作で腕から通電させ、第4頸髄(C4)だけを狙い撃ちで障害できるのは、さすがにドラマの世界だけである。
これを見抜いた中堂の天才性も凄まじいが、彼の、
「C4神経は腹の横隔膜に繋がっている。C4神経が麻痺すれば横隔膜も麻痺して動かなくなる」
というセリフは医療現場においては重要である。
また法医学の領域において今回の「感電死」も非常に重要な分野。
知識を紹介するという意味で今回もいつも通り解説しておこう。
今回のあらすじ(ネタバレ)
UDIラボの臨床検査技師、東海林(市川実日子)は、所属する高級会員制ジムのパーティーに参加中、一人の男性と飲み交わした後記憶を失う。
目がさめると見知らぬホテルの一室で、横にはその男性の死体。
すぐに駆けつけたミコト(石原さとみ)は、男性のチアノーゼを見て、窒息死の可能性が高いと判断する。
一方、同じタイミングでUDIにも別の男性の遺体が運び込まれていた。
その男性もまた同じジムの会員であり、同じく窒息死の所見がある。
しかも二人には腕と耳の後ろに同じ赤い傷。
彼らはジムで、バイタルデータを取得できる腕時計型の装置を腕につけ、耳にイヤーカフをつけていたことが発覚する。
この誤作動による感電死が死因であった。
中堂(井浦新)は、この装置のX線検査から、遠隔操作で通電できる機能が備わっていることを見抜く。
腕から流れた微小な電流がイヤーカフで増幅、第4頸髄(C4神経)をピンポイントに麻痺させ、そこから神経支配のある横隔膜を麻痺させて窒息させた、という流れを中堂は見事に言い当てる。
調査の結果、容疑者としてこの装置を開発したジム仲間の別の男性が浮上。
仮想通貨を巡る金銭トラブルが殺害の動機だった。
当初、殺害の容疑をかけられた東海林はこれにより、無事に解放されたのであった。
中堂の天才性と脊髄の仕組み
今回は、医学的にはやや無理のある設定である。
感電死は重要な死因ではあるが、横隔膜を支配する第4頸髄(C4)だけをピンポイントに狙う、というのはまず無理だろう。
だが、天才医師中堂の「C4神経障害からの横隔膜の麻痺」という説明は詳しくてわかりやすく、その内容は医療現場では重要である。
脊髄は上から順に、
頸髄、胸髄、腰髄、仙髄
に分かれている。
これらは英語の頭文字をとって、C、T、L、Sと略し、さらにこれに番号をつけて区画を分割している。
たとえば頸髄は8つに分かれているので、C1、C2、C3、C4、・・・C8といった具合である。
Tは12個、Lは5個、Sは5個に分かれており、それぞれが体のどの部位を神経支配しているかが国家試験で出題される。
中でも特に重要なのが「C4(第4頸髄)」で「横隔膜を支配する領域」である。
ここが麻痺すれば呼吸ができなくなり、人工呼吸なしでは死亡するからだ。
神経の信号は、脳から脊髄をおりて来て対象となる臓器に向かう。
よって、C4より上の領域が障害されると、「C4以下」には大脳からの運動指令が伝わらない。
C6〜8の麻痺で両手は動かず、T以下の障害で両足は麻痺するだけでなく、C4で支配されている横隔膜が麻痺してしまう。
逆に言えば、C4より下の損傷であれば、「呼吸はできる」=「一刻を争わない」という判断が可能だ。
その境目となる重要な領域がC4である。
ちなみに、無痛分娩で呼吸停止し死亡した事例が複数報道されたが、これは麻酔薬がC4付近まで上がったことによるものである。
感電死の重要性
今回は遠隔操作による感電が死亡の原因であった。
法医学において、感電死の所見は重要である。
感電での死亡は、心臓に通電して致死的な不整脈(心室細動)をおこすケースが多いとされている。
よって「感電した瞬間の即死」である。
今回の「脊髄の一部がピンポイントで麻痺する」というのは、「感電死による窒息」というトリッキーな死因を導くための、非現実的な設定である。
これによって、
「胸を押さえて悶え苦しみながら死んでいく」
という「ドラマ的な」死に方を実現することができる。
「飛行機を操縦中に気づいたら冷たくなっていた」ではドラマにもならないからだろう。
これまで解説してきた通り法医学では「外観」が大事。
感電死の特徴は「電流斑」と呼ばれる皮膚の所見だ。
通電した部分に一致して、赤いやけどのような痕跡が残る。
詳しく見ると、中央部分は通電した際にできる黒い点と、周囲に白い斑点ができ、その周りが赤く腫れるのが特徴だ。
今回はこの所見が細かく作り込まれているので見直してみてほしい。
ちなみに電線に関わる作業中や、工場などの電気機器の充電部の接触など、労災による感電例は少なくない。
私もこれまで救急での診療歴は何度かある。
電流が通ったライン状に心臓や脳など重要な臓器がなければ死は免れるものの、危険な外傷である。
というわけで今回は、脊髄と感電の仕組みについて説明した。
ドラマの内容からややかけ離れてはいるが、知識の整理として使っていただければ幸いである。
第7話の解説はこちら!