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アンナチュラル第7話 感想&解説|医学部の法医学の講義で最初に学ぶこと

ミステリードラマとしてますます面白くなるアンナチュラル。

第7話では、遠隔からの映像を使って法医学者のミコトが死因を言い当てる、というストーリーだった。

今回ミコトが死体の変化を表す言葉として使った「角膜混濁」「死斑」「硬直」などは、法医学の分野で使う大切な医学用語だ。

 

一方、今回の死に方を見て、

ナイフに倒れこむだけで簡単に死ねるのか?

と思った方も多いだろう。

医学的にはやや違和感のある死に方も含め、これまで同様、法医学的に第7話を解説してみようと思う。

 

今回のあらすじ(ネタバレ)

三澄ミコト(石原さとみ)の弟の友人、白井からミコトに一通のメールが届く。

メールに貼られたリンクをクリックすると、白井が自分で殺したというクラスメイトの遺体が映る。

彼が「殺人実況生中継」としてインターネットを通じてライブ配信していたのだった。

白井はミコトに電話をし、映像から死因を割り出すよう要求する。

白井が通う高校教師らが調べた結果、遺体は白井のクラスメイトである横山であった。

 

勝負に乗ったミコトは、遺体の角膜の所見や死斑の出方、硬直の程度から、死亡時刻を推定

さらに背中にある3箇所の刺し傷と、腹部の3箇所の皮下出血から、刃物が背中から体を貫通したと推測する。

傷が3本とも垂直であることを不自然に思ったミコトは、横山が自ら突き立てたナイフの上に倒れこみ、他殺に見せかけた自殺であることを見抜く。

殺害場所になった高校の用具室に残された粉の痕跡から、ナイフを固定するために紙粘土を使ったことが発覚。

 

ミコトは高校教師らへの聞き取り調査により、横山と白井がクラスメイトにいじめを受けていたことを知る。

横山は彼らを殺人犯に仕立てあげて自殺、白井はそれを全国に知らしめるために生中継を行なっていたのだった。

 

法医学で最初に学ぶ死体の所見

私たちが法医学の講義で最初に学ぶのが「死体現象」である。

おそらくどの大学医学部でも、法医学講義の第一回目のテーマはこれだろう

死体現象とはつまり、「人が死んだあと時間の経過とともに体に現れる変化」のことである。

私たちは、

「死後何時間後に、どの部位に、どんなことが、どんな順番で起こるのか」

を逐一覚えるわけだ。

その目的はもちろん、死体の所見から死亡時刻を推定するためである

中でも特に重要とされるのが、死斑、硬直、体温、体の乾燥である

 

死斑

私たちの体は、生きている時は血液が常に循環しているため、血液がひとところにとどまることはない。

しかし死んでしまうと血液は循環をやめ、重力に従って体の下面に移動す

皮膚の下にたまった血液が表面から透けて見えるようになるのが「死斑」である

死体が仰向けに置かれていれば背中が、うつぶせに置かれていれば胸と腹側が広く紫色に変化するわけだ。

死斑は死後2時間ほどたつと現れ、10〜12時間程度で完成する

今回ミコトが即座に行なったように、死斑の程度を見れば「死後何時間経ったか」が推測できるのである。

もちろん、死体がどの向きに置かれていたのかも、死斑の出方で推測可能だ。

 

死後硬直

「死後硬直」はドラマや小説でよく出てくるため、これだけは一般に広く知られた言葉である。

人は死ぬと、筋肉が徐々に硬くなってくる。

これによって関節が動きにくくなり、最終的には全く動かなくなるまで固まってしまう。

死後2時間程度から始まり、8〜12時間で完成する

実はこの後2〜4日経過すると再び体がやわらかくなってくるため、硬直の程度によって死亡からの時間が推測できる。

ミコトは今回、画面に写った死体の硬直の程度から即座に死亡時刻を推測していた。

 

死体温

私たちの体には、周囲がどれだけ暑くても寒くても、36度前後の狭い範囲に体温を維持できる機能が備わっている。

当然死亡するとこの機能は失われるため、徐々に外気温に近づいていく。

通常、1時間あたり0.5〜1℃低下していくため、体温を測れば死亡時刻が逆算できるわけだ。

体温だけは遠隔で判断できないため今回の放送では出てこなかったが、今後登場する可能性はあるだろう。

 

乾燥

私たちの体には水分を維持する機能が備わっている。

当然死体になると、体の表面から水分は蒸発していく

中でも特にわかりやすいのが角膜である。

角膜は眼球の表面を覆う膜で、水分で満たされているため、これが蒸発することで次第に濁ってくる

ミコトが見抜いた「角膜混濁」はこれである。

1〜2日で角膜が完全に濁ってしまい、瞳孔が見えなくなってしまう

気温や、目を閉じていたか開けていたかによって水分の蒸発にかかる時間が異なるため、ミコトは、

「瞼を閉じた状態で今の季節なら・・・」

と言いながら死後経過した時間を推測したわけだ。

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ナイフに倒れ込めば死ねるのか?

自殺を目的としてナイフをお腹に刺したり、他人からナイフで刺されたり、といった外傷を診療した経験は私も多くある。

こうした腹部外傷に対する手術は外科医の仕事である。

筋肉はかなり固いので、よほど体重を乗せて刺さない限りまっすぐに刺すことは難しい

これはミコトが今回指摘した通り。

筋肉の抵抗に負けて上下にずれたり、途中で止まったりすることも多い。

 

特に自分で自分の体に刺す場合は力が入りづらいため、

「頑張ったけれど少ししか刺さらなかった」

というのはよくあるパターンだ(もちろんこの場合は恐怖心のせいもある)。

 

さて、細かいところに大人げなくツッコミを入れるとすると、「肝臓を狙う」というのはかなり妙な話である。

肝臓は肋骨に覆われているので、外からナイフで狙うのは至難の技だ。

肋骨の隙間から、ナイフを横にしてうまく狙えば可能かもしれないが、ナイフに倒れ込んだだけでは難しい。

右のあばらの下から上方向へえぐるようにナイフを刺さなければ肝臓には刺さらない

一方、それだけ苦労したとしても、肝臓の損傷だけで瞬時に命を断つことは難しい

死亡までにはそれなりの時間がかかってしまうだろう。

 

お腹の中で最も太い血管は大静脈(「下大静脈(かだいじょうみゃく)」と呼ぶ)である。

これをナイフで完全に損傷すれば、おそらく1〜2分で心停止する

その次に太いのが大動脈だが、大動脈は表面が硬いため、完全に損傷するのは難しい。

(他の記事にも書いたことがあるが、全身の血管は総じて動脈より静脈の方が太く、損傷した時の止血は大変である)

 

こんな知識は、覚えていてもまず役には立たないが、自分の体について知っておいても悪くはないと思ったので解説した次第である。

というわけで今回も、本編のストーリーから大きく逸脱し、勝手気ままに解説してみた。

楽しんでくださる方がいらっしゃれば幸いである。